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整理技術研究グループ勉強会記録(2006年度)

「セマンティックWebと資料組織法(続)」第10回


日時:
2006年10月26日(木) 19:00〜
会場:
日本図書館研究会事務所
発表者 :
河手太士氏(大阪樟蔭女子大学図書館)
テキスト:
溝口理一郎編著『オントロジー構築入門』 オーム社, 2006 (ISBN 4-274-20292-5) 第3章 よりよいオントロジー構築のための考え方と指針
出席者:
有信、吉田(大手前大学)、蔭山、川崎(佛教大学)、松井(大阪芸術大学)、堀池、渡邊(帝塚山学院大学)、河手(大阪樟蔭女子大学図書館)

第3章 よりよいオントロジー構築のための考え方と指針

3.1 どのようなクラスを定義すべきか(クラス分類の推奨基準)

・クラス分類の基準の同一性
  あるクラスC1のサブクラスC2, C3 …において、
その分類は同じ性質を参照して行われることが望ましい。
  サブクラスC2, C3…の分類軸はその上位クラスであるC1で定義されている。
  分類値となるクラスは別に定義される。(図3.2)

・インスタンス集合のパーティション性
  サブクラスの集合に抜けや重なりのないインスタンス集合であることが望まれる。(図3.3)
      ↓
(1)インスタンス集合間が互いに素
    (2)上位クラスのインスタンス集合は、サブクラスのインスタンス集合の和
       (2)の分類の網羅性は完全にすることは難しい

・本質属性=「個物のidentityを決定付ける属性」
       =「それ自身が損なわれるとそれ自身ではなくなるような属性」
       例) 「青年であること」は本質属性ではない
            …青年でなくなったからといってその個物のidentityは変化しない。
  本質属性を満たす性質
   [1] 固定性…本質属性の値はそのインスタンスである限り変化しない
                 =時間的経過や解釈の違いによって属性の値が変化しない。
   [2] 非外部依存性…個物自身だけを参照して定義できる。
   [3] 唯一性…ひとつのオントロジーにおいてはある概念クラスに対して1つだけ認定される。
   本質的な性質は、上位クラスから下位クラスへ継承される。
    例)「乗り物」のサブクラスとしての「馬」(図3.5)
        馬の本質属性が「乗り物」であるとは考えにくい…馬は常に「乗り物」ではない(非固定性)
               ↓
「乗り物」の下位クラスとして「馬」定義することは馬の個物にとって
  本質的な属性を反映しているとはいえない。←「乗り物」としての「馬」を表現するにはロール概念を用いる。


・分類の上下関係
  分類階層の上下関係を適切に設定することは難しい。
    クラスの分類はできる限り情報量が多いほうがよい。
    クラスに所属するインスタンス集合の大きさにあまり偏りがないことが望ましい。
    概念の定義はできるだけ高い一般性を持って行うべき。
    多重継承の利用には慎重さが必要。


3.2 ロール
★ファセット的な要素を持つような印象を受ける
・ロール…「外部のものを参照せずには定義できない状況に依存した概念で、
       他の概念によって「担われる」役割を概念化したもの」
  ロールプレイヤー(role-playable thing, potential player)…ロールを担いうるもの
  ロールホルダー(role playing thing)…担った(担っている) とみなされるもの
  ロールは一般に意味リンクに基づいて形成された特定の全体物をコンテキストとして認識される。(例 図3.6)
 全体-部分関係に基づくロール概念 (例 図3.7)

・ロール概念の計算機表現
 [1] 法造…ロールを適切に表現することを特に注目している (図3.8)
 [2] UML (図 3.9)
 [3] FDFS/OWLの記述論理…意味リンク(関係:Property)のことをロールと呼ぶ。(図 3.10)
                   根本的・概念的にロール概念とは異なる。
                   ロール固有の属性やロール概念の様々な性質を正しく扱うことができない。
法造におけるロール概念やロールホルダーを正確に表現すると図3.11のようになる

・乗り物としての馬と人工物の乗り物
  「馬は乗り物である」→「乗り物」はロールホルダー(基本概念クラスではない)
「馬」と「乗り物」の間のリンクは「ロールを担う」リンクとして表現(図 3.12)
  「自転車は乗り物である」→「乗り物」=「人間の位置を変える」機能を本質的に果たすもの
  「自転車」(人工物)…「人間の位置を変える」作用を果たすことを意図されて設計・製造
      →「自転車」(人工物)は本質的な機能として「人間の位置を変える」機能を持つ
  「乗り物」概念クラスを「人間の位置を変える」という機能を持つ人工物と定義する。
→「馬」のインスタンスは「乗り物」概念クラスのインスタンスではない。

・ロール概念としてモデリングすべきか
  ロール概念…教師、親、審判、議員、燃料、食料、出力、兆候、原因など
  同じラベルが異なる概念に対して使われる際には、基本概念とロール概念を分離することは大きな意味を持つ。

多重継承やhasPart関係との混同などには、ロール概念が関わっていることが多い。
   ↓
コンテキストの明示化が必要でないときにはロール概念として定義しないということもできる。
  (クラス制約名とロール概念が同じである場合など(例「ペダル」))
ロール概念のコンテキストが固定的である場合にはロール概念を基本概念としてモデル化してもよい。
  (「病院」における「患者」)→オントロジーの一般性に大きな制約が課される


3.3 概念定義の詳細
・クラス定義とインスタンスについて
 [1] インスタンスに共通な性質とインスタンス
   概念クラスの定義に記述される「インスタンスに必要な性質」
     「必要条件」…個物IがクラスCのインスタンスであれば性質Dを必ず持つ
     「必要十分条件」…個物Iが性質Dを持てば必ずクラスCのインスタンスである (メンバーシップ基準)
    完全な必要十分条件を記述することは一般的に困難→オントロジーにおける多くのクラス定義は必要条件
     ★十分条件は調べる必要はないのか。
 [2] 概念クラスの定義
   概念定義…概念の意味を限定する役割を果たすもの
           概念の意味を理解しそれを用いてモデルを記述・利用するエージェントを制限することを目指す
   主張的(prescriptive)なもの…オントロジーの中で用いられる際の意味を限定
                     辞書のような記述的(descriptive)なものとは異なる
   分類の値の境界は絶対的でものではないことが多い。
 [3] クラスとインスタンス
   クラスとインスタンスの区別は自明ではない。
   なにをインスタンス(個物)とみなすかは、状況によって異なる。

・属性について
  「属性」(属性クラス)…長さ、重さといった数量と単位の組からなる単項述語

・部分について
「自転車の部分となる車輪」      vs     一般的な「車輪」
    (状況に依存した概念)          (状況独立な概念)
           ↓                 ↓
    法造 ロールホルダーとしての概念   クラス制約での参照先で定義されている概念
    UML  「集約」               「コンポジション」
    OWL  allValuesFrom           someValuesFrom (part of関係)
 全体部分関係の種類
   (1)人工物の機能に基づく全体部分関係 (車輪と自転車) 推移律が成り立つ
   (2)空間的または時間的な全体部分関係 (森と木)    推移律が成り立つ
   (3)資格・ロールに基づく全体部分関係 (議会と議員) 推移律が成り立たない
   (4)stuff(もの)の一部分関係 (粘土とその一部) 推移律が成り立つ
   (5)「材料」関係 (自転車とステンレス) ←一般-特殊関係と間違えやすい
   など
    部分関係に推移律が成り立つ場合と成り立たない場合がある
 ★シソーラスにおける「for-a」をロールで表わすことできるではないか
 ★has-part関係には制約をつけても仕方がないのではないか

・関係について
  関係R、インスタンスx,y,zにおいて (図3.18)
   反射律(reflexive):∀x, R(x, x)
   推移律(transitive):∀x, y, z, R(x, y) ∧ R(y, z) ⇒ R(x, z) 例) 子孫関係
   対称律(symmetric):∀x, y, R(x, y) ⇒ R(x, y) 例)夫婦関係
   逆関係 ∀x, y, R(x, y) ⇒ S(y, x) SとRは逆関係

・プロパティについて
  倫理学用語…単項述語
  OWL用語…リンク
  人工知能用語…オブジェクトが持つ性質
  オントロジー用語…性質、オブジェクトとは別物、オブジェクトとは不可分であり対等
 Guarinoらの議論に基づく概念階層   筆者の立場(存在を直接考察するオントロジー)
    オントロジー                   認識論、概念
       |                          |
      論理                      オントロジー
       |                         |
    現実世界                        現実世界
 プロパティと属性の区分
  プロパティ…単項述語 例) red(X)
  属性…2項述語 例)color(X, red)    人工知能やOWLで区別されていない
  オブジェクト…1項述語
     オブジェクトと属性とは本質的に相容れない
   OWLではノードで表わされるモノと2項関係に対応するプロパティの分離は正しく行われており、用語の混乱を
    除けば問題がない。
   OWLでは、二つのノード間を関係づけるものであればプロパティと呼ばれる→プロパティと呼ばれるものと純粋
    な関係・状態・ロールなどとの区別はされていない。
   OWLのプロパティによる表現
   属性…表現は正しい、名称が混乱する
    本来のプロパティ…名称はOK、表現はおかしくなる←単項関係を無理やり2項関係に
     →OWLは直接オントロジーを記述する言語としては問題を含んでいる
  ロールは本質的に単項述語であり関係ではない。関係概念を媒介として定義される概念
    ←ロールがOWLのプロパティとして表現されることが多々ある。→ロールは関係であると誤解をしている人が多い

3.4 乗り物オントロジー (図 3.19)