情報組織化研究グループ勉強会記録(2009年度)

「新時代の目録規則」第8回


日時:
2009年9月4日(金) 19:00〜21:00
会場:
日図研事務所104号室
担当者 :
横山由紀氏
テキスト :
『図書館雑誌』103(6), 2009.6の特集「ウェブ検索時代の目録」の各論文を読む(2)
  • 佐藤義則「Webの時代における書誌ユーティリティの現状と今後」(p.380-383)
  • 国立国会図書館が目指す書誌サービス(p.384-386)
出席者:
 

テキスト 佐藤義則「Webの時代における書誌ユーティリティの現状と今後」『図書館雑誌』2009年6月号,p.380-383.

1.現状認識として

→図書館目録の機能やサービスのあり方は、書誌ユーティリティを通じた目録データベースの構築方法やその維持にも及ぶ見直しの必要がある。ここでは『Web の時代における書誌ユーティリティ内、および Web 規模でのデータ共有との今後について検討する。』

2.NACSIS-CAT における共同分担目録のこれまで

書誌/所蔵の登録状況:
・ 書誌レコード作成件数はサービス開始当初に急激に増加し、その後、ほぼ順調な成長が続くも2004年のピーク後は頭打ちの感がある。
・ 所蔵レコード作成件数は、2000年まで順調な増大を続けたがその後マイナス成長に一転した。

→NACSIS-CATの総合目録データベースは日本の大学図書館界に欠かせないシステムといえるが、目録処理の迅速化は進展したものの、参加機関の拡大にもかかわらず書誌レコード数は横ばい、所蔵レコード数は減少という「低成長期」に入っている。
(背景として、図書購入予算の実質的な減少や、特別予算による図書館を介さない購入の増大等による洋書の登録件数減少していることが要因として挙げられる。)
※受入数減少の他、ピーク期については遡及目録の一段落との関係もあると考えられる。

参加機関をめぐる状況:
・ 参加登録機関数はほぼ順調に増加しているが、書誌または所蔵レコードを1件以上作成した参加機関を実質的登録機関とみると、その数は大幅に減少する。
・ 実質的登録機関の中でも、書誌・所蔵の両方を作成・登録する機関と、もっぱら所蔵登録のみを行う機関があり、後者がかなりの程度存在。(1990年代半ばごろから次第に拡大)
・ 書誌作成件数の上位20機関で全書誌登録件数のほぼ半数、上位200機関では94.59%が作成されている。

→共同分担目録は全体としての便益の向上を目的とするものであり、(NACSIS-CATでは相応の貢献を強制するような制度的枠組みは存在していないし)全体としての便益が減少するわけではないから、フリーライダー(ただ乗りする機関)が必ずしも批判されるべきとはいえないが、規模の拡大とそれに伴うフリーライダーの増加は貢献のインセンティブを減少させる。

⇒国立情報学研究所『次世代目録所在情報サービスの在り方について (最終報告)』では、目録の質の維持とメタデータの実務的な運用スキルを持つ図書館員養成の場を持つ必要性を強調し、「目録センター館」「インセンティブモデルの導入」の検討が提言されている。

3.Web 時代におけるデータ共有と書誌ユーティリティの今後

OCLCにみる動向:
・ 2005年1月にOpenWorldCatの公開を開始。(web上の検索エンジンへのデータ提供により、WorldCatへのアクセスの87%が検索エンジンその他のWebサイトを経由するようになった。)
・ 2008年11月に「WorldCatレコードデータの利用と移転に関する方針」を発表。(レコードに関する権利関係や概念定義の曖昧さから多くの論議を呼んだ)

Web時代における書誌ユーティリティを取り巻く問題:
・ IT進展に伴い、大量のデータのコピーやWebベースのサービスが容易に行えるようになった中で、WorldCatのようなサービスが脅かされかねないことも考えうる。
・ メタデータ入手において、共同分担目録への努力(費用)を回避する参加機関が出現する可能性がある。

→OCLCの新方針(2008)をめぐる混乱は、インターネット上で目録の「公共財」としてのオープンな情報流通を促進することと、「クラブ財」的な性格が色濃い書誌ユーティリティの歴史との間の軋轢と見ることもできる。この新方針が出された文脈は書誌ユーティリティの今後の方向性を考える上で核心に当たる問題をはらんでいるように思われる。

今後の展望:
書誌データの活用の主たる担い手は、図書館ではなく、"情報の発見・所在の確認・入手"を求めるエンドユーザであり、web上での情報のリンクが重要となっている。
一方で、Web時代を迎えても目録の必要性はなくなるわけではなく、(OpenWorldCatのような)大規模な情報の集積やシステムの集約によるサービスには今後も高い価値が見込まれる。

→(NACSIS-CATとOCLCの状況はかなり異なっているものの)書誌ユーティリティは、内部、外部の両面で新たな理念とビジネスモデルを必要とするようになっていると考えられる。

テキスト 原井直子「国立国会図書館が目指す書誌サービス」『図書館雑誌』2009年6月号,p.384-386

1.「国立国会図書館の書誌データの作成・提供の方針(2008)」策定

この方針(以下、新方針)は、2007年公表の「国立国会図書館60周年を迎えるにあたってのビジョン(長尾ビジョン)」に沿って、書誌データの作成や提供に関して2008年度以降の進め方を方針として取りまとめた、今後のNDLの書誌サービスを方向付けるもの。

概要(新方針の6項目):
  • 書誌データの開放性を高め、ウェブ上での提供を前提として、ユーザが多様な方法で容易に入手、活用できるようにする。
  • 情報検索システムを一層使いやすくする。
  • 電子情報資源も含めて、多様な対象をシームレスにアクセス可能にする。
  • 書誌データの有効性を高める。
  • 書誌データ作成の効率化、迅速化を進める。
  • 外部資源、知識、技術を活用する。

前提:
『全国書誌作成機関という役割を果たすための』書誌データの要件として、
1) 信頼に足りるデータであること、2) 求める資料、情報へ確実に導くものであること、3) 容易に入手できること、 4) 活用できるデータであること、を挙げた。

2.取り組みの内容と状況

2-1. OPACの改善

ユーザが情報を探索し、適切な資源へアクセスするための情報検索サービスを NDL 全体のサービスの基礎と位置づけて、その機能を向上させ、より便利なものとする中で従来の目録の機能も高めていくことを目指す。

取り組み事項:
  • NDL-OPACの固定URL提供(2008年3月)
  • 雑誌記事索引新着情報のRSS配信(2008年12月)
  • 検索結果の一部のダウンロード機能提供(2009年2月)
  • プランゲ文庫、占領期資料のデータ公開(2009年4月)
  • リンクリゾルバを活用し、NDL-OPACから電子情報資源にナビゲートするサービスの提供。※2009年度内に開始予定とのところ、9月から実施されている

今後の展開:
  • 次期OPACシステムで実現すべき方策として、
    1) シームレスなアクセスを目指す(NDL-OPACと総合目録の統合検索、多言語化によるアジア言語OPACとの統合、電子情報資源へのリンク機能充実など)
    2) データの開放を目指す(APIの公開、ダウンロード機能の充実など)
    3) 情報検索機能の向上を目指す(24時間提供、ユーザ支援機能付加、ユーザ参加型機能追加など)
  • またOPACとしての充実だけでなく、書誌情報以外のサービスを含めた各種サービスとの結合、連携によるワンストップ化を図る。
→本格的なサービス改善には新たなシステムの導入を必要としており、独自開発ではなく、統合図書館パッケージシステムの採用を検討予定。

2-2. データの提供

OPAC以外のルートでも、書誌データ、典拠データを積極的に提供すること、システム的に再活用可能な形での提供を実現することを目指す。

取り組み事項:
  • 代表的な国際的書誌ユーティリティとの協力実現。(当初はJAPAN/MARC(M)の範囲の提供とし、今年度に実現させる予定。)
  • 名称典拠データ(著者名典拠)のバーチャル国際典拠(VIAF)への提供を検討。(時期未定)
  • NDLSHの再活用可能なデータ形式での公開。(現在はNDLのHP上にpdf版で公開、希望に応じてファイル提供可。SKOSによる提供を予定。)

2-3. 書誌データ提供の迅速化

迅速性は常に課題となってきたが、新方針で以前と異なる点は、有効性・効率化・迅速化と並んで外部資源の活用を掲げたことである。

取り組み事項:
  • 外部MARCデータ導入(2008年1月より開始)
    →データ作成の省力化を行いつつ等質性を確保することに重点を置き、標目は従来と同様にNDLで付与。
  • 外部に存在する内容情報、紹介情報、記事情報等の活用によるデータの充実(検討予定)
  • 目録データ完成前の公開(検討予定)

2-4. 書誌調整

全国書誌作成機関としては、信頼性・確実性を満たすことが重要であり、国際的な目録規則等の動向を注視し、また国内の書誌調整に積極的に関与していき、国内の書誌関係コミュニティとの連携・協力を強化する。

取り組み事項:
  • FRBR、RDA、「国際目録原則覚書」等の国際的な基準の動向のもとに、今後、必然的に行われる日本目録規則の改訂に協力する。
  • 電子情報に関する書誌調整を視野に入れて、NDLで策定したメタデータ基準の見直しと現実的な適用を図る。
    ※webアーカイブもできるように法律改正もあり、対象拡大。
  • データ提供について、(MARC以外のフォーマットもあわせて再検討し)これからの提供フォーマットの種類、形式を定める。
  • NDLSHとBSHの統合に向けての検討を開始する。
  • NDLのデータを利用した各種研究へ協力し、その成果をNDLのサービスに導入する。

3.新方針と取り組みの基底にある考えかた

情報世界の中で図書館目録の地位が相対的に低下してきた現実に対して、国際的には書誌データの目的・対象・機能・品質を含めた議論が活発に行われて成果が現れ始めており、その成果の一つである「国際目録原則覚書」は、目録規則の最上位の原則を「利用者の利便性」に置いた。
新方針においても、誰もが情報を作成し、発信することを可能にしている情報環境の中にいる存在(人およびシステム)すべてを書誌データのユーザと規定し、ユーザの利便性を第一に置く考えが基調となっている。
そして、ユーザを人だけでなくシステムも含むとすることで、各種サービスでデータが活用されることを目指している。また、データ提供の時点だけでなく、データ作成の時点からユーザを念頭に置くという考え方がある。