中国・韓国より研究者をお招きし、日本を含む3カ国の目録規則等に関する発表・討論を行った。
中国における目録学の発展と動向を歴史的に整理した上で、現状と課題を述べられた。内容構成は、中国における(1)目録学の発展と研究動向、(2)目録規則の概要と改訂動向、(3)ISBD・FRBR・FRAD・RDAなどの国際的な動きへの対応、(4)目録編成の現状と課題、であった。
中国の伝統的な目録学の発展は、紀元前1世紀の『別略』『七略』の編纂に始まる。『隋書・経籍志』の編纂により「四部分類法」が完成したのは7世紀。唐・宋の時代を経て、18世紀末には『四庫全書総目提要』(200巻)が編纂された。
近代に入り、英米目録規則の登場(1908年)が中国の近代目録学に大きな影響を与えた。内容分析(解題)を重視する中国に対して、西洋は検索機能を重視する。以後中国では、目録に検索機能を求めるようになった。1920年代、西洋流の著者基本記入による目録規則と、伝統的な目録法に西洋の規則を取り入れた目録規則の2つの流れがあり、後者の考え方が主流となった。
中国には1970年代まで国レベルの標準目録規則は存在しなかったが、1983年公表の『文献著録(=description)総則』を皮切りに、メディアごとに7種類の中国文献記述国家標準シリーズが誕生した。1つを除いてすべてISBDに対応しており、1989年から1993年にかけて順次改訂された。
次に1996年、『中国文献編目(=cataloging)規則』が策定された。この規則は、上記の文献記述国家標準を基礎とするとともに、アクセスポイントについても規定した。AACR2に倣い、第1部:記述法、第2部:標目法の2部構成で、全19章からなる。その後、デジタルネットワーク環境の進展にともない、2005年に第2版が刊行された。国際書誌情報交換を念頭に置き、ISBDやAACR2の動向に配慮している。
1983年から2002年にかけて、ISBDsの翻訳が行われた。また、FRBRについては2001年から紹介が、2005年以降に研究がはじまった。FRADは2009年にいち早く中国語版が出され、研究も着手されている。RDAへの関心も示されている。
中国では、分散型目録(カード目録)、集中型目録、協同型目録(OCLC)、オンライン目録、の4つのタイプが存在する。このうち協同型目録がもっとも多い。目録編成の課題として、目録センターの重複設置や目録システムの種類の多さ、書誌データの品質の問題などがある。
戦後の韓国図書館学は、アメリカ使節団による図書館学教育の影響のため、当初は目録が重視されていた。が、崔氏の世代以後はそれへの反発が生じた。しかしデジタル化の時代になり、改めて目録の重要性が指摘されている、と述べられた。
発表資料の内容構成は、(1)IFLA目録分科会の動向、(2)英米目録界の動向、(3)韓国目録の動向の3つである。(1)は、IFLAが2009年に策定した「国際目録原則(ICP)」の概要とパリ原則(1961年)との比較、ISBD統合版、ISBDの記述要素とFRBRとのマッピング、など。(2)は、RDAの概略とAACR2との比較など。(3)は、韓国の目録規則の歴史と「韓国目録規則(KCR)」の現在、KORMARC、典拠に関する問題、などである。当日は(3)を中心に発表された。
韓国最初の目録規則『東西編目規則』(1948年)は、書名基本記入方式であったが、その後は著者基本記入に移行した。『韓国目録規則(KCR1)』(韓国図書館協会,1964年)は韓国初の標準目録規則であり、AACR1に準拠している。KCR2(1966年)を経て、1983年にKCR3が刊行された。この版はISBDに準拠して書誌記述を標準化するとともに、標目と記述を分離して記述だけで目録作成が可能としたところに特色がある。なお、標目篇は刊行されなかった。
2003年に刊行されたKCR4は、KCR3と同様、記述はISBD準拠、標目(「接近点」=アクセスポイント)規定を除外している。標目の機能は、暗黙的に典拠データに委ねられた。さらにすべてのメディアを対象とする規則として策定され、この章構成はNCRによく似ている。その他、責任表示の数の制限を緩和したことなども特色である。
KORMARCは、1984年にUSMARCフォーマットに基づいて単行書用を制定、90年代に資料種別ごとのフォーマットを制定した。当初から、USMARCフォーマットに存在する基本記入標目のタグは不要、との意見が強かったが、過去の全国書誌データとの兼ね合いから、そのまま残されていた。現在は、必須データから外されており、多くの図書館では基本標目(1XX)は用いずすべて副出標目(7XX)に記録している。その後KORMARCはMARC21による統一フォーマットに改定された。
典拠について、韓国人名・日本人名・中国人名・西洋人名の典拠データを大学ごとに比較した結果、表記とよみ、生没年の有無などにバラツキがあることがわかった。発表者は、各種の形を管理する典拠データの整備を十分に行えば、「代表表現」(典拠データの基本形)は必ずしも必要ではないと考えている。
発表は、(1)「日本目録規則」の歴史と現状、(2)日本における目録作成の現状、(3)新しい目録法の潮流と日本、(4)「日本目録規則」の次期改訂、の4つの構成であった。
(1)では、日本目録規則1965年版以前の著者基本記入方式から、1977年版(新版予備版)における記述独立方式(記述ユニットカード方式)への転換、本版化による1987年版の登場、そしてその概要を述べた上で、「書誌階層」「書誌単位」という日本独自の考え方を導入した点が指摘された。
(2)では、国立国会図書館が作成するJapan/MARC、公共図書館が利用する民間MARC、全国の大学図書館が参加するNACSIS-CATという三者並存の状況と、それぞれの書誌データ作成における違いを述べた。また、Japan/MARCの普及・一元化を目指す「公共的書誌情報基盤」構想に言及した。
(3)ではFRBR、ICP、RDA、ISBD統合版を取り上げ、それらが日本においてどのように紹介・研究されてきたかを述べた。また、ICPとISBD統合版に対するJLA目録委員会の寄与も紹介された。
(4)は、JLA目録委員会における「日本目録規則」の改訂方針が提示された。つまり、「近年の目録世界の大きな変化に対応するため」の抜本的見直し、エレメントとエンコーディングの分離、FRBRモデルへの対応と書誌階層規定の維持、典拠コントロールの重視、などを説明された。
まず小島、高橋両氏からコメントがあった。
小島氏からは、目録学に関する日本語と中国語の表現の違いについて、説明があった。中国語の「著録」はdescription、「編目」はcatalogingのことであり、書誌記述は「書目著録」であって、「書誌」ということばはあまり使われない。また目録は、いわゆる「目録」(文献一覧)と「叙録」(解題重視)に分けられる。さらに小島氏からは、『文献著録総則』は目録規則ではなく法的拘束力をもつ国家規格であり、これを策定実施したことで、伝統的な目録法に西洋的な検索機能を取り入れた『文献編目規則』がつくられたと言えるとの指摘もなされた。
高橋氏からは「NACSIS-CATにおける中国語資料,韓国・朝鮮語資料に関する概況」についてコメントがあった。これまでの対応の概略が示されるとともに、特に著者名典拠レコード作成の場合の名前の文字 (表記とヨミ)の問題が指摘された。作成の際、「最初に用いた資料に表示されている字体」を記録するという規定は、利用者が用いる言語で標目を決定するのでなく、著者の著作の言語により決定されている、と解釈しうる。
その後、時間的制約もあったが、発表者・参加者で討議を行った。
本例会については、録音に基づいた詳細記録も準備中です。