整理技術研究グループ月例研究会報告
AACR3第T部からRDA第T部へ:
記述規則の新しい構造の模索
古川肇(近畿大学・川村学園女子大学)
- 日時:
- 2006年3月25日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪市立浪速人権文化センター
- 発表者 :
- 古川肇氏(近畿大学・川村学園女子大学)
- テーマ :
- AACR3第T部からRDA第T部へ:記述規則の新しい構造の模索
- 出席者:
- 有信優子、石田康博(名古屋大情報連携基盤センター)、江上敏哲(京都大情報学研究科図書室)、蔭山久子、川崎秀子(佛教大)、河手太士(大阪樟蔭女子大図書館)、土居(同志社大)、藤井(大阪成蹊大図書館)、堀池博巳(京都大情報環境部)、松井純子(大阪芸術大)、村上幸二(奈良文化女子短大)、山野美贊子(帝塚山学院大非常勤)、吉田暁史(帝塚山学院大)、渡邊隆弘(神戸大図書館) 古川<15名>
AACR(英米目録規則)の抜本的改訂作業が進行中である。本発表では、2005年12月のRDA(Resource Description and Access)第T部(記述)案が、それまでの経過を踏まえて検討された。
1.AACR3第T部案(2004.12)
- 2004年の段階で"AACR3"のタイトルで改訂草案が発表された。案の全文はJSC(英米目録規則改訂合同運営委員会)の構成団体にのみ示され、一般公開されていない。草案起草者は以後デルジー(T.
Delsey)である。
- Section A「一般規則」、B「特定の内容種別に適用される補遺規則」、C「特定の媒体種別に適用される補遺規則」の3章から構成される。デルジーによるエリア別構成の勧告(1998年)、およびJSCによる一般規則と補遺規則の組み合わせの方針(2004年)に沿い、資料種別間で相違する規定の一般化を図ったものとなっている。
- GMD(一般資料種別)が内容種別と媒体種別の2系列とされた。2003年にデルジーは「内容記述」「技術的記述」「刊行様式」等による章立てを提案しており、内容・媒体の区別はその流れを汲むものである。なお、「内容」はここでは内容の表現手段(文字、音符、地図記号等)を指すと解される。
- 2003年デルジー案の「刊行様式」は、本案ではSection A内でA2「継続刊行資料」とA3「更新資料」の節を設けることとなった。このうち継続刊行資料は逐次刊行物だけでなく継続多巻資料を含んでおり、近年の「継続資料」の枠組みを崩している。
- "focus for the description"という用語が登場した。文書群や構成部分にも言及され、粒度の意識の強化が見られる。
2.案への批判と2005年4月のJSC定例会議
- AACR3第T部案には、各団体から多くの批判が出された。全体に関わるものでは「原理の変更ではなく大部分が不必要な改造」「multiple
versionsの問題等が解決されていない」「エリア別の章構成に徹底すべき」「転記の原則を見直すべき」「電子媒体の記述は依然として明快でない」等の批判があった。
- 2005年4月の定例会議で、JSCは諸意見に基づき改訂方針の見直しを行った。一般規則と特殊規則を関連するエレメントの下にまとめる構成とすること、継続刊行資料・更新資料の規定を一般規則に含めること、記録に関する指示と表示に関する指示を分離すること、等が示された。方針転換を示すため、ワーキング・タイトルをAACR3からRDAへ改題することも決定された。
3.RDA第T部案(2005.12)
- 2005年12月から本2006年1月にかけて第T部案が一般公開された。序論に続けて、第1章"General
guidelines on resource description"、第2章"Identification of
the resource"、第3章"Technical description"、第4章"Content
description"、第5章"Information on terms of availability, etc."、第6章"Item-specific
information"という6章の構成である。
- 区切り記号、項目順序等のシンタックスは第T部には含まれない。付録DでISBDによる表示形式等を示し、第T部はセマンティクスに特化する。
- AACR2第T部と概括的に比較すると、非書誌的事項(第5章)、個別資料(第6章)、シンタックス(付録D)を分離し、残りを転記事項等(第2章)、形態事項(第3章)、内容事項(第4章)に三分したと見られる。注記に関する規定は関係部分に分散された。
- 第1章では、用語定義や記述の種類、転記の原則等を規定している。記述の種類として「全体記述」「部分記述」「多段階記述」を提示するが、標準を定めておらず不十分である。
- 第2章(章のタイトルは不適切)では、「タイトル」「責任表示」「版」「順序表示」「出版者等」「出版地等」「出版年等」「シリーズ」のエレメントごとに項をたてて規定を設けている。例えば「タイトル」では、本タイトルからキータイトル等までの様々な種類のタイトルと、タイトルに関する注記を収めている。ただ、タイトルにかかわる「シリーズ」や「内容細目」(第4章)が分離して存在する配置は、中途半端である(シリーズと内容細目は、異書誌レベルの記述として独立の章を立てるべきと思われる)。
- 版表示について、ISBD(ER)やNCR新第9章に見られる電子資料特有の規定は依然として存在しない。
- 第3章は、媒体・キャリアの区分が未提示のため、評価しにくい。選択肢の一つとして複数の相異なるキャリアすべてについて記録することが容認された。また、数量についてユニットとサブユニット(例:冊数とページ数)を明確に区別した点は評価できる。
- 第4章では、従来の注記事項のうち内容に関わるものが扱われる。「内容」が表現手段ではなく、字義どおりの意となった点がAACR3案とは異なる。内容についてもその区分は未提示である。
- 第3,4章とも、独立の章とする理由に乏しい。GMDの系列の設定と章構成は別の問題であり、第2-4章全体(シリーズと内容細目を除く)をエレメント別に再構成したほうがよいと思われる。
- 第5,6章を他と分離させたことは評価に値する。
4.おわりに
公開から間もないが、RDA案への批判もすでに公にされつつある。RDA案は成案のレベルに達してはいず、試案の域にとどまっていると評価するのが適当である。現時点でのRDA全体の完成予定は2008年であるが、なお曲折が予想される。
→ 発表レジュメ
参 考:RDA:Resource Description and Access
http://www.collectionscanada.ca/jsc/rda.html
追 記: 本発表内容の範囲を含む次の論文を、古川氏が発表されました(2006.7追記)
古川肇「未来の記述規則−AACR3第T部案からRDA第T部案へ」『資料組織化研究』52,
2006.6. po.1-16
(記録文責:渡邊隆弘)