情報組織化研究グループ勉強会記録(2009年度)
「新時代の目録規則」第1回
- 日時:
- 2009年3月24日(火) 19:00〜
- 会場:
- 日図研事務所104号室
- 発表者 :
- 松井純子氏(大阪芸術大学)
- テキスト :
- 「次世代OPAC」関係文献
- 出席者:
- 尾松(奈良県立図)、川崎(佛教大)、杉本(相愛大)、田窪(近畿大)、堀池(摂津市施設管理公社)、松井(大阪芸大)、横谷(大手前大学図)、吉田(大手前大)、渡邊(帝塚山学院大)
0.はじめに
今回のテキストはいずれも、海外で運用の始まっている「次世代OPAC」の特徴と機能をみながら、その導入や検討の状況、今後の(日本の大学図書館への導入における)方向性について考察するものである。
1.「次世代OPAC」に対比されるOPACの現状について
- 機能面では、
- 統制語・論理演算子・キーワードの組み合わせなど活用には専門知識が必要=「しかるべき入力」をしなければ「しかるべき解」が得られないことが利用者にはハードルとなっており、(OPACでの検索で完結せず)Amazonで検索し直したり、Amazonで先に検索するなどということさえ起こっている。
- 管理対象面では、
- 印刷媒体の所蔵資料の管理を前提としていて、それ以外のリソースについては十分に対応できていない。
*いまや「所蔵資料」ということではなく、オープンアクセスのリソースの利用なども含めた、(自館所蔵に限らない)「利用可能資料を」という考え方が必要である。
2.「次世代OPAC」とは
- 工藤絵理子,片岡真
- (P.480)膨大な所蔵情報を確実に利用者に提供するためのWebサービスとして、「OPAC2.0」すなわち次世代OPACの開発が世界で進み、導入が急増している。
- 久保山健
- (P.603)"検索結果の絞り込み機能や、関連語のサジェスト機能など、仕組みやデザインを工夫し、直感的に利用できるよう設計されたOPAC"
*主にwebの世界の流れを受けて語られることの多い「次世代OPAC」だが、定義は曖昧といえる。(現状も。本テキストでも)
→ここでは、両テキストにとりあげられた「次世代OPACの機能」と各筆者の評価を以下にあげる。
- ユーザーインターフェース (=画面構成の工夫など)
〔工藤・片岡〕:何度もクリックすることなく、一つの画面で必要な情報を多く取得でき、「大きなメリット」
〔久保山〕:(シンプルな検索ボックス)世の中の動向を踏まえて「肯定的に受け止めてよい」。
- 検索語の入力支援機能 =入力キーワードのスペルミスや単・複数形の違いを指摘する機能、自動修正機能、入力候補提示機能など。
*このまとめでは、一般的な(入力時の)サジェスト機能とタグクラウドは分けた。
- 関連語の表示 =入力キーワードとは別の(有効であろう)キーワードを示唆する機能。
〔工藤・片岡〕:典拠ファイルによる統制語を元に、利用者の気付かなかったキーワードを教えてくれ、関連語も含めて検索できる。「実際、利用者にはこの部分が最も目を引くようだ」
〔久保山〕:館員の評価は高い。個人的にはどのようなロジックであるか「理解しにくい」。
- 絞り込み機能 =主題など予め用意された項目で絞り込む「リファイン」「ファセット」と、形態素解析等手法を用いてデータを解析し、関連するテーマ等でグループ化する「クラスタリング」
〔工藤・片岡〕:キーワードを再入力することなく、検索結果から必要なものを抽出できる。利用者がその場でアクセス可能な資料のみを表示させることも可能。
〔久保山〕:資料件数の表示→「新鮮な印象」。"リファイン"・"ファセット"→「誰にでもわかりやすい」。"クラスタリング"→「ロジックに対する信頼感を持ち得なかったが、一種のサジェスト機能として有用」
- ソート機能
〔工藤・片岡〕:適合度でのソートが実現されていて、「順に並べて表示してくれる」。
〔久保山〕:(適合度によるソート)多くの検索結果から求めるものを探すには有効ではないか。(ないよりはましと考える)
*OPAC以外にも最もよく使われているだろう機能だが、なにをもって適合とみているのかが不明である。
- 統合検索機能
〔工藤・片岡〕:(論文検索)統合が進むことが予想される。(機関リポジトリ)検索対象になる意味は「非常に大きい」
- リコメンド機能 =この本を借りた人はこの本も借りています、というおすすめをする機能。
〔久保山〕:コメント、レビュー機能よりは役立ちそうで導入しやすい。一方で、貸出数の母数が少ない中から効果的なリコメンドができるのか懸念がある。
- 利用者参加型機能 =読者が感想等(コメントやレビュー)を書き込むWeb2.0的機能。
〔工藤・片岡〕:「Web2.0といえばまずイメージされる機能であろう。」
〔久保山〕:上手く活用できれば、利用者同士の知的な刺激になるだろう。一方で課題として、認証/認可の仕組みの必要性、利用者の母数が少ない中での効果はどの程度でるか?等がある。
- 書誌情報出力機能 =RefWorks・お気に入り・ソーシャルブックマークへの書誌情報出力、RSSフィード(情報配信)など
〔工藤・片岡〕:(書誌情報出力)利用者がさらに多くの情報・サービスを得られるよう工夫されている。
*特に目録データとの関連性があると思われる機能については意見・疑問も多く出されたが、どういったデータをどのように用いているのか、そのロジック等は明らかでない。
3.「次世代OPAC」の導入・検討状況
- 北米での導入状況 …多くの大学図書館で導入が進行中
- 東アジアでの導入状況 …Primo(Ex Libris社)を中国が導入、韓国版を開発中
- 日本での導入状況 …本稿執筆時点での導入事例はなし
日本での検討状況 − 実験的取り組みについて
- Project Next-LのプロトタイプOPAC …ファセット検索、ソーシャルタギング等の実装。
- VuFind(ヴィラノーヴァ大学) …日本語環境への試験的適用を行っている。
*VuFindは目録データフォーマットの変換・日本語検索に成功するなどで日本での導入実現に最も近いとされたが、
日本語検索の実現に向けては、オープンソースであるからこそ第三者の取り組みが可能である例といえる。
また、MARCフォーマット変換についてはNIIが2008年11月からデータ提供を開始している。(→NACSIS-CAT/ILLニュースレター25号((
http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/PUB/nl2/No25/005P.htm) [Accessed 2009.3.30 ])
日本での検討状況 − 国内ベンダーや代理店の対応状況について
- 富士通社(iLiswave-J)…OPACのWeb2.0化を意識したバージョンアップ予定。
- Ex Libris社(Primo)…代理店であるユサコ社による、次世代OPACの国内向け紹介。
- リコー社(LIMEDIO)…Web2.0を取り入れるバージョンアップ計画。
- NEC社(LICSU-Web)…図書館パッケージシステム機能強化のためのヒヤリングを開始。
日本での検討状況 − 大学図書館の対応状況について
幾つかの国立大学図書館で次世代OPACを意識した更新計画を策定中。また、大学図書館同士の連携事例に以下がある。
- 「次世代OPAC・NECユーザ会」
次世代OPACそのものについての情報交換や、機能要件・優先順位についての話し合い。
- 「次世代OPAC情報交換用メーリングリスト」
海外製品・事例の紹介、国内でのセミナー紹介やその報告を行っている。図書館関係者以外にも、国内ベンダー・海外ベンダーおよび代理店・ベンチャー企業など数社が参加。
4.国内で次世代OPACを導入するための方向性についての考察
- 海外製次世代OPACの導入・運用上の負荷軽減のために、国内ベンダーによるサポートが望まれている。
- より少ないコスト・負荷で、よりよいシステムの開発(ベンダー)と導入(図書館)を行える可能性を担うものとして、共同して次世代OPACについて意見交換を行い、方向性や機能要件の共有を計る検討を行うといったコンソーシアムの形成が提案されている。
- また別の観点から、ジョイントカタログ(複数館によるOPAC共同運用)の実現や、さらに次世代の総合目録データベースへの展開について考察されている。 (⇔*ジョイントカタログとは?通常はユニオンカタログでは?)
5.国内での次世代OPAC導入にむけた課題点
日本における目録システムに固有の要素として、言語(日本語対応=日本語インデクシングや検索機能の実現)、目録規則と目録データフォーマット(CATP対応)が挙げられる。他方、導入・運営に関して、サポート体制も含めた安定性(安心感)やコストへの考慮も必要なこととして挙げられている。
*まずは、多くの次世代OPAC的機能の中でなにが重要であるのかということと、実用化のための課題を検討することが必要であろう。