情報組織化研究グループ勉強会記録(2009年度)
「新時代の目録規則」第7回
- 日時:
- 2009年7月31日(金) 19:00〜21:00
- 会場:
- 日図研事務所104号室
- 担当者 :
- 横谷弘美氏(大手前大学図書館)
- テキスト :
- 『図書館雑誌』103(6), 2009.6の特集「ウェブ検索時代の目録」の各論文を読む(1)
- 林賢紀「OPACの使われ方を変革する」(p.387-389)
- 宇陀則彦「利用者中心の設計−次世代OPACの登場」(p.390-392)
- 出席者:
-
テキスト 宇陀則彦「利用者中心の設計−次世代OPACの登場」『図書館雑誌』2009年6月号,p.390-392
1. OPACの利用者離れ
図書館目録は、発見ツールとしての中心的な位置を失ってしまったといわれる。
→ 原因と考えられる 1) 機能の問題、2) 対象の問題、いずれもが利用者の視点において生じていることに注目すべきである。
web環境一般においては利用者の利便性を追求したシステムが次々登場しているのに対し、図書館界のサービスイノベーションはほとんど進んでこなかった。
- たとえば
- ・ 図書館界の関心事:目録に関する細かい議論(とシステムへの反映?)
・ 利用者の期待:OPAC(以外は想定・認識されもしない、つまり期待値が低いとさえいえる)
→ すれ違い=利用者の期待がまだしもあるOPACさえ、利用者の声よりも図書館員の要求仕様に基づく。
→ 歩み寄り=ここ数年で登場した次世代OPACにみられる、利用者中心のシステム。
2. 次世代OPACの登場
- 次世代OPACとは: (2009年度第一回勉強会でとりあげているので、詳細は割愛。)
- ・ 欧米の大学図書館を中心に普及が進み、今後図書館システムの中心になっていくと思われる。
・ 伝統的OPACに対する付加機能は主に、1) 入力支援、2) 豊富な情報表示、3) 出力制御(Sort)、4) 絞込み(Facet)、5) 関連情報表示、6) 利用者参加 →他で既に実装されている普通の機能がほとんどである。
- → より重要なのは、(議論において強調されがちな)機能面ではなく、その対象である。
- ・従来OPACの検索対象 = 図書館所蔵の資料のみ(※場合により電子ジャーナル等は含まれないことも)
- ∴ 対象により検索のツールを使い分けなければならない。
- ・現在の、利用者にとっての検索対象 = 図書館で/図書館を起点に利用できる資料すべて
+統合検索と全文入手(即時閲覧)のための機能へのニーズがある。
-
→ 次世代OPACでの対応が取り組まれる一方、それらはもはや「図書館の蔵書目録をオンラインで公開したもの」という定義から明らかに逸脱。
3. 次世代OPACを中心としたシステム設計
- 次世代OPACが今後図書館システムの中心的な位置を占めることは間違いないが、次世代OPACは電子サービスの一部であって、全部ではない。
- → 導入効果を最大限にして、良いサービスを提供するには、電子サービス全体の見直し・再構成を行い、全体に対する利用者視点での配慮がなにより重要になる。
- なお、外部システムとの連携は最近の流れであり、APIの公開と利用が進んでいるが、組み合わせてみただけというシステムがほとんどである。
- → 今後は、組み合わせた結果としての、サービス向上度合いの議論が重要になるだろう。
4. 図書館の新しい環境モデル
大学図書館においては、インフォメーション・コモンズやラーニング・コモンズといって、学生の自発的学習を促進するための共有空間に関する議論が盛んになってきた。
- コモンズとは: [参考文献 6) ]
- 物理的な場だけでなくそこで展開される活動を含めた「場」として捉えられる
(=多様な人々が一つの場所を共有して調和的に存在する)
- 物理的コモンズ/仮想的コモンズ/文化的コモンズが重なった包括的な環境として捉えられる。
(文化的コモンズ … デジタル時代における創造性や情報を共有する,社会的・文化的な交流の場、
仮想的コモンズ … 知識メディアの電子的連続体のことで,コンテンツ共有空間のこと)
- コモンズのデザインは、大学戦略やビジョンおよび学習理論に沿って決めていくという点が重要。
どういうカリキュラムにして、どういう教育をして、どういう学習をさせるのかというビジョンに基づき、必要な設備のデザインがなされる。(従来の自習室とはデザインのベクトルが逆)
- ラーニング・コモンズはインフォメーション・コモンズを拡張したもので、図書館中心から大学全体に活動が広がり、カリキュラムとより深く関わる。(両者を区別しない議論も多いが重要な点である。)
5. おわりに
- <これまで>
- 利用者の声を聞くことが重要
→ 図書館員は『利用者の視点が重要だと理屈でわかっていても優先順位はどうしても業務より上にならない』
- OPACぐらいはAmazon並みの利便性を確保してほしい
→『利用者に対する意識だけでなく。製品意識が低い今のままでは難しいかもしれない。』
- 図書館はこれまでデータプロバイダとして生きてきた
→ データがこれだけ増加し、誰でも利用できるようになった中、このまま生きていくというのは難しいと思われる。
- <今後>
- 『思い切って、サービスプロバイダとしての展開を図るべきである。そのためには図書館の既存のサービス枠組みから逸脱することを躊躇としてはならない。』
- 次世代OPACへの対応
- 次世代OPACを中心としたシステム設計
- 新しい環境モデル、コモンズとしてのデザイン
- → 利用者中心の図書館サービスのデザインへ
テキスト 林賢紀「OPACの使われ方を変革する」『図書館雑誌』2009年6月号,p.387-389
1. OPACとその周辺の状況
OPAC黎明期(1993〜):大学図書館のOPACがインターネット上で利用可能になり始める。
- 資料の所蔵や配架場所を確認するために、閲覧目録をコンピューター化しオンライン上で検索できるよう設計されたシステム。
→ 『一般的な「在庫管理システム」とほぼ同じ』。一方で、管理のための情報は専門化が作成し、『一定の水準でコントロールされているという他にはないアドバンテージを有する。』
- 所蔵検索だけでなく書誌情報検索サービスとしても利用される。(類似サービスが他になかった。)
⇒ 現在(2009.4):全大学図書館と全都道府県立図書館、約80%の市区町村立図書館のOPACが利用可能になっている。
※ (記録作成時追記)なお、参考文献2) によれば、2009年3月末時点で大学図書館のwww opac提供は調査対象全体の81.6%どまりとなっている。 カウント基準の関係か、JLA図書館調査事業委員会の『日本の図書館2008』調査結果では、対象の全大学図書館数の80%に到達していない。(参考:JLA図書館調査事業委員会「大学図書館のコンピューター利用(状況)について」『図書館雑誌』Vol.103,No.7, 2009.7, pp.472-473.)
- 書誌情報検索サービスは、OPACよりもGoogle等の検索サービスやAmazon等のオンライン書店が担っている。さらにマッシュアップにより、OPACをも取り込んだ新しいサービスの提供が展開されている。
→ 例:1) knezon、2) Greasemonkey、図書ken
- 新しい動向から翻ってみるに、一般的OPACのサービスは、所蔵する資料の書誌情報(文字のみ)の提供から『進化していないのではないか』と考えられる。
2. OPACの使われ方を変革する方向性
単なる「在庫管理システム」から脱却し、利便性の高い情報を提供するにはどうすればよいのか。
→『従来のOPACに対し、OPACの使われ方を変革するために以下の二つの方法を提案』。
a.他のサービスと連携し、これを利用する(≒付加価値を高める):
- 『インターネット上にあるデータ群と連携しこれを利用する』
→ 例:3) Amazon API利用(Amazon提供の書影を表示できる図書館システムがある)、4) Google API利用(「所蔵館マップ」)
- 所蔵の有無だけでなく、『全文がその場で閲覧』できる機能を付加する
例:5) PORTA API利用(国立国会図書館デジタルアーカイブポータル)
参考: PORTA: wiki 外部提供インタフェースについて [Accessed 2009/07/24]
b.OPACへの入り口を増やす(≒存在価値を高める):
- 『OPACへのアクセスポイントを増やす』、検索実行までの距離(手間)を縮める
例:6) OPAC検索窓、7) Googleツールバー・Yahoo!ツールバー、8) ブラウザ組み込みプラグイン
→ 『「こちらから利用者の手元に乗り込んでいく」能動的なサービス展開につながるだろう』
参考:(記録作成時追記)
「Googleツールバー」を使ってPORTAを検索する [Accessed 2009/08/01]
「Firefoxプラグイン」を使ってPORTAを検索する [Accessed 2009/08/01]
- 『他のサービスから利用』される仕掛けを準備する
例:9) OPAC検索用API公開(OpenSearch、SRU/SRWなどXMLによるデータ交換)
→ 他の横断検索システムからの利用も呼び込む
3. おわりに
OPAC(の使われ方)変革の効果は、
- 入り口を増やすことで、自館OPACの利用を増やす。
- 検索実行までの距離(手間)を縮めることで、利便性を向上。
- 自館のWebサイト以外からの利用を意識することで、他機関(サービス)との横断検索を容易にする。他サービスとの連携の可能性も生じる。
『「インターネットで情報発信。」使い古された言葉だが、その内容は単なるWebサイトの設置から、持っている情報そのものを再利用し連携しやすい形で提供する、いわばデータプロバイダへと変革しており、有益な情報を多く抱え込んでいる図書館において、サービスの在り方は変わってゆくであろう。』