今回の月例研究会は「東アジア地域における書誌コントロールの動向」をメインテーマに、中国・韓国・日本3か国から研究者を招き、国際フォーラムとして開催した。当グループでは同様の研究会を2010年1月にも開催しており、今回で2度目となる。まず3人に各国における書誌コントロールの現状について発表いただき、その後「東アジア地域における書誌コントロールの動向と今後」をテーマにパネルディスカッションを行った。
MARC,DCメタデータ,RDAの3点について説明。適用される目録規則は、中国語資料は「中国文献編目規則第2版」(2005)、洋資料はAACR2(一部機関でRDAを適用)。上記「編目規則」は国家規格GB/T3792シリーズ(図書、逐次刊行物、文書、地図、古典籍などの資料種別ごとに制定)の1つで、ISBDに準拠、AACR2を参考にして策定された。2013年、RDAを参考に国家規格『資源記述』制定プロジェクトが始まった。ISBD統合版にならって資料種別を統一し、GB/T 3792シリーズに代わる規格となるものであるが、いまだ未完である。
MARCフォーマットは、中国語資料はCNMARC、洋資料はMARC21フォーマットである。CNMARCはUNIMARCフォーマットに準拠。情報交換用MARCフォーマットは、ISO2709に準拠して制定された国家規格GB/T 2901-2012である。
2000年以降、上海図書館や北京大学などでDCメタデータをさまざまな情報資源の記述に応用するようになった。特に中国科学技術部の「デジタル図書館標準・規格建設プロジェクト」の成果が大きい。
RDAについては、上海図書館で2013年7月から洋資料にRDAを適用し、WorldCatに登録している。また2015年5月から、CALIS(日本のNACSIS-CAT/ILLシステムに相当)参加館に対して、日本語・ロシア語以外の外国語資料にRDAを採用するよう提唱されている。
まずWeb時代の書誌データの特徴(デジタル化、マルチメディア化、大規模化、情報源の複数化、ウェブスケール化)を指摘し、図書館界だけでは書誌コントロールが困難になっていると述べた。図書館界もFRBRモデル,RDA,BIBFRAMEを開発し、DCメタデータを利用するなど努力を重ねてきた。BIBFRAMEはLinked Dataモデルでもある。書誌コントロールの理想を実現するにはLinked Dataの技術が重要であり、機能面でも便利である。すでに各国の国立図書館で、書誌データや典拠データのLOD化が行われている。
LODにはOntology、HTTP URI、RDF、SPARQLなどの技術があり、これらの技術を活用すれば書誌コントロールに有効となる。図書館界は、LODによる典拠コントロールを提供することで、セマンティックウェブの信用メカニズムに貢献できる。BIBFRAMEもLOD化を進展させるだろう。だが未完成であり、語彙が変化し、適用細則も明確でない。RDAとの同時適用には課題が多い。CNMARCからBIBFRAMEへの移行は困難である。
上海図書館で開発されたLODとBIBFRAMEを用いた書誌コントロール実現の試みを紹介。
上海図書館では、歴史資料コレクションのうち、「系譜」や「盛宣懐文書」などのデータベースを構築した。「系譜」のためにオントロジーを開発し、BIBFRAME2.0のデータモデルをベースにFOAF、GeoNames、Schema.org、TimeOntologyの語彙を多重に使用して定義した。オントロジーはLODとして公開。これにより、書誌データと関連する著作・人物・場所・時間・事件などの概念を相互に関係づけ、他の資料にリンクさせている。「系譜」のデータは以前のCNMARCではなく、BIBFRAME2.0のコアデータモデル(Work−Instance−Item)にもとづいて記述されている。さらに、「中国歴史紀年表」「地理名詞表」「所蔵機関名簿」などのデータ集も整備し、LODとして公開した (data.library.sh.cn)。また、歴史資料の書誌データをLODに変換し、2016年5月から公開する予定とのことであった。
BIBFRAMEは発展途上であり、いろいろな問題がある。中国のcatalogerたちはCNMARCからBIB-FRAMEへの移行を危惧しているが、BIBFRAMEによりインターネット環境に適応できるのである。
他方、UNIMARC準拠のCNMARCからMARC21を経ず一足飛びにBIBFRAMEに移行できるか、という心配もあるが、創造的に進んでいきたい。
RDA、BIBFRAME、LODは、韓国の書誌発展のための大きな枠組みであり、特にLODへの取り組みが活発であると述べた。韓国では、目録規則の改訂は韓国図書館協会が、MARCとLODについては国立中央図書館(NLK)が担っている。
韓国目録規則は、2003年の第4版(KCR4)、2013年の補遺版(電子データ用)策定の後、RDAを反映させた新たな規則(KCR5)を策定中である。
KORMARCでは、2014年、統合書誌用のフォーマット(2003)にRDAを反映させて改訂を行った(韓国産業規格KSX6006-0)。具体的には3xxフィールドに内容種別・メディア種別・キャリア種別や表現形式・表現特性などのフィールドを追加した。さらに2015年、典拠コントロール用データフォーマットを改訂した(KSX6006-4)。具体的には、MARC21の典拠データフォーマットを分析し、RDAとFRAD反映のためのフィールドを追加した。
LODへの取り組みは、2011年からNLKが典拠データをRDFに変換、LOD化したことに始まる。2012年からは図書、逐次刊行物、オンライン資料の書誌データと件名を順次LODに変換し、さらに海外の11の国立図書館とのインターリンキングも2013年に開始した。2015年6月時点でのLOD変換・提供データ件数は、書誌データ860万件、典拠データ(著者名・件名)77万件、合計937万件(トリプルでは2466万件)である。また、インターリンキング件数(トリプル)は179万件である。
韓国では、BIBFRAMEに関する国レベルの取り組みは見られないが、検討はされている。朴氏自身が「BIBFRAMEモデルを利用した公共図書館のローカルデータと書誌データの連携方策」(2015)という研究を行っており、その内容紹介を通じて、BIBFRAMEのannotation(注釈)クラスは、MARCなど標準的な記述要素中心の書誌データに豊富な説明情報を追加することができるとの説明があった。BIBFRAMEモデルの採用により、書誌データとローカルデータをLinked Dataで構築でき、情報共有や連携を図ることが期待できるとのことである。
国立国会図書館(NDL)はJAPAN/MARC(全国書誌)の作成と提供、公共図書館は民間MARC、大学図書館は官営の書誌ユーティリティNACSIS-CATと、館種ごとに異なった体制で目録作成が行われているのが日本の書誌コントロールの特徴である。それぞれの枠内では合理化が進んでいるが、三者独自の体制は最大の問題点でもある。
目録規則の運用状況は、NDLでは和資料はNCR、洋資料は2013年にAACR2からRDAに移行した。公共図書館はNCR、大学図書館(NACSIS-CAT)では和資料はNCR、洋資料はまだAACR2(RDAに移行せず)である。NCRの大きな特徴は、新版予備版(1977)以降、基本記入方式ではなく記述独立方式(等価標目方式)を採用していることである。
新NCRの策定作業が、JLA目録委員会とNDL収集書誌部との共同で行われている。その背景には、世界の目録法の変革(FRBRモデル、ICP、RDA)とその受容がある。
新NCR策定の特徴は、(1)FRBRモデルを基盤とする規則、(2)RDAにできるだけ対応、(3)機械可読性の向上、の3点である。(1)は典拠コントロールの位置付けの明確化、著作の典拠コントロールの徹底、資料の物理的側面と内容的側面の整理、関連の記録の重視など。(2)は資料種別ごとの章立ての不採用、エレメントの増強、語彙リストの提供(関連指示子を含む)、構文的側面(encoding)を規則に含めないなど。一方で、アクセス・ポイントの読みや書誌階層規程など、NCR独自の規定も発生する。
新NCR運用にあたっての最大の問題は、著作の典拠コントロールの徹底であろう。新NCRでは、著作の典拠形アクセス・ポイント(AAP)は、作成者のAAPと優先タイトルの組み合わせを原則とする。著作の態様によって何を作成者とみなすのかを的確に判断する必要がある。かつての基本記入標目の選定に通じる作業であり、慣れるまでは大変かもしれない。なお新NCRは、2017年度内に公開される見込みである。
NDLのJAPAN/MARCは、UNIMARC準拠のフォーマットから、2012年よりMARC21フォーマットに移行した。公共図書館の民間MARCは旧JAPAN/MARCに近いフォーマットであり、現在のMARC21準拠のものではない。NACSIS-CATは「CATPフォーマット」という独自フォーマットを採用している。目録作成体制と同様、フレームワークも三者三様の状況である。
新NCR運用のためには一定のフレームワークを定める必要があるが、BIBFRAME適用の検討などもなく、不統一な状況下で今後が危惧される。他方、NDLが2013年策定の中期方針の一つに「新たな書誌フレームワークの構築」を掲げており、NACSIS-CATも2020年にシステムの大規模な見直しを想定しているとのことである。
LODあるいはLinked Dataは、日本の図書館界では2010年前後から注目されてきた。中でもNDLが積極的な取り組みを展開している。2014年には館内LODのポータルページが開設され、書誌データ(NDLサーチ)、典拠データ(Web NDL Authorities)、震災関連データ(ひなぎく)の3種類が公開されている。他にNIIのCiNiiによるAPI提供がある。
まずコメンテータの木村氏が、各発表を概観しつつコメントを行った。その後、各発表者から他者の発表内容に対する質問や意見、フロアからの質問などが出された。
以下は、木村氏のコメント(抜粋)である。
なおフロアからの指摘として、国文学研究資料館で統一書名典拠データを作成した際、「平家物語」と「源平盛衰記」をどのように区別するかが困難だったとの発言があった。
(記録文責:松井純子 大阪芸術大学)