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整理技術研究グループ勉強会記録(2006年度)

「セマンティックWebと資料組織法(続)」第11回


日時:
2006年11月17日(木) 19:00〜
会場:
日本図書館研究会事務所
発表者 :
渡邊隆弘氏(帝塚山学院大学)
テキスト:
溝口理一郎編著『オントロジー構築入門』 オーム社, 2006 (ISBN4-274-20292-5) 第5章 初心者によるオントロジー構築の実例
出席者:
横山、有信、堀池、蔭山、松井(大阪芸術大学)、渡邊(帝塚山学院大学)、吉田(大手前大学)、河手(大坂樟蔭女子大学図書館)

初心者(学部4年生)による試行錯誤の記録
公式競技としてのサッカーのフィールド・行為者・行為からルールまでを扱うオントロジー

5.2 最初に何を作り始めたか (Ver.1.0)

概念を思いつくままに記述
 ・「スポーツ」−「球技」−「サッカー」にis-a構造
   それぞれの定義を構成要素(part-of表現)として行う
    スポーツ 「プレーヤ」が「身体」を動かす *上位定義は下位に継承
    球技   「ボール」を使う
    サッカー 「サッカーボール」を使い「ルール」がある
 ・「ボール」の定義は「球」(part-of)
 ・「生物」−「人」−「プレーヤ」のis-a構造
   「人」の構成要素(part-of)が「身体」
   「プレーヤ」の構成要素(part-of)に「スポーツ」 (図5.7)

5.3 Ver.5までの主な変更点

「人」の階層を整備
  「プレーヤ」「観衆」「審判」などを下位概念に
    ※本来の下位概念ではない(ロール) ・・・本質属性ではない

「ルール」の階層を作成開始
  「ルール」−「サッカールール」−「公式ルール」
  各ルールは「サッカールール」等のpart-ofに
   (ロールホルダーにルールの通称、ルール概念にその意味、クラス制約に関係概念を記述)
     ※最終的には「Proposition」の下位に各「規定」の階層構造 (図8.11)
        ルール関係はpart-ofではなくis-aが適当
     ※クラス制約にかかれるクラスがロール概念で、コンテキストを制約されたものがロールホルダー

「行為」の階層を作成開始
  「サッカーの基本動作」−「蹴る」−「シュート」
    ※一般的な行為とサッカー固有の行為との切り分けが必要 (図5.17)
    ※「(蹴る)シュート」は特定のコンテキストでの「蹴る」だからロール? (図7.5)
        →プロセスは一過性(インスタンスはその場限り)なので、そう考える必要はない

属性として用いられる要素の階層作成

「フィールド」に関する階層作成
  「フィールド」の下位に「自陣」「敵陣」「サイドライン」「ゴールライン」
    ※is-a関係とみるのは不適切 (フィールドの「形」(長方形)がすべてに継承されてしまう 図5.19)

「行為」の階層をさらに詳細化
  「蹴る」の下位に「FK」「PK」「ゴールキック」・・・
    ※特定の状況における「蹴る」なのでis-aは不適切

5.4 1回目のゼミ発表:疑問点の解消

ロールの書きかたが難しい(単なる自然言語表現に)
 →モデル化の工夫(いくつかの側面に分解)
    行為・・・「対象」「行為者」「道具」「目標」「発生場所」・・・
    ※そうすると継承後の限定も考えやすい

一連の動作のように複数概念が合成された概念の記述法は?
 →複合行為ととらえる
    ※「サッカー選手行為」・・・「観察する」「考える」「身体行為(実行行為)」
        その下位の「しゅーとは「実行行為」が「飛ばす」 (図7.5)

イレギュラーな事象の書きかたは?
 →特に必要なければ典型例のみを考えればよい

attribute-of(属性)とpart-of(ロール)の使い分けは?
 →属性は色・形状などの属性情報

ロールとクラス概念の区別
 「審判」に「判定する」ロールを与えるときのクラス制約は?
   →難しい問題   
      多重継承のpart-ofも可能
      「ルール」は「判定する」対象
    ※最終的には(図8.10) 「審判」は「人」のロールとして表現
                  審判の「機能」が「審判行為」 その「基準」が「ルール」
                  「判定する」は「審判行為」のis-a

サッカーシーンが表現できていない
 →作り始める (図5.18)

5.5 2回目のゼミ発表:疑問点の解消(2)とさらなる改善

特定目的と一般性のバランス
コンピュータが理解可能なロール定義とは?→クラス制約やロール属性によって定義される
何を満たせばオントロジーといえるのか
クラスとロールの混同を修正・・・「観衆」「プレーヤ」(ロールの階層構造)
概念の洗練・・・「状態変化」を追加、時間の前後関係は関係概念で定義

5.6 サッカーオントロジーのさらなる洗練

サッカーフィールドの改善
ロール概念の階層構造

5.7 オントロジー構築のポイント

下位概念の定義に複数の分類軸が混じっていないか?
  「公式サッカー」「草サッカー」「フットサル」 (図6.7)
  「投げ技」「抑え技」と「表技」「裏技」 (図6.16)
継承が行われても問題のないツリーか?
ロール概念をクラスとしてしまっていないか?
  「プレーヤ」「観衆」 (図6.1)
  「サイドライン」「自陣」「敵陣」 (図6.3)
人間の概念定義に対する考え方をまず近似的に表現しようとしているか?
オントロジーを作る目的が明確か?
一般性のある表現を用いているか?

6 オントロジー構築の典型的なエラー (付)

基本概念とロールの混同・・・「人」の下位に「プレーヤ」「観衆」
上位−下位概念や部分概念とロールの混同・・・「フィールド」の下位に「サイドライン」「自陣」「敵陣」
属性と他の概念との混同・・・「形」の下位に「球」「重さ」「大きさ」
                   「球」は「形状」属性の属性値(「球」自体は抽象物の階層)
                   「重さ」は「定量属性値」の階層
                   「大きさ」は「定性属性値」の階層
サブクラスの概念同士の重なり・・・「公式サッカー」「草サッカー」「フットサル」
基本クラス概念の構成間違い・・・「品物」の「値段」ロールで「お金」クラスを参照 ← 「お金」ではなく「価格」
集合概念・再帰的概念の記述の失敗・・・「従業員」ロールホルダーの部分に「店長」「店員」
動詞の略記による誤り
2軸で概念を分類するときの誤り・・・「抑え技」「投げ技」vs「表技」「裏技」
下位概念の捉えかたが多岐にわたる場合・・・学術論文のオントロジーにおける分野の表現
クラス名ラベルへのこだわりすぎ