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整理技術研究グループ勉強会記録(2006年度)

「セマンティックWebと資料組織法(続)」第7回


日時:
2006年7月14日(金) 19:00〜
会場:
日図研事務所104号室
発表者 :
松井純子氏(大阪芸術大学)
テキスト:
溝口理一郎『オントロジー工学』オーム社, 2005.1 の7.3〜7.6の各節
出席者:
渡邊(帝塚山学院大学)、有信、田窪(近畿大学)、横山、蔭山、松井(大阪芸術大学)、川崎(佛教大学)、吉田(大手前大学)、河手(大阪樟蔭女子大学図書館)

7.3 オカーレンス (生起:Occurrence)

[1] コンティニュアント vs オカーレント
人間のインスタンスを考えるときの2つの考え方
 [ア] A先生…人間のインスタンスである。
       時空間を特定しない抽象的なもの
 [イ]○年△月□日×時◇分のA先生…人間のインスタンスである。
                  特定の時刻におけるA先生=本物か?
 筆者の立場は[ア]

しかし、インスタンスに対する処理を施す場合、対象を正確に概念化(定義)できない。
 (例) 「リンゴの皮をむく」⇒皮をむかれているリンゴは変化している
     刻々と変化するリンゴを別個のインスタンスととらえることは困難
      ⇒[ア]の立場を受け入れざるをえない
[ア]の立場を受けるための考え方
 ・コンティニュアント(連続物:continuant)…事物の変化を無視できるもの、"もの"に対応
 ・オカーレント(生起物:occurrent)…事物の変化を考慮すべきもの、"プロセス"に対応
   [イ]の立場に立ちつつも"プロセス"だけでないことを主張

Hayesの定義
 ・コンティニュアント=全ての部分が同時に存在する(テンポラルパートを持たない)
 ・オカーレント=その部分が時空間に存在するが、コンティニュアントでないもの
             (テンポラルパートを持つ)
 この定義は、部分的に置き換えただけで、実際には使えない定義。

・コンティニュアント=プロセスにおいて、参加者によって演じされるロール
            なぜ、"もの"ではなく"ロール(役割)"のような抽象概念なのか?
・オカーレント=参加者が担うコンティニュアントロールなくしては存在しない

★・コンティニュアント=外部との相互作用
 ・オカーレント=始まりと終わりを持つ

★プロセスはオカーレントのみ

プロセスの種類
(1)参加者が存在し、それらの相互作用として生じるプロセス
  例)テニス競技…選手、審判、ラケット、ボール。ネットが参加者
  参加者がいなければ起こりえない…参加者≠プロセス
(2)参加者自体の変化のプロセス
  参加者の内部変化→(1)のプロセスはそれとは別に生成される

参加者≠プロセスだが、(2)のプロセスとは矛盾しない、「もの」と「属性」との関係と同じ。

したがって、
コンティニュアント=(1)であっても(2)であってもプロセスが本質的に必要とする参加者が担うロール
 しかし、「竜巻」で、プロセスではなくコンティニュアントロールが果たす内部変化もあることを示す。
  →コンティニュアントとオカーレントを切り離すことはできない(どちらとも決定できない)
 人間も同じで、全てのものはコンティニュアントロールを果たし、内部変化も起きている(表裏一体で不可分)
  ←こんな区分は不要ではないか?

3Dモデル…物のインスタンスは時間とは無関係に存在する。
      インスタンスにアイデンティティを与える。
4Dモデル…四次元空間に存在する=時間がたてば別物
      アイデンティティは時間軸上の軌跡に与えられる。


[2] オカーレンス vs インスタンス
[1]の議論から、個物を対象とする場合、インスタンスとオカーレンスという2つの捉え方がある。

現実の時空間との対応とは別に、個物としてインスタンスを認定するという立場をとるならば、
インスタンスが「いつ」「どこに」「どういう状態で」いる(ある)かとインスタンス自身との
関係は、instance-ofとは別の関係でとらざるをえない(たとえばoccurrent-of)。
→指定した時刻に物そのものが位置する場所が確定する状況は「オカーレンス」である。

インスタンスが「ある」というときのインスタンスは、プロセスの参加者となりえるインスタンスであり、
オカーレンス(=プロセス)ではない。
  ※プロセスとしての「ある」とは、インスタンスが具体的な(特定の)時空間に対応して存在した時に生じる。

インスタンスとオカーレンスを切り離して考えることが重要。 
 ←動作概念のインスタンスにも適用可能か?
  「歩く」と「ある時、ある人が、ある場所を歩く」とは別ものの行為か?
   →「もの」も「行為」も同じように考えられる。
 「もの」は動作も指定しなければ、実空間に存在できない
  →「もの」と「プロセス」はinstance-ofとoccurrence-ofの2段階で現実の時空間に位置づけえられる。

★動作のグラフの中から特定のインスタンスをつくるときにその動作だけでは実空間に置けない。
 なぜなら、動作を行う主体などが必要だから。

7.4 具体物とは何か

[定義] 具体物=その存在に少なくとも時間と空間のどちらかを必要とするもの

「社会」や「大学」、「夫婦」、「人間」、「机」は具体物か?→すべて有限個の部品から構成された「全体物」
 例)「大学」=土地(キャンパス)、建物、教官、学生、事務官、教育行為、教育上の制度など
→これらが「大学」を有機的複合体として機能させている=全体として具体物といえるか?
                                                   抽象物ではないか?
   「机」=天板、引出、4本の足を部品とする。しかし寄せ集めではなく、統合された全体を認めて「机」と認識する。

★具体物は「統合性」をそなえている。

オントロジー的には、机も人間も大学も同じ。「机」が具体物であれば、人間も大学も具体物となる
★「愛」も具体物

具体物の帰納的定義
 前提条件
  ・原子と分子は具体物である。
  ・具体物を部品として、ある統合性概念にもとづいて構成されるもの(全体物)は具体物である。
 事例:「社会」は具体物か?
   「社会」の部品・・・人、共同生活、共同生活の場、集団など 
              かつ 人間関係の相対を明確に認識するという見方で集団や部品を見ると統合性を持つ
              →「社会」は具体物である。

7.5 一般化、抽象化、マクロ化

粒度(Grain size)・・・あるものをpart-ofの関係でまとめていくときの部品の大きさ=何を全体としてみるかの範囲や大きさ

マクロ化・・・あるものを部品の集まりとして記述する時、部品の粒度を大きくすること。
       しかし、is-a関係(一般・特殊関係)にも粒度の考え方を適用できる。(逆は付加)
   マクロ化により、新しい機能が付与されたり詳細が捨象されたりする。→情報量としては増減のどちらもある。
★マクロ化はpart-ofのときが本質的

一般化・・・あるものの適用範囲の拡大(=上位概念を適用すること)
   下位クラスの相違を捨象する、下位クラスの共通の性質だけを残す→情報量はマイナスのみで増えない。

抽象化・・・具体物から抽象的概念へのマッピング
  抽象的←→具体的
   抽象的・・・具体性に欠けること
 操作からみると、一般化と抽象化は同じように見える。
  一般化・・・概念を対象とする
  抽象化・・・具体物(インスタンス)を対象とする
   つまり、具体物を一般化することや、概念を抽象化することはできない。
  抽象度(具体物からの距離)が高い=一般性(適用範囲)が大きい

7.6 粒度と一般性

概念の抽象階層(一般・特殊階層)が上がると概念は抽象的(一般的)になる→適用範囲が広がる。
   =概念の抽象性(一般性)と粒度には正の相関がある

is-a関係とpart-ofの混同
  part-of・・・粒度が小さいほうがいろんなものを構成でき一般性がある。
              =概念が含むインスタンスの多さ
  is-a・・・粒度が大きい概念は、多くの例を代表するので一般性がある。
              =それを部分として用いることができる状況(全体物)の多さ
 「一般的」ということばの文脈における意味の相違

★「一般」と「汎用」の区分がついていない。part-ofの関係で「一般」を持ち出す必要はないのではないか。