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整理技術研究グループ勉強会記録(2006年度)

「セマンティックWebと資料組織法(続)」第12回


日時:
2006年12月1日(金) 19:00〜
会場:
日本図書館研究会事務所
発表者 :
蔭山久子氏
テキスト:
斎藤孝『意味論からの情報システム』 中央大学出版部, 2006 (ISBN4-8057-6159-8) 第3章 オントロジ論
出席者:
堀池、有信、松井(大阪芸術大学)、蔭山、川崎(佛教大学)、守屋(近畿大学)、河手(大阪樟蔭女子大学図書館)

第1章 全体論

IT社会で蘇った概念
 ユビキタス・・・(哲学)神の存在論  (「情報システムの意味」)透明化される情報システム
 オントロジ・・・(哲学)人間の存在論 (「情報システムの意味」)概念操作を行う人間
 
2. オントロジ
 ・概念形成+分類という知的プロセスを知識地図として図解された「概念仕様書」
 ・「分類の作成と活用の能力」の再認識 and 「概念を操作する思考技法」
  (1) オントロジ・アルゴリズムは、記述論理・公理・推論規則から表現されたもの
  (2)オントロジ・アルゴリズムの処理対象として、知識地図(タクソノミー)が準備される。

第3章 オントロジ論

1. わかると分ける

・オントロジは、基本的には「存在」という1つの対象から出発し、これを「分けて」多様にしていき「わかる」という道筋を体系化する。
・わかり方
  ・前提となる既知の自明の原理に還元できるとき
  ・既知でなくてもこれ以上分けられないものに到達してそこから説明できるとき

2. 概念

オントロジ・・・概念とその体系を明らかにする
概念・・・以下の性質を持ち意味の定義に使われる
 ・概念は、言葉(名辞)で表わされる。
 ・概念は、認識対象となる事物の集合(外延)を規定する。
 ・概念は、その集合が共通にもつ性質(内延)を規定する。

3. 様々なオントロジ

Guarino
 Ontology・・・哲学のオントロジ:存在とは何か、
                    存在を証明するために必要な概念とは何なにか
                    証明された存在をいかに体系的に説明できるか
 ontology・・・その他のオントロジ
溝口のオントロジ論←極めて実務的
 基本的方法論・・・哲学に従う
 考察の対象・・・存在一般だけではなく人工物を含む具体的なものも対象とする。
   ↓
 原理的にオントロジは考察対象の数だけ存在する・・・"ontologies"とすべき

4. 自然言語処理のオントロジ

自然言語処理でのオントロジ=「辞書的オントロジ」(概念辞書)
 意味解析を行うときに、意味構造を決定する個々の語が示す概念を定義する。
 概念間の関係性をどのようにするのかという概念の体系化を行い、その結果を概念辞書としてまとめる。
 代業的な例・・・WordNet:自然言語の詩翻訳において概念間の関係性を明示的に表現する電子辞書
 働き・・・構文リストだけでなく意味リストを生成する

5. 統語論のオントロジ

用語論・・・意味の明示的な記述が中心
統語論・・・概念が先にある
 ターミノロジー学・・・オントロジ的な原理に基づく
    基本的原理:概念に関する合意を得た後、その概念に付与すべきラベルを決定←何をラベルにするかを論じることが中心課題
    概念の論理的な関係(抽象的関係:上位・下位概念で捉える階層概念)と存在論的な関係(要素的関係)から
    用語について研究
  オントロジとほぼ同じ視点に立脚した研究

6. シソーラスのオントロジ

シソーラス・・・静的な辞書、手続き的・宣言的なアルゴリズムを対象としない。
        用語の相互関係(上位・下位概念、同義語など)を体系に基づいて配列した意味ネットワーク
          同義語関係に中心をおいた意味の分類システムといえる
        網構造(ネットワーク構造)によって表現される←節をもつ
 ★ターミノロジー:概念が中心 vs シソーラス:語が中心

7. タクソノミーのオントロジ

タクソノミー・・・概念分類だけに注目すればオントロジに最も近い
         各概念の意味定義と概念間の関係性が明確に記述されている
 タクソノミーの訳・・・×「分類」 ○「区分原理」
オントロジの基本的原理・・・taxonomy(トップダウン・アプローチ)とclassification(ボトムアップ・アプローチ)の組合せ
  taxonomy・・・「集めること、まとめること」  classification・・・「分けること」
WordNet・・・タクソノミーに基づく大規模なオンライン概念辞書

8. 情報検索のオントロジ

情報検索とその関連領域・・・分類表とシソーラスが利用されてきた。
  シソーラスの利用・・・索引と検索の用語は関係性から展開されているが、オントロジの特色である推論機構は装備されていない。
  知的検索インタフェースや概念検索にオントロジを応用する傾向がある。
Beanの研究・・・オントロジの分析
 (1)目録を対象にした書誌的な関係性
 (2)書誌の内部的・外部的関係性
 (3)主題の関係性
 (4)適合性の関係性=利用者の検索要求の適合性に関わる関係性
情報検索におけるオントロジの導入・・・キーワードとそのブーリアン演算子による組合せの欠点を補う。
                       情報蓄積の索引化において関係性を強化する。

9. 主題分析のオントロジ

主題分析のオントロジ・・・書誌的な「関係性」を求めること
                 →書誌的知識の組織化
書誌オントロジ・・・書誌情報における関係性を求めること
事例・・・UMLS、LCSH分類、AAT、MeSHシソーラス

10. 人工知能のオントロジ

Gurnberのオントロジ論
 [定義] 概念化の明示的な記述であり、その概念化とは対象(世界)に関して興味を持つ概念とそれらの関係性を意味するもの
  (1)概念化 (2)形式化 (3)明示的な仕様
概念化・・・対象とする現象の知識モデル(仮説)をつくること
人工知能のオントロジ・・・知識モデルを組み立てて、形式化し、それをコンピュータ可読知識の獲得と表現として利用する。
  形式化の道具・・・一階述語論理、意味ネットワーク、フレーム・モデルなど

11. 公理論のオントロジ

辞書的オントロジと本来のオントロジの違い・・・公理論に基づく推論機構の有無
公理の役割
 ・語彙・概念の意味定義を厳密に表現するため
 ・オントロジの能力に関する質問に対して回答するため
    ・「抽象的な性質に関する質問」・・・宣言的記述が可能
    ・「振る舞いに関する質問」・・・手続き的記述が必要

12. ソフトウェア工学のオントロジ

方法論工学(鰺坂が提唱)・・・ソフトウェア工学の方法論の整備と理論化のためにオントロジを持ち込む。
 特色 (1)概念の意味づけを行う原始的な概念であること
     (2)階層構造であること
     (3)方法論のシソーラスであること
     (4)方法論がもつ概念を共通の視点から定義する
 方法論のモデル
     (1)「オブジェクト・モデル」
     (2)「状態遷移モデル」
 オントロジに含まれる様々なメタモデルで使われる独自の概念について共通の言葉を与える試み

13. オントロジ工学

オントロジ・・・「体系化された存在に関する記述」(溝口)
オントロジ工学の目的・・・情報科学が対象としえる全ての対象の「モデル構築の基盤」を与えること
オントロジ工学におけるオントロジの分類
 (1)コンテント・オントロジ・・・再利用可能な知識ベースを構築することを考える際に必要とされるオントロジ
 (2)コミュニケーション・オントロジ・・・分散強調による間接的な再利用が時には必要となるオントロジ
 (3)インデックス・オントロジ・・・事例ベースを構築するオントロジ
 (4)メタ・オントロジ・・・オントロジを形式化するためのオントロジ
Maedcheのオントロジ工学の分類
 (1)上位レベル・オントロジ・・・空間、時間、事象という概念を扱う
 (2)ドメイン・オントロジ・・・各概念に関する語彙を扱う
 (3)タスク・オントロジ・・・語彙に関わる活動を扱う
 (4)アプリケーション・オントロジ・・・特定の活動を扱う
応用分野・・・ビジネス・モデル、デジタル・ライブラリ、情報検索、情報の統合、知的エージョント、データとテキスト・マイニング など

14. Semantic Webのオントロジ

Semantic Webの目的・・・無秩序で記録形式も定まらないWeb世界の情報に対し意味の地図を与え、信頼性のある情報の共有化・情報流通の促進・標準化を図ること
Semantic Webのオントロジの特色・・・言語の文法を定義するためのメタ言語、そしてその言語で記述されたアプリケーション事例を集めたもの
  [道具] オントロジ言語OWL
 ×オントロジの対象となる場面を絞り込む
 ○複数の異なるオントロジを共存させ、オントロジ間での概念の同定作業を行い、検索者に適切なWebページを提供する
    ⇒推論機能によって、検索者が必要とする情報を自動的に収集するエージェントの構築

15. メタ・オントロジ

メタ・オントロジ・・・オントロジ言語設計を形式化する

16. オントロジの条件

オントロジの特色
 (1)オントロジ・アルゴリズムは、論理・推論に基づく形式化によって言語によって表現されたもの
 (2)処理対象として知識地図が準備されること
   (1)のための(2)がある
オントロジの条件
 ・関係性の重視
 ・タクソノミー
 ・オントロジ推論機構
 ・オントロジ言語・・・オントロジ・アルゴリズムを記述するオントロジ形式言語
 ・知識地図としてのオントロジ・・・目的に応じた場面・視点というファセットが組み込まれている。

17. オントロジの役割

オントロジ工学の立場(溝口)から
・合意を得る手段・・・知識の合意を得るために用いる
・暗黙知の明示化・・・暗黙知を形式知に変換
・再利用と共有
・計算可能知識の体系化
・オントロジに含まれる語彙と概念の標準化
・モデル構築の道具となるメタモデル