情報組織化研究グループ勉強会記録(2009年度)
「新時代の目録規則」第3回
- 日時:
- 2009年5月8日(金) 19:00〜21:00
- 会場:
- 日図研事務所104号室
- 担当者 :
- 松井純子氏(大阪芸術大学)
- テキスト :
- RDA関係文献
- 出席者:
- 末田(神戸大学図)、田窪(近畿大)、堀池、松井(大阪芸大)、村井(日本アスペクトコア)、横谷(大手前大学図)、吉田(大手前大)、渡邊(帝塚山学院大)、和中
1.AACR2改訂のこれまで(2004〜2007)
- AACR2改訂の動き:
- エリア別構成の提案 →通則と補遺規則との組み合わせからなるAACR3第I部案の提示(JSC構成団体にのみ。2004.12)
→改定方針の見直し(2005.4) →RDA第I部案を一般に公開。(2005.12, 2006.1)
- ・AACR3という名称(略称)を放棄、RDAへ改題。構成変更。
- ・一般資料種別による縦枠の撤廃、エリアの廃止、シンタックスを規定範囲外とする等の改訂。
- →書誌レコードを扱うパートA/典拠レコードを扱うパートBの2部構成とし、RDAパートA案(後半部分)を公開。(2006.6)
- →第2次案を公開。(2007.3〜6)
→2つのセクション群からなる新構成案の発表(2007.12)
2.メタデータ・スキーマとの調整への関心とRDA Scope and Structure
- RDA Scope and Structure は、RDAの枠組みに関わる関連文書のうちの1つであり、
- ・「概念モデルの提示を」というアメリカ図書館協会目録委員会による要望に応えるためと察せられる。(2006.12-)
- ・FRBR、FRAD、DCMI Abstract Model と 〈indecs〉Metadata Framework の影響下に、RDAの範囲と構造を述べたもの。
- ・メタデータ・スキーマとのマッピングのための語の定義、属性の種類の区分、バリュー・サロゲイトとバリュー文字列などの用語、がみられる。
- →メタデータとの親和性の方向を打ち出したもので、これがその後の基調となる。
3.RDA案パートAの概観
1) 全体構成
Introduction |
|
第1章 |
…(一般的ガイドライン) |
第2章 |
…AACR2第I部のタイトルと責任表示エリア、版エリア、出版・頒布などのエリア、シリーズエリアとほぼ同範囲。FRBRに列挙された体現形の属性を第3章との間で二分。 |
第3章 |
…AACR2第I部の形態的記述エリアとほぼ同範囲。 |
第4章 |
…著作の属性と表現形の属性の2部構成。 |
第5章 |
…AACR2第I部の標準番号と入手条件エリアとほぼ同範囲。 |
第6章 |
…資料と結合した個人・家族・団体の選択についての規定。 |
第7章 |
…関連の種類と記録方式についての規定。 |
付録 |
…メタデータ・スキーマ(MARC21、ISBD、DublinCore等)とのマッピングの他、役割表示を表す統制語彙リストと関連表示を表す統制語彙リスト。 |
2) 第2次案における第3章と第4章の内容
RDA案の資料種別は、メディア・タイプ/キャリア・タイプ/コンテント・タイプの3者からなる。
前の2つが「第3章 キャリア」、最後の1つが「第4章 内容」で扱われる。
(これはJSCと英国出版業界の代表との間での討論を経た共同成果であり、ONIXと共有されている。第1次案では提示なしであった。)
- メディア・タイプは現在の一般資料表示にほぼ相当すると見られる。区分は媒介機器の種類による。(audio, computer, microform等8種)
- キャリア・タイプは特定資料表示にほぼ相当すると見られる。メディア・タイプを細分したもので、区分は当該資料の保管形態と収容形態による。(audio cartridge, audio disc等)
- コンテント・タイプの区分は、表現手段、感覚、像の次元、像の動静による。(moving image, sounds, spoken word, text等)
3) 第2次案における第6章と第7章の内容
第1次案の第6章と第7章が入れ替わり再構成。アメリカ図書館協会目録委員会によるコメントが大幅に取り入れられた。
- primary access point/secondary access point の別の廃止。primary access pointに関する規定はパートB第13章へ移され、標目の選定に関する規定を第6章内に再構成。
- 第6章ではcreatorとcollaborator の区別、contributorの様々なタイプ間の区別、人数3と4の間の区別がなくなった。
- 役割表示を表す統制された用語のリストが、付録に収められる予定となった。
これはアメリカ図書館協会目録委員会が役割表示の使用を勧める強い表現をRDAに含めるよう勧告した結果と思われる。(役割表示は目録の内容を豊かにする要素、基本記入方式ではない目録において『それを補う役割を果たす』)
- 第7章では、関連の種類(7種類)と記録方式(3あるいは4種類)のマトリックスで整理されている。関連の種類を表す関連表示の、統制された用語のリストが付録に収められる予定。
なお、第1次案における特定資料(音楽資料、美術資料、法律資料)に関する追加条項は全廃された。
→第6章はもはや『これがAACR2の第21章に対応しその改訂版である、とは言いがたい』。
一方、AACR2のmain entryを継承する面として、creator と originating bodyは、他の役割の個人・家族・団体が選択であるのと異なり必須とされており、『primary access pointに他ならない』。
4.新しい構成の発表
- 2007年6月時点までの構成: 書誌レコードを扱うパートA、典拠レコードを扱うパートBからなるパート構成。
- ↓
- 2007年12月に公開された、新しい構成:
- FRBR の実体の各属性の記録と、実体間の関連の記録とを扱う2つのセクション群からなる構成。
(※全体通番の1〜37章 が10セクションに分かれ、それらが"Attributes"・"Relationships"の見出しにより2つの群に分かれた構成で、現在と同じ形)
- JSCが説く構成変更の利点:
- ・FRBRとの調整→カタロガー、システム・デザイナーの両者ともにとって、FRBRを理解すればRDAの理解が容易に。
- ・特定のレコード構造と結び付けないため、他のコミュニティにとっても理解しやすい。
- ・ 柔軟で拡張性が高いため、データベース・モデルの変更にもあわせて移行しやすい。
- 背景:前案に対する、JSC構成団体からの異論
- データベースのモデルはいまやリレーショナルまたはオブジェクト指向データベースであるのに、現行の書誌レコードと典拠レコードがリンクされた構造に密着し過ぎ/FRBR、FRADとの調整が不十分・章構成が不適切 など。
5.新構成RDAの概観
1) RDA構成の根幹
- 従来の目録規則が何(意味)をどのように構成するか(構文)について規定していたのに対して、RDAは前者のみを規定し後者を各機関にゆだねた。
- 目録にかかわる諸実体の属性に関するエレメントおよびそれらの実体間の関連に関するエレメントを規定。
2) 全体構成、FRBR・AACR2 およびRDA 前案との対比
一般的序論 (General Introduction)
RDAの根底に横たわる諸原理や概念モデル、RDAの全体像が提示され、必須のエレメント(各属性および各関連)の一覧表が含まれる予定。
- [第T部:実体の属性の記録](セクション1-4)
- セクション1 体現形・個別資料の属性の記録(第1-4章)
- FRBR第1グループに属する実体の属性について規定。
AACR2第T部のほぼ全体に相当する。(が、資料種別による章立てやエリアは廃止、直ちにエレメント別に規定)
- 2章 体現形および個別資料の識別 →主として、前案パートA第2章に当たる。
- 3章 キャリアの記述 →前案パートA第3章に当たる。(形態に関する事項)
- 4章 取得とアクセス情報の提供 →主として前案パートA第5章に当たる。(ISBD第7エリアに関する事項)
- セクション2 著作と表現形の属性の記録(第5-7章)
- FRBR第1グループ中の著作と表現形の、統一タイトルの形式等を規定。
- 6章 著作と表現形の識別 →AACR2の21.30Jと第25章を包含
- 7章 著作および表現形の付加的属性の記述 →主として前案パートA第4章に当たる(ただしコンテント・タイプは今回案の第6章へ移行)
- セクション3 個人・家族・団体の属性の記録(第8-11章)
- FRBR第2グループに属する実体の属性について規定。(個人・家族・団体の各形式)
- 9章 個人の識別 →AACR2第22章(個人標目の形式)に相当。
- 10章 家族の識別 →新たに独立させた家族を扱う。
- 11章 団体の識別 →AACR2第24章(団体標目の形式)に相当。
- セクション4 概念・物・出来事・場所の属性(第12-16章)
- FRBR第3グループに属する実体の属性について規定。
- 16章 →AACR2第23章(地名の形式)に相当。
- [第U部:実体間の関連の記録](セクション5-10)
- セクション5 著作・表現形・体現形・個別資料の間の主要な関連の記録(第17章) →前案第7 章7.3に当たる。
- FRBR第1グループの実体相互の関連に関するガイドライン。この関連は、関連中、最も主要なものと位置づけされている。(※FRBRにおいて)
- セクション6 資料と結合した個人・家族・団体の間の関連の記録(第18-22 章) →前案第6章に当たる。
- FRBR第1グループの実体の各々と、FRBR第2グループの実体との関連を扱う。
- セクション7 主題の関連(第23 章):FRBR第3グループに属する著作と主題との関連についてのガイドライン。
- セクション8 著作・表現形・体現形・個別資料の間の関連の記録(第24-28 章) →前案第7章(7.3 を除く)に当たる。
- FRBR第1グループの各実体ごと相互の関連(著作と著作等)を扱う。
- セクション9 個人・家族・団体の間の関連の記録(第29-32章)
- セクション10 概念・物・出来事・場所の間の関連の記録(第33-37章):FRBR第3グループの各実体相互の関連を規定。
- 付録
- D(記述データのシンタックスの記録)、 E(アクセスポイント・コントロール・データのシンタックスの記録)
- シンタックスの消去を補おうとするもの。DにRDAの記述要素のISBDによるディスプレイの仕方、ISBDに基づく分出記録と多段階記述に関する規定、MARC21フォーマットやダブリン・コア等における記述要素の記録に関する案内。E に典拠レコードのシンタックスに関するガイドライン、MARC21とのマッピング表を含む。
- J〜M(諸種の関連表示)
- このうちLは従来の役割表示を大幅に増補したもの。
用語解説
付録から独立。ダブリン・コアやW3Cのセマンティック・ウェブと共用される用語が多く登場すると予想される。
6.新構成RDA:2007年12月公開案
1) セクション2 (統一タイトルを中心に)
- 優先アクセスポイントは現行の統一標目に、異形アクセスポイントは現行の「を見よ」に相当。優先アクセスポイントは、優先名称とその他の識別属性(生没年などを指すがFRADに準拠し大幅に増補)からなる。
- 統一タイトルを、「著作(または表現形)を表現する優先アクセスポイント」とよび、a) 著作に責任を有する個人・家族・団体に対する優先アクセスポイント, b) 著作に対する優先タイトル の2要素から構成される。(AACR2と一貫している)
- ・協力による著作(第2カテゴリー)に関して、著者全員を掲げる別法の提示は『評価できる』。
他方、動画像と逐次刊行物の優先アクセスポイントは優先タイトルのみで構成するとの例外規定があるが、AACR1以前への逆行であり『承服しがたい』。
- ・諸著作の編纂もの(第3カテゴリー)に関して、編纂者が著者とみなせない場合の規定があるが『適用困難であろう』、編纂者は著者とみなさない『AACR2の方針を維持するべき』。
- 総合タイトルを欠く場合は内容著作ごとに別々のアクセスポイントを付与する『粒度の面の改善』
- 各々が固有のタイトルを有する複数の作品全体に総合タイトルがある著作について総合タイトルを本タイトルとし、他を異形アクセスポイントとする。(他条項と不整合→※なお、最終的には再度の変更でAACR2とほぼ同じ形になっている)
2) セクション3,4,9 (個人・団体・家族標目と地名)
- AACR2との間に大きな異同はない。ただし、個人標目について、同一個人の複数の名および同一名の複数の形からの選択について『AACR2での順序を変えるべきではない』。
- 家族について新しく章を分けたことの意義は、1) アーカイブズの領域との相互利用性(RDA適用の拡張)のため、2) 件名標目に任せていた側面(家族名)の取り込み、3) MARC21などの資源記述スキーマでの慣行の追認、と考察される。
7.新構成案に対する批判と今後の予定
1) 批判
- 米国図書館協会目録委員会の批判(2008.3): 基本的には新しい構成を歓迎しているが複雑で反復が多いとし、構成に関する代案を提示。 →『錯綜する関連の部…見通しが開けるように思われる』。
- 伝統派からの批判: AACR2 のエディターだったゴーマン(Gorman, Michael)による痛烈な批判(2007.12)。
- 革新派・メタデータ側からの批判: コイル(Coyle, Karen) とヒルマン(Hillmann, Diane)の論文(2007)では『トップ・レイヤー、即ちモデル・基本原理・通則に関する合意の達成という新しい目標を設定し、詳細は個々のコミュニティに任せる方がはるかに良い』とされる。
2) 今後の予定について
- 米英加豪4国の国立図書館による共同表明(2007.10): RDA案を高く評価、2009 年末までにRDA を導入する予定とした。
- 米国議会図書館設置のワーキング・グループ勧告(2008.1): RDA に関する作業の一時中止を勧告。
- LC等米国の3 国立図書館による共同宣言(2008.5): 国際的に先導の役割を果たす存在であるRDA の完成へ向けて協力するものの、完成後に費用対効果の評価を行った上で導入か否かを決定するとした。
→JSC 自らも最終案の公開を2008年10月、公刊を2009年第3四半期に設定した上で、2009年第4四半期から2010年早期までを評価期間と位置づけている。