整理技術研究グループ勉強会記録(2007年度)

「図書館目録の将来設計」第12回


日時:
2007年11月22日(木) 19:00〜
会場:
日図研事務所104号室
発表者 :
河手太士氏(大阪樟蔭女子大学図書館)
テキスト:
Yee, Martha M., Cataloging Compared to Descriptive Bibliography, Abstracting and Indexing Services, and Metadata
 Cataloging & Classification Quarterly, 44(3-4), pp.307-327, 2007
出席者:
松井(大阪芸術大学)、渡邊(帝塚山学院大学)、堀池(摂津市施設管理公社)、吉田(大手前大学)、守屋(近畿大学)、安威(梅花女子大学図書館)

比較の対象

 4つのメタデータ
  Cataloging(目録)
  Descriptive Bibliography(記述書誌)
  Abstracting and indexing services(抄録索引サービス)
  Metadata(メタデータ)

比較する項目

 object of description(記述の対象)
 function(機能)
 scope(範囲)
 number of copies examined(調査されるコピーの数)
 collective vs. individual creation(共同作成と単独作成)
 standardization(標準化)
 authority control(典拠コントロール)
 evidence(根拠)
 amount of descriptive detail(詳細記述の量)
 degression(低減)
 time span the data is intended to last(データの存続時間)
 degree of evaluation(評価の度合い)

論文の目的

 ・全く異なる情報アクセスツールの目的や対象の違いを指摘すること
 ・コンピュータ科学と図書館で用いられている「メタデータ」という語の目録とメタデータの重要な相違点を指摘すること
 ・RDAやFRBRが目指すあらゆる分野で共通の規則の危険性を指摘し、これから図書館目録が向おうとしている方向性への疑問を示すこと

“Cataloging”と”Catalog”の定義
 Cataloging:Catalogを作成すること
 Catalog:データの選択やラベル付けを決定する基準を用いて作成された特定のコレクションやコレクション集合のガイド

1. 目録と記述書誌の比較

object of description
 Tanselle
  記述書誌…理想的なコピー(ideal copy=manifestation )を記述
  目録…個々のコピーを(particular copy)記述 ← 完璧に正しいとはいえない
       目録作成者は書誌レコードにコピー特有の詳細が必要なときにしか記述しない

Function
 目録の機能
  Pierce Bulter「目録は特定のコレクションの図書の書誌である」
  Lubetzkyによる目録の機能・・・特定のコレクションへのガイド
  現代の目録…全国書誌としての機能も持つ記述書誌の機能
  特定のテキストの印刷の歴史や印刷や出版の歴史に関係する形態的な(physical)根拠を記録するもの

scope
 目録…個々のコレクション
       ← ローカルの目録だけではなく全国書誌にデータを提供するケースが増えている
 記述書誌…目的に応じて定義できる自由がある

number of copies examined ←重要な違いである
 目録…コレクションに含まれるコピー
     代替物(他のコレクションで作成された目録レコード)で調べることができる
 記述書誌…テキストの全てのコピー
        テキストの特有の状態・個々の発行・刷・版を識別する項目が作成できる

collective vs. individual creation
 目録…共同作成が基本
       ← 総合目録では機関間の目録方針の違いによる矛盾が多く発生する
 記述書誌…単独作成(一人で作成する)
        一人でプロジェクトに適した範囲・根拠・ルールを決定し記録する

standardization
 目録…一貫性が保たれるように標準化される←共同作成だから複雑な索引やレコードの表示を設計できる
 記述書誌…目録よりも自由に資料に適した記述規則や書式を用いることができる

authority control
 記述書誌プロジェクトよりも巨大目録作成プロジェクトや綜合目録で必要とされる
 
evidence
 目録…標題紙や前付(preliminaries)が第一義的な根拠
     間違いが明らかでなければそのまま用いる
 記述書誌…資料のあらゆる場所を根拠にする
 目録と記述書誌を区別する基準とはならない (Tansells)…貴重書の目録作成では記述書誌の作成と同じような根拠を記録するから普通の目録作成と記述書誌の作成とは区別することができる

amount of descriptive detail
 目録と書誌を区分する基準とはならない (Tansells)
 対照的な2つの主張
  調査対象が少なければより完全な詳細記述をすべき (Bowers)
  書誌の項目が完全で目録の項目は簡略であるべきだ (Scherider) 

degression
 現代のオンライン環境下における記述レベルでの目録方針 (Madan)
  多くの図書館目録は必要最小限のレコードしか含まない←経済的理由のため
 著作と版との間の関係は80:20という割合が存在する (Elizabeth Tate)
   ★比率が8(1つの版しか持たない著作の数):2(複数の版を持つ著作の数)←多くの著作は複数の版を持たない書誌=「文献の資料的伝達の科学」(Greg)
      ←書誌学は古典文学作品の原典と版の関係を調査することに重点をおいてきた

time span
 人類の恒久的な文化的記録となる

evaluation
 記述書誌…学術コミュニティに有効であると評価された著作を対象とする
 目録…著作の主題要素(subject matter)の客観的記述を提供する

まとめ
 区分する基準
  目録…個々のコレクションのガイドとして役立つこと
  記述書誌…個々の著作や著作群の印刷や出版の歴史の調査結果を記録すること
 目録と記述書誌の違い=調査手法や根拠の違い
 記述書誌を目録に利用することができる
  →利用者に記述書誌の成果が提供される
   →目録作成者と記述書誌作成者は協力し合わなければならない

2. 目録と列挙書誌・抄録索引サービスとの比較

object of description
 目録…出版されたアイテム
 列挙書誌…図書館で目録を作成しないような資料(パンフレットなど)
 抄録索引サービス…雑誌記事

function
 目録…個々のコレクションへのガイド
 列挙書誌・抄録索引サービス…利用者に特定の主題の著作を発見するための援助を提供

scope
 目録…コレクションに限定
 抄録索引サービス…特定の主題や学術的専門分野

number of copies examined
 抄録索引サービス…目の前にあるコピーだけ

collective vs. individual creation
 列挙書誌…一貫した範囲ややり方での単独作成
 抄録索引サービス…共同作成(企業に雇われた人)←不十分な社内のガイドラインに基づく

standardization
 外部の標準に従うことはまれ=列挙書誌プロジェクト内や抄録索引サービス業者内に限定した標準化が行われる
   その結果、単純な索引・表示以外は設計するのが難しい
   標準化するためには、過去のレコードを遡及修正する必要がある。

authority control
 抄録索引サービスが複雑な典拠コントロールを提供する動機は少ない→出力のスピードで評価される。
   抄録索引サービスは数年間の記録を提供することが主たる目的
 主題検索の必要性→シソーラスを用いる
   そのシソーラスはほかのシソーラスや件名標目表と関連がない
   そのシソーラスが改訂されても古いレコードと新しいレコードの同期を保たない

evidence
 列挙書誌…標題紙や前付を根拠に
 抄録索引サービス…タイトルを抽出、著者名は勝手に変えられる

amount of descriptive detail
 図書館や書店が作成した目録程度の情報を利用者に提供
 版表示や出版データ以上の情報は提供しない

degression
 現存する版のレコードなどを提供することにほとんど関心がない

time span
 永続的に利用されるように設計されていない

evaluation
 列挙書誌…特定の主題専門家や学者によって作成された良い図書のリスト
 抄録索引サービス…収録される雑誌によって評価される→雑誌を取捨選択する必要がある

まとめ
 目録の機能…コレクションに含まれる著作の永久的な記録を提供すること
 列挙書誌と抄録索引サービスの機能…ある主題の著作への一時的でタイムリーなアクセスを提供すること
  利用者は著作を入手するために図書館や目録を検索する必要がある
    ←抄録索引サービスにとって図書館の所蔵を分析することがビジネスになっている

3.目録とメタデータの比較

対象とするメタデータ
 ・Web検索エンジンやデータがメタデータであるコンピュータ・ソフトウェア(例 Google)が自動的に生成したメタデータ
 ・目録や典拠コントロールなどについての標準的な教育や訓練を受けていない人が作成したメタデータ
 目録はメタデータとしない

object of description
 かなり流動的=記述レベルや分析レベルが人や電子ドキュメントによって異なる
 コンピュータが記述の対象を決定…結果は不可解で混乱したものになるだろう
  
function
 潜在的な利用者の注意を引くこと

scope
 メタデータの範囲…インターネット全体
  分離したテキストが検索できる=コンテキストが失われる …メタデータと目録や記述書誌などとの違い
  コンテキストの喪失←信憑性や信頼性の疑わしい情報を提供
               研究的批判的思考のための知識や論説(discource)が提供できない

number of copies examined
 目の前にあるコピーだけ

collective vs. individual creation
 共同作成の究極形

standardization
 人間が作成…ほぼ不可能
 コンピュータが作成…完全に不可能
  「データベースは、ドキュメントから直接引き出された巨大な転置ファイルからだけで成立している。」(Bernhard Eversberg)
     →データを完全に予測できないので複雑な索引や表示は不可能

authority control
 典拠コントロールはおそらく不可能
  精度と再現率は唯一不変の語を持つ著者・主題・著作の検索だけ高くなる

evidence
 コンピュータプログラムにとって自動的にタイトルや作成者を見つけることは難しい
 マークアップがこの点においてコンピュータの能力を少しは向上させるだろう

amount of descriptive detail
 多くの既存のメタデータシステムは、図書館の目録で収集される詳細記述の数に比べてその数を減らそうとしている

degression
 (今のところ)人間だけが、同じ著作の多様な版や表現形間の異なりを識別できる
  電子ドキュメントにおいても同じ。
  Web検索エンジンが著作の表現形や体現形のすべてを集めることは不可能

time span
 非常にカレントで一時的なものに注目
 永続的な文化的記録を維持するようなことはできない。

evaluation
 Web検索エンジンが提供するレレバンスランキング←利用者をだましたり、こっけいな結果を導いたりする
   (その理由)言葉の実際の意味を考慮せずに重み付けされる
          言語処理がコンピュータでは難しい
 サイトの人気度によるランキング(Google)
  図書館の世界で用いられてきた引用索引の手法を用いている
  有効な結果を示すことができるが、「人気度=優れている」というわけではない

まとめ
メタデータは列挙書誌や抄録索引サービスよりも短期的な(ephemeral)機能を持つ→アクセスを容易にするようにはされていない
利用者は以下のように考える
 ・見つからなかったものはしらない
 ・見つけたものはなんでも価値がある
利用者は、入手のために移動したり他の誰かに助けを求めるような恥をかく必要がない。

結論

 図書館員(librarianship)が専門職であるために
  利用者が求めているコンテンツよりも必要なコンテンツを提供する必要がある。
   当面は、必要なコンテンツがわかる利用者を満足させる必要がある。
   そうしなければ、人類は文化的記録へのアクセスを失うことになるであろう