整理技術研究グループ勉強会記録(2007年度)
「図書館目録の将来設計」第10回
- 日時:
- 2007年10月11日(木) 19:00〜
- 会場:
- 日図研事務所104号室
- 発表者 :
- 堀池博巳氏
- テキスト:
- 林賢紀, Web2.0と図書館サービス 現代の図書館 45(2), 119-128, 2007
- 出席者:
- 川崎(佛教大学)、蔭山、松井(大阪芸術大学)、渡邊(帝塚山学院大学)、吉田(大手前大学)、安威(梅花女子大学図書館)、河手(大阪樟蔭女子大学図書館)
1.はじめに
新しいWebサービスによる研究者A氏の一日(すぐに手の届くところにある技術とサービス)
最新情報の入手
カーナビゲーションシステムからの情報受信と読み上げ・・・ニュースのヘッドラインや最新の『Nature』の目次
メールの送受信…Webメールの利用
Webブラウザ…「お気に入り」のURL登録
ブックマークサービス(Web上でURLを登録・管理。個人枠内)
ソーシャルブックマークサービス(SBS、ユーザ間でブックマークを共有)
Wikiサイトでの研究情報の共有化…Webブラウザから情報更新できる (Wikiの利用ではウィキペディアが有名)
ブログの利用…趣味の情報の更新に利用、トラックバックの利用
2. Web2.0という考え方
「Web2.0」とは
Tim O'Reillyが2005年に発表した概念
これまでの(2005年時点)のWeb(Web1.0)から進化した次世代的なソフトウェアのデザインパターンやビジネスモデル
「七つの要素」=これらのサービスは今では特別なものではない
(1) Webをプラットフォームとする…SBS, Wiki
(2) 集合知の利用…SBS,Wiki
(3) データは次世代の「インテル・インサイド」
(4) ソフトウェア・リリースサイクルの終焉
(5) 軽量なプログラミングモデル
(6) 単一デバイスの枠を超えたソフトウェア…RSS
(7) リッチなユーザ体験…GoogleのGmailやGoogle Map
図書館でのWebプラットフォームによるサービス提供
OPAC検索、文献複写の申し込みと履歴参照、インターネット上のリソース(各種データベースやオンラインジャーナルなど)へのリンク
「Web2.0」の様々な解釈
小川 浩…「インタネット上でここ数年間に発生したWebの環境変化とその方向性(トレンド)をまとめたもの」
梅田望夫…「ネット上の不特定多数の人々(や企業)を、受動的なサービス享受者ではなく能動的な表現者と認めて積極的に巻き込んでいくための技術やサービス開発姿勢」
岡本 真…個々の利用者持ち寄り集合知となったデータ
「CGM(Consumer Generated Media)がWeb2.0における重要な概念」→「図書館においてもこれを利用し利用者を巻き込んだサービス像の転換が必要」
図書館におけるWeb2.0の要素を活用したサービス展開の検討
所蔵目録の利活用
「利用者がなんらかの形でサービスやデータの蓄積に寄与する」ことを前提とした利用者参加型の新たなサービス
3. 海外の図書館における事例
Web2.0の要素や要素技術を取り入れたサービスの展開→「Library2.0」とも呼ばれる
○blogのシステムを利用した図書館サイトの構築
例 アナーバー地域図書館(AnnArbor District Library)
Webページのデザインテンプレートに従い入力するとWebページが更新される
利用者が関与(フォークソノミー(forksonomy))
各記事…コメント、感想、タグを自由に書き加えられる
利用者付与…フリーキーワード←検索対象項目となる
○OPACの新たなアプローチ
検索結果や関連語をビジュアル表示…オランダのMedialab社開発(AquaBrowser Library)
例 Queens Library…三つの法則の重視=「Search」「Discover」「Refine」
検索便利性の向上:検索語関連性による結果表示・関連語を表示し検索対象を示唆する機能・資料形態、主題、ジャンル、著者等の絞込み機能
○書誌情報を共有するサービス(図書館以外)
例 LibraryThing
個人の蔵書をWebに登録、その情報を共有(登録の簡便さは優れる)
各国の図書館やAmazonなどからの諸事情報を流用し登録できる
Amazon.comの書影も流用し自分の本棚の表示に利用できる
他者の登録情報を利用し自由につけられたタグから検索
既読の図書のタイトルから「推薦図書」「推薦しない図書」が検索できる
日本では「本棚.org」などの類似の「ソーシャルブックサイト」がある
書誌の流用可能なサイトはAmazon.jpに限られる
Amazon.com
保有の書誌情報などを利用できるAPIを整備し公開
検索結果に加え他の資料をシステムが推薦
他者のコメントが参照できる
国内の図書館システム
外部のサービスからの利用を想定していない
4. 国内の状況
Web2.0要素技術(blog,RSS)などを活用したサービス
○blog
活用メリット…ページの更新が容易・利用者によるコメント記入・トラックバックによる相互コミュニケーションが可能
情報提供のツールとして
山中湖情報創造館
横芝光町立図書館
「利用者の要求を事前に把握し要求の発生と同時にサービスする」
「Web展示」(Web上での関連資料の紹介)の感想をblogで記入
図書館員と利用者との双方向性のあるコミュニケーションサービス
京都大学図書館機構
海外の研修中のレポートの掲載(即時性のある情報提供に注目)
図書館サイトの構築…東京大学理学部生物学科図書室、広島大学附属図書館
○RSSの活用
新着情報…国立国会図書館、京都大学図書館機構、筑波大学附属図書館など
記事概要の配信…国立国会図書館
blogで更新した記事概要のRSS送信…blog活用の各図書館
RSS利用の応用的な事例
国立国会図書館デジタルアーカイブポータル、鹿児島大学附属図書館、農林水産研究情報センターなど
配信されているRSSをWebサイトで受信し表示するサービスを提供
自館購入の目次情報をRSSで取得・表示し、そのURLを利用者へ提供←付加価値を高めるサービス
『Nature』『Science』などの学術雑誌の目次情報の配信
NLMのPubMedの検索結果の受信
ElsevierのScienceDirectでの新着文献の配信
EBSCOhostでの検索結果の配信機能の追加
5. 農林水産研究情報センターにおける取り組み
図書資料検索システム ALIS WebOPAC…全国56研究拠点に導入、RSSデータをHTMLに変換し多方面に利用
RSSの活用…図書・雑誌の新着情報の提供
雑誌は受入中の図書室ごとに雑誌名・所蔵機関と最新10件の受入巻号を掲載した情報を提供
MAFFIN News Feeds Center (RSS配信ポータル)
各研究機関の更新情報、新着プレスリリースなどを提供。情報センターの新着情報も掲載
Wikiの利用
製本を行っている機関の日程や対象資料の情報更新
Webページの編集作業の効率化…共同管理が必要なWebページの一次編集に利用→本編集は編集権限を持つ情報センターが実施
業者に有益な情報…担当者名簿の掲載・セミナーや出張レポートの報告など
6. RSSのメリット
利用のメリット
RSSは増え続ける情報を選択的かつ効率的に収集できる手段
発信者側…能動的に最新の情報を提示し見て欲しい情報そのものに利用者を誘導することが可能
システムから自動的にRSS形式のファイル(XML)が生成される
情報を発信用に編集する必要がなく、配信作業もない
自館の新着情報・サイトの更新情報をRSSにより自動的・定期的に知らせることができる
利用者側…増加し続ける情報選択的かつ効率的に収集できる手段
プレスリリース・サイと更新情報・雑誌目次情報など異なる種類のWebサイトの更新情報を一つのインタフェースで一括取得し通覧できる
RSSリーダー(RSSを取得する手段)への登録・削除が容易
膨大な数になったWebサイトを主導により更新情報を追い続けることは困難
メールマガジンによる情報収集は迷惑メールなどの問題もあり取り出す作業の効率性が低下
7. 情報センターにおける試行
RSSを用いた付加価値の高いサービスを試行
ALIS OPAC=「書誌データを蓄積しているデータベース」
試行の観点
(1)現行のOPACのインターフェース以外での書誌データの出力方法
新着受入情報のRSS配信
全データを対象に出力可能なAPIの装備を実施…URLにISSNやISBN、書誌名などを記入し、OPACサーバにアクセスすることで、結果をXMLで出力
(2)利用者が再利用しやすい携帯でのデータ出力
(1)のAPIの整備から…OPACアクセス後、詳細な書誌情報が必要な場合、別途URL中に指定すればMODS記述の情報が出力される
利用者側でデータをハンドリングし利用することができる
他のデータベースとの連携やLibraryThingのようなサービスにも書誌情報を提供できる
(3)他のデータベースとの緩やかな結合
OpenSearch(RSS2.0をベースとする横断検索の実装)への対応
Webブラウザのサーチバーを利用したOPACデータの直接検索の試行
IE7の検索ボックスの利用・Firefox用の検索プラグインを作成・Googleツールバーの検索ボタンに対応
試行の結果から
ALISで蓄積した書誌情報を他のシステムへ提供することが可能となった
A9.comなど標準化された横断検索システムの対応を行った
Webブラウザをプラットフォームとした情報検索への対応を行った
8. まとめ
Web2.0の概要と図書館におけるその要素技術を活用したサービス事例の紹介
国内でもWeb2.0の要素を取り入れたサービスが拡がることが予想される…例えば、Wikiやblogの利用
NDL『平成18年度書誌調整連絡会議記録集』より
「Amazon、Googleなどは各機関がウェブサービスとして構築されている状況において、そのアプリケーションインターフェースが公開されているが、そういう形で連携していくと思う。」
各図書館での今後のサービス
提供するサービス類をWebサービス化し、相互に連携可能とする必要がある。
OPACを単なる目録検索サービスから書誌データを取得できるAPIを公開し「データプロパイだ」としてのサービスへの転換につなげる
特定のインタフェースに依存しない情報提供と利活用可能な次世代OPAC(「OPAC2.0」)の実現