情報組織化研究グループ勉強会記録(2009年度)

「新時代の目録規則」第5回


日時:
2009年6月18日(木) 19:00〜21:00
会場:
日図研事務所104号室
担当者 :
堀池博巳氏
テキスト :
国立情報学研究所次世代目録ワーキンググループ「次世代目録所在情報サービスの在り方について(最終報告)」2009.3
http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/archive/pdf/next_cat_last_report.pdf
最初から「2.システム:データ構造とデータ連携」の最後まで
出席者:末田、鳥谷、堀池、松井、村井、横谷、横山、渡邊
 


1.はじめに −「次世代目録ワーキンググループ」

1)「次世代目録ワーキンググループ」の設置

国立情報学研究所(以下NII)では、目録所在情報サービスについて中長期的な検討をおこなう「次世代目録ワーキンググループ」を「学術コンテンツ運営・連携本部 図書館連携作業部会」の下に設置した。

学術コンテンツ運営・連携本部:
『わが国の最先端学術情報基盤の構築に向けて、その中核となる学術コンテンツの形成およびサービスの提供に関する企画、立案、運営を担う大学等との連携組織』
図書館連携作業部会:
『学術コンテンツ運営・連携本部に関連する事案について具体的な検討を行うことを目的とする』
次世代目録ワーキンググループ:
『2009年4月および2013年度に予定されているシステムリプレースに関連して、中長期的な視点で今後の目録システムの在り方について検討することを使命として、2007年6月に』設置。
機関リポジトリ
ワーキンググループ
現状認識:
NIIの目録所在情報サービスは、
  • 参加機関における目録作成および相互貸借のための基幹システム(書誌ユーティリティ)として
  • NACSIS-Webcat等サービスを通じた、学術研究、教育に欠かせない目録所在情報の提供において
重要な役割を果たしてきた。が、『新たな機能の実装や運用体制の整備の必要に迫られている』。
次世代目録ワーキンググループ(以下、WG)の目的:
NACSIS-CAT に限らず、ILL、Webcat 等のサービスシステムを含め、いわゆる「書誌ユーティリティ」の機能や運営の全般に関する発展および整備の方策の立案
WG最終報告:
WGはNIIおよび目録所在情報サービスの参加機関が取り組むべき課題について取りまとめた最終報告「次世代目録所在情報サービスの在り方について(最終報告)」を2009年3月に公表。

2) 活動の経過

2007年度(2007年7月2日に第1回〜、計5回開催) → 2008年3月末に「中間報告」
2008年度(3回開催) → 2009年3月末に「最終報告」

(関連のできごと)
・2007年7月、公立大学協会図書館協議会から要望書
・2007年11月、国立大学図書館協議会から要望書
・2007年11月末、WGと国大図協学術情報委員会の合同の意見交換会開催
・2008年3月末『中間報告』へのパブリックコメント募集
・2008年6月『次世代の目録所在情報サービスを考える』ワークショップ開催

2.報告書の背景となるもの − 大学図書館界を取り巻く環境の変化

  1. 電子的情報資源の拡大とそれに伴う情報の「粒度」の変化
    ・電子ジャーナル・電子ブックといった電子的手段への急速な変化、Web情報資源の拡大
    → 旧来からの学術情報資源(およびそれらの電子化)に加えて、機関リポジトリ・分野別リポジトリの資料等、学術情報源の範囲が拡大。新たなビジネスモデルの出現等も
    ・学術情報の流通が、一論文または一章といった構成単位を含むものへと変化している(情報の「粒度」の問題)
    → 構成単位に対応するメタデータ作成(記録)とそれらの関連(リンク)形成がより一層重要に

  2. 電子的情報資源の量的、質的両面での目録記述の困難さ
    ・(印刷体を前提とした資料以外の)電子的情報資源に対する書誌的記述の作成方法は必ずしも確定されておらず、また従来の所蔵の概念があてはまらない所蔵(アクセス)情報固定の難しさが問題点
    → 従来の目録作成方法の適用は困難、早急に何らかの対応が必要
    ・先述の粒度の変化をうけた記述対象量の増大
    → 質の高いメタデータを、どのように効率的に作成または提供するかが重要な課題

  3. 電子的情報資源間のリンク可能性の増大
    ・サーチエンジンによる粒度の異なる情報資源に対する発見可能性の拡大と、図書館目録の役割の相対的低下の認識を前提とした図書館目録の機能の再検討
    → 目録対象範囲の拡大に対応する自動化処理と精緻化という2つのベクトルをどう処理するか、また図書館目録のレコードをいかにして電子的情報資源と結びつけ、かつその永続性を保証するかが課題

  4. 電子的情報資源の増大に伴う利用者行動スタイルの変化
    ・利用者行動の変化に対応した諸機能(適切な情報資源へと導くリンリゾルバや、情報源への参照の管理・共有機能)への注目
    → 参加機関における利用者のネットワーク上での行動を前提とした、新たなサービス展開に対応できるようなシステムの構築が必要

  5. 図書館システムの複雑化
    ・様々なシステムや新しい機能が、それぞれに繋がりのない断片的なものとして実現されている
    → 利用者にとっての使いづらさ、および図書館にとっての管理の難しさとなっている

  6. 参加機関における経営合理化の要請と業務の多様化への対応体制
    ・(参加機関における)経営合理化要請や、新たな情報資源の出現に伴う業務多様化への対応体制を確保する必要性
    → 旧来処理の省力化を推進してより効率的な入力を行う方式を求める意見があり、また一定の水準の目録データベースを継続的に運用し、資料の共同利用を促進していくための運用基盤も課題

以上のような課題は、大学図書館のみならず図書館界全般に関わる。また、問題の本質は世界に共通する情報基盤の根本点な変化に基づくものであり、課題の多くは世界的に共通。

* 米国議会図書館ワーキンググループの2008年1月の報告書On the Record → 本WGの議論にも共通
* Googleブック検索に対する和解案:2008年10月に著作者団体および米国出版社協会との合意。集団訴訟裁判のため、米国以外の著作者にも波及。各国・団体で対応が分かれる。裁判所の裁定は2009年秋に出される予定。

3.「次世代目録所在情報サービスの在り方について(最終報告)」
 〜「1.資料:電子情報資源への対応」から「2.システム:データ構造とデータ連携」まで〜

最終報告では、ネットワーク基盤上でコンテンツ間を結ぶ重要な経路の一つとしてNACSIS-CAT/ILLを位置づけた上で、その機能を再構築していくことが必要とし、電子ジャーナルなどへの対応、データの構造・形式と連携(国際標準化・API公開)、運用体制の見直し・効率化などについて論じられている。

1) 資料:電子情報資源への対応

問題点:
電子ジャーナルや電子ブックと印刷体の雑誌との、目録所在情報を一元的に管理する環境が整備されていない。
→ 印刷体を中心とした従来資料の所蔵を前提として構築されたNACSIS-CATには情報が蓄積されず、結果、同資料の一元的な検索機能の提供やILL利用が進んでいない。

* 電子情報資源管理システムERMSは、DLF ERMI(Digital Library Federation Electronic Resource Management System Initiative)が公表した仕様書が事実上の標準。問題点としては、それ自体として電子情報資源の目録作成を機能として持っていない。従来のように電子情報資源の目録作成は書誌ユーティリティと連結した図書館システムで行われている。

* 電子情報資源メタデータの標準化・品質の安定化が必要という現状に対し、逐次刊行物の購読情報の電子交換のための標準化、データ交換用XMLフォーマット開発の動きがある。日本では出版社やベンダーによるメタデータ提供が遅れている中、DOAJJや国立国会図書館・ISSNセンターが管理する逐次刊行物データ(報告書時点では非公開、ISSN Portalでの提供の他、2009年7月より試験的にTSV形式での提供を開始)が注目される。

方向性と検討結果:
  • 新しい資源発見システムの構築が急務。
  • 印刷体資料の「所蔵」と電子情報資源の「アクセス権」の両方を同様に扱えること、また、NACSIS-CAT と参加機関のERMS等のシステム間で書誌情報・アクセス情報の交換を行えるシステムであることを前提とすべき。

* NIIでは、平成19年度から電子情報資源管理システム(ERMS)実証実験を開始し、ワークフローの検証、リンクリゾルバ・図書館業務システムとの連携の検証などを行っている。平成20年度には、知識ベースの目録システムとの連携、図書館システム(ILS)との連携、統計情報の活用、電子ブックの登録を中心に実証実験が行われた。これらの知見を活かした、電子情報資源の管理の効率化と統合的なサービスの進展が期待される。

システム整備のためのモデル案、プロトタイプの提示:
報告書では、システム整備のためのモデル案をP.12図2、プロトタイプをP.13図3で提示している。
モデル案はERMSを利用したモデルであるが、ERMSは各参加機関の判断と責任によって導入・維持されるべきこと、それらのデータとNACSIS-CATのデータ一元的に検索可能とすることがNIIの役割であることを想定している。またERDBのプロトタイプは目録システムの大幅な改修を行わないことを前提としている。
これらは概念図を描いたものに過ぎないので、その仕様や欧米での動向等につき更なる調査検討が必要である。

2) システム:データ構造とデータ連携

問題点:
  • NACSIS-CATのデータ構造の問題点が顕在化(他のシステムやコミュニティとのデータ交換、OPACの機能革新などに対応していない)。背景として、国際的に書誌データに関わる考え方の整理が進行(FRBR・RDA等)。
  • API公開要望の高まり(欧米図書館界で活用が始まる、参加機関からも要望あり)
方向性と検討結果:
  • データ構造および作成基準の抜本的な見直し(各種標準が固まった後、実施が望ましい)
  • 外部とのデータ交換に適切な形式でのデータ出力機構の整備が必要(MARCXML形式等のデータ出力について早期に対策が必要)
  • 今後の図書館目録システムに求められる諸機能を十分実現しうる書誌データを供給するためには、(次のシステム更新時期に向け)FRBRモデルの導入、典拠コントロールの強化、エレメントの増強・分節化、書誌階層構造の在り方等について早期に準備作業を開始するべき
  • API公開については、運用面の諸課題や『共同分担目録の役割・維持の瓦解の危険性』といった懸念もあるが、実験的な環境での公開を急ぐ必要がある

* API公開に伴うデータ(デジタルオブジェクト)識別子の問題:
API 公開においてはデータ間の連携を確実に行える方策が必要であり、デジタルオブジェクトに対する標準的で、一義的かつ永続的な識別子(identifier)の付与と、それらを組み込むシステム面での整備が図られなければならない。
デジタルオブジェクトの識別子としては、DOI、ハンドル、URN、PURL、OpenURLおよび関連のリンクリゾルバ・システムなど様々な方式が実際に利用されている。しかし、図書館あるいは研究者による、あるいは目録システムの枠組み内での対応については考え方が整理されていないので、今後、議論とともに必要に応じて実装実験などに取り組む必要がある。