情報組織化研究グループ勉強会記録(2009年度)

「新時代の目録規則」第2回


日時:
2009年4月9日(木) 19:00〜21:00
会場:
日図研事務所104号室
発表者 :
吉田暁史氏(大手前大学)
テキスト :
RDA関係文献
  • 古川肇「未来の記述規則−AACR3第T部案からRDA第T部案へ」『資料組織化研究』52, 2006.6, p.1-16
  • 古川肇「未来の書誌レコードに関する規則--RDA第1部案からRDAパートA案へ」『資料組織化研究』 53, 2007.3, p.25-34
出席者:
川崎(佛教大)、杉本(相愛大)、田窪(近畿大)、堀池、松井(大阪芸大)、 横谷(大手前大学図)、横山、吉田(大手前大)、渡邊(帝塚山学院大)

1.AACR2改訂のこれまで(2004〜2006)

AACR2改訂の動き:
エリア別構成の提案 →通則と補遺規則との組み合わせからなるAACR3第I部案の提示(JSC構成団体にのみ。2004.12)
→改定方針の見直し(2005.4)
→AACR3という名称(略称)を放棄、RDAへ改題し、第I部案を一般に公開。(2005.12, 2006.1)
→構成を変更し、RDAパートA案(の後半部分)を公開。(2006.6)

2.AACR3第I部案からRDA第I部案へ

AACR2改訂の動機:
・ 現行の資料種別では電子資料の出現がもたらした資料形態の変貌に対応できない(とりわけ電子資料と既存資料の複合形態の登場)
・ AACR2第I部の章立て(=資料種別)の区分の混乱(物的形態・表現媒体または内容による章立ての混在)

AACR3第I部案の特色:
  • 一般資料種別を内容種別と媒体種別の2系列とした。内容とは、内容の表現手段である文字、音符、地図記号等と解される。
  • 刊行形態として、継続刊行資料(逐次刊行物+継続多巻資料)、更新資料の節が設けられている。
  • FRBRにあわせてitemの意味を「個別資料」とし、従来の「記述対象」の意味にはresourceを用いる。
そのほか、規定の一般化(拡張)、粒度の意識の強化がうかがえるなど。
JSC構成団体の反応:
全貌は明らかでないが、JSC構成団体から以下のような批判やコメントがあった模様。
  • 国際的な互換性(ISSN)、メタデータ標準との一貫性、FRBRのより厳密な適用等に課題が残っている。
  • 図書館界の『仲間言葉』が多く、他のコミュニティで容易に使用されるとは思えない。
  • 既存書誌レコードまたは記述への考慮が不足。      など
JSCの方針転換:
諸意見を受けて、JSCはそれらに対する認識と、改訂方針を見直すことを示した。(2005.4)
改訂方針見直しの主な点は、全体構成の変更、構造をFRBRやFRADとより密接に連携させる、方向転換を示すため改題する、など。

3.RDA第I部案

1) RDAの全体構成

General Introduction  
Part I:Resource Description  …第2章から第6章までが、従来の記述規則に相当。(第5〜6章は今回拡充)
AACR2第T部と概括的に比較すると、非書誌的事項(第5章)、個別資料(第6章)、シンタックス(付録D)を分離し、残りを転記事項等(第2章)、形態事項(第3章)、内容事項(第4章)に三分したと見られる。注記に関する規定は関係部分に分散された。
Part II:Relationships   
Part III:Access Point Control  
Appendix …今回提示案に、付録Dが含まれている。
AACR3第I部案 との主な相違点
  • general chapter+supplemental chaptersという構成は撤回。
  • セマンティクスとシンタックスを分離、本文はセマンティクスのみに関する規定となる。(シンタックスについては付録へ。)※Content standardになった。
  • エリア別規定をエレメント別に。 ※12項目に大別。
    資料種別ごとの規則構成から、記述要素ごとの構成へ。
  • AACR3からRDAへ改題。(『パニッツィ以来のcataloguingという言葉がタイトルから消えたのは時代の転換を象徴している』)

2) RDA第I部案概観

第I部序論
第I部がアナログ・デジタル双方の資料に関する包括的な規則である事が述べられるなどした後に、各章の概要、続いてセマンティクスとシンタックスの分離が宣言されている。(→付録D)
第1章 General guidelines on resource description
Resourceの規定、刊行形態での区分(4種)、記述のタイプ区分(3種)、また、content designatorにより記述からアクセスポイントへ直接結び付けることが可能とする。
第2章 Identification of the resource
情報源に関する規定を大幅に緩和し4種の資料ごとにpreferred sourceを指定(一般化の典型例)、また諸条項が各エレメントの下にまとめられている。"rule of three"は別法との変更等が加わったが、その他に十分でないと思われる規定が未だある。また、章のタイトル"identification"は不適切であろう。
第3章 Technical description
キャリアの物理的性質などを扱う。重要と考えられる 3.2 Media category、3.3 Type of carrierが未完。数量についてユニットとサブユニット(例:冊数とページ数)を『明確に区別した点は良い』。
第4章 Content description
contentの意味が、AACR3第I部案における内容の表現手段から字義通りとなり、資料の内容を扱う。
第5章 Information on terms of availability, etc・第6章 Item-specific information
第5章は資料の入手に関する情報、第6章は個別資料に特有の情報(来歴、保存状況、アクセス制限など)を扱う。
付録D
付録DのPresentation of descriptive には、RDA対ISBD(G)のマッピングを掲載。同時にこれがOPACのディスプレイのガイドラインにもなっているという。

3) RDA第I部案への再批判

いくつかの機関による再批判が公開され、中でもアメリカ図書館協会は極めて示唆に富む批判、(図書館界外の)他コミュニティにおける有用性のための提案・構造上の問題点指摘・逐条批判を展開している。(2006.3)


4.RDA第I部案からRDAパートA案へ

3部構成のRDAのうち第I部案が2006年1月までに公開された後、2006年6月に、第I部案に続く「第II部 関連」に位置づけられていた内容がRDAパートAの後半部分として提示された。
全体構成を3部構成から2部構成に改変、旧第I部と旧第2部を統合してパートAとし、第III部はそのままパートBと改称した。
旧第I部案がパートA第2〜5章となり(ただし旧第I部案第6章は解体され先行諸章に吸収)、旧第II部に相当する部分はパートAの第6〜7章に位置づけられる。

構成再変更の主な背景:
・JSC構成団体見解への対応
 (「記述」要素と「アクセス」要素の区別は不必要である、また関連を表す様々な要素の扱いが首尾一貫していない)
・図書館界以外のコミュニティの標準への対応
 (一般に「記述」を資料の発見と識別に用いられる諸要素を包括するものとみなしている)
→旧第I部と旧第2部を統合して各序論を一つにまとめることは構造の緊密化をもたらす。またパートAの構造は、FRBRのいう利用者タスクとの連携を見込む。

5.RDAパートA(後半部分):2006年6月公開案

1) 第6章 Related resources.

第6章の構造:
6.0 「目的と範囲」(このタイトルはパートA全章のx.0に共通)
6.1 ガイドライン
6.2 / 6.10 関連の各種類
6.11 / 6.13 特殊資料(音楽資料、美術資料、法律関係資料)に関する追加条項

関連について始めて独立の章が設けられたことは画期的であり『高く評価』される。
なお、集合と部分の関連に関して、全体・部分・多段階記述、シリーズ、共通・部分タイトル、Contents(旧contents list)にも分散して規定が存在する点の指摘がある。
関連の記録方式:
関連資料の引用、関連資料のアクセスポイント、関連資料の記述の埋め込み、関連資料への非定型参照、関連資料の識別子、の5種類。関連の種類との組み合わせによるマトリックスとなる。
関連の種類:
集合と部分の関連、部分相互の関連、原資料と複製の関連、フォーマット相互の関連、原資料と派生資料の関連、主資料と付属資料の関連、版相互の関連、同時刊行の関連、先行資料と継承資料の関連、の9種類。記録方式のうち非定型参照方式を記録するに際しては、第3章3.22、第4章4.7、4.10を援用するように指示されている。
※この時点では、FRBRの表現形・体現形について明確には扱われていない。

2) 第7章 Persons, families, and corporate bodies associated with a resource.

第7章の構造:
7.0 「目的と範囲」(このタイトルはパートA全章のx.0に共通)
7.1 ガイドライン
7.2 primary access pointの選択
7.3 / 7.5 secondary access pointの選択
7.6 「役割表示」
7.7 / 7.12 特殊著作(音楽作品、美術作品、法律関係著作、宗教関係著作、公式通達、学術著作)に関する追加条項

本章では、AACR2でのmain entry から改称されたprimary access point、およびadded entry から改称されたsecondary access pointの選定について扱う。
AACR2では基本記入、副出記入、特殊著作、録音物についての条項が入り混じっていた点は改善されている。
※なお、アクセスポイントという考え方は、後のRDAではmanifestationから切り離されて著作の識別子ということになる。
primary access point:
primary access pointの選択については、7.2.1/7.2.8 に細分されているが、著者数・著作形態・著述形態という3つの区分原理が並立しており『使い分けに関する何らかの指示が必要』。
また注目するべき改訂として、7.2.1で団体が責任を有する著作のカテゴリーリストから「法律や行政上の著作」が除かれている。
secondary access point:
その範囲が、出版社・製作者・所蔵者・管理者などにも拡張された。
その他:
・ 役割表示については、適切な標準的リストを利用するよう指示があるが、実質的な規定が皆無。
・ 特殊著作に関する条項については、一般著作と同じ条項を適用する中に部分的にこれらの条項が適用となる。
なお、分量的不均衡に関して、JSCも通則との統合の可能性について意見を求めていて、この部分の解決は今後に持ち越された課題の一つになっている。