公共・大学を問わず、OPACに関する調査分析は、21世紀に入ってからほとんど行われてないといってよい。「次世代OPAC」の議論が盛んになっているが、改革のためには現状を正確に把握する必要がある。本発表では、日本図書館協会「中堅職員ステップアップ研修(2)」で「OPAC評価の実際」を担当してきた経験をもとに、公共図書館のWebOPACについて基礎的な整理を試みる。
都道府県立図書館の47システムと、近畿2府4県の市町村立図書館の136システムについて、導入システムの分布を調査してリンク集を作成した。OPACのメーカー名やシステム名に関する情報公開は少ないため、基本的には画面構成や動作からの推測によって判断している。
都道府県立、市町村立のいずれも、8割弱がNECと富士通で占められていた。都道府県立では他にNTTデータ、日立、リコーがあり、計5社の導入実績がある。市町村立でもNECと富士通で8割弱を占めるが、都道府県立と比較するとNECの比率が高かった。他には、三菱、日立、京セラ丸善、日本電子計算、日本IBMの各社のシステムが見られた。
いくつかの機能について、現状把握を試みた。時間的制約により調査範囲を縮小し、都道府県立と大阪府・兵庫県下の市町村立を対象とした。
各システムの検索語入力画面の構成を分類したところ、約半数が複数のキーワード入力枠をもった検索画面のみからなっていた。大学図書館のOPACにおいては入力枠が1つだけの簡易検索画面をデフォルトとし、その入力枠を図書館トップページに配することも多い。比較すると、公共図書館の検索画面は総じて複雑である。
それでもトップページに検索窓を配する図書館は増えてきており、都道府県立では3割程度に達する。ただ、もともと複数あった入力枠の一つを切り取ってトップページに配しているため、複数キーワードの入力を認識しない(空白で区切ってもAND検索にはならない)システムも多い。
詳細検索画面の設計においては、検索対象項目ごとに固定枠を配する方式のシステムと、数行並べた入力枠のそれぞれにプルダウンを設定して対象項目を選択させる方式のシステムとがある。プルダウンの設定は、同じシステムでも図書館ごとに違いがあり、裁量の余地がかなりあるものと思われる。利用者にわかりやすい表現のための努力もうかがえる一方、極端に選択肢の多いものや「全項目」の選択肢がないものもみられ、問題なしとしない。
タイトルの表記形など、分かち書きされていないデータ項目を、項目中の単語から自由に検索するためには、全文検索技術が用いられている。この際、辞書と照らし合わせて単語分かち処理を行う形態素解析法をとるシステムと、決まった字数に機械的に分割して順次キーワードとすることで機械的な部分文字列検索を可能にするN-グラム法をとるシステムがあり、それぞれ一長一短がある。徐々にN-グラム法が優勢になっているように思われる。
キーワードの正規化について、ひらがなとカタカナ、清音と濁音、拗音・促音(かなの大文字と小文字)、長音の有無、助詞に使われる文字とその発音(「へ」と「え」)について、正規化が行われているか(同じ結果が出るかどうか)を調査した。ひらがなとカタカナは必須の正規化と思われるが、非対応のシステムも一定数あった。異体字については、正規化を行っているシステムが予想より多かった。その他のものについては、「ゆれ」を吸収できる反面、ノイズを発生させる危険もはらんでいる。拗音・促音、長音の有無については正規化を行うのが多数派で、清音・濁音については対応が分かれている。検索時に用いられる全文検索技術からの影響もあり、ノイズの発生が甚だしいシステムも散見される。今後は文字単位での一律処理ではなく、辞書などを用いたよりきめ細かな対応が求められるのではないか。
著者名の典拠コントロールは十分に機能しているとはいえない。同一システムでも結果が異なる場合も多く、システムよりもMARCデータに起因していると思われる。
内容紹介、著者紹介などの搭載は、民間MARCによって一般的になってきており、大学図書館よりはるかに進んでいる点である。ただ、表示はされるが検索対象にはならないシステムもかなりある。 NDCの構造を何らかの形で提示する分類検索は、増えてきてはいるが満足のいく使い勝手を提供しているとはいいがたい。
検索結果のソート(並べ替え)と一覧画面に表示する件数(画面ごとの)について、「検索時に選択できるか」「一覧出力後に選択(変更)できるか」を調査した。これらはヒット件数が多い場合にはじめて有効なものであり、結果出力後の操作のほうが自然ではないか。
一覧画面に表示される項目は、タイトル・著者・出版者・出版年が一般的である。しかし、出版年が表示されないシステムも一定数あり、問題である。また、一覧段階で状態(貸出中など)がわかるシステムは少数派である。
検索対象項目が増えるにつれ、ヒット箇所をハイライト表示することの有効性が高まっているが、対応しているシステムは非常に少ない。
最後に、今回はあくまで基礎的調査であり、他にも検証に値する項目は多くあることが述べられた。発表後、触れられなかった問題や公共図書館における実情の指摘なども含めて、活発な質疑があった。
(記録文責:渡邊隆弘)