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整理技術研究グループ月例研究会報告

『英米目録規則』に対する根本的批判の展望

−電子資料の影響を中心に−

古川肇(中央大学図書館)


日時:
2000年9月9日(土) 14:30〜17:00
会場:
帝塚山大学短期大学部
発表者 :
古川肇氏(中央大学図書館)
テーマ :
『英米目録規則』に対する根本的批判の展望−電子資料の影響を中心に−
出席者:
渡辺隆弘(神戸大学図書館)、光斎重治(愛知大学)、村井正子(システムズ・デザイン)、堀池博巳(京大大型計算機センター)、倉橋英逸(関西大学)、田窪直規(近畿大学)、野口恒雄(佛教大学)、木下雅巳(帝塚山大学図書館)、山元敦子・蔭山久子(帝塚山大学短大部図書館)、北克一(大阪市立大学)、前川和子(堺女子短大)、吉田暁史(帝塚山学院大学)、古川肇

1.目録への新しい照射
1)IFLA Study Groupの報告
Functional Requirements for Bibliographic Records : Final Report / recommended by the IFLA Study Group on the Functional Requirements for Bibliographic Records. 1997. 136p.
URL: http://www.ifla.org/VII/s13/frbr/frbr.pdf (目録の実体関連分析)
 上記の報告(以下FRBRと略)は、目録が扱う対象を以下のように分析している。
  work(著作)−expression(表現形)−manifestation(実現形)−item(記述対象)
 これはAACRにおけるwork−manifestationという捉え方をさらに精緻に展開したものであり、とりわけworkとmanifestationの間に、expressionという段階を設定した点に特色がある。expressionとmanifestationの違いは、動詞にたとえれば不定詞とその活用形のようなものではなかろうか。workは抽象的な存在で形を持たない。expressionはテキストの場合でいえば文字列の集合体といえよう。そしてこれを何らかの出版物に固定したものがmanifestationであろう。
2)Delseyの論考
Desley, Tom. The Logical Structure of Anglo-American Cataloguing Rules--Part I; Part II. 1998.8-1999.1. 436; 370p.
URL: http://www.nlc-bnc.ca/jsc/(AACRの実体関連分析と勧告)
 ・AACR2における資料種別の区分原理を分析し、form of cotent, form of expression, form of physical carrierというように様々な区分原理が入り交じっているとDesleyは指摘し、各章ごとにそれらの原理がどのように組み合わされているかを詳細に検討した。
 ・AACR2Rでは、版によって共著者の表示順序が異なるとき、基本記入の標目が変わってしまう。Delseyはこの規定が著者標目の集中機能を妨げていると指摘する。当該条項が標目選択に際して情報源の表現形式やレイアウトを過度に重視していることの弊害は、かつて発表者も指摘した。
3)HironsとGrahamによる逐次刊行物という概念の見直しに関する論文
Hirons, Jean; Graham, Crystal. "Issues Related to Seriality", In: The Principles and Future Development of AACR. 1998.
URL: http://lcweb.loc.gov/acq/conser/issues.html
 Hironsらは、単行資料と逐次刊行物との二分法の見直しを提唱した。近年web上の情報資源のような、年月の経過とともに量の増加を伴うことなく内容が変化する資料が多く現れた。この種の、内容が確定した単行資料でもないし量が増加し続ける逐次刊行物でもない資料をどう扱うのかという問題は、実はネットワーク情報資源が発生する以前から存在した。それは加除式資料である。当時は例外的なケースとして深く検討されることもなかったが、インターネットの普及に従って顕在化したといえる。

2.根本的検討の動向
1)AACR2 §0.24の改訂案(ALAの目録委員会内のタスク・フォースが提案・勧告の主体)
(1)複数章に関わる資料の記述
 ある資料の別形態への複製物(例えば印刷物のマイクロ形態への複製物)を、AACR1が原資料を記述本体の対象としたのに対してAACR2は逆転させたが(「記述の出発点は手元にある資料の物的形態」)、議会図書館はAACR1に従ったままなど批判が強い。これに関して勧告は、「記述対象のあらゆる側面を表現することが重要である。例えば、内容、物理的媒体、刊行形態、同一著作の他の表現形との関係、公刊か非公刊か。」とする。
(2)記述対象の選択
 同じ表現形が異なるいくつかの実現形として具現化する場合、現行規則では実現形ごとに別個の記入を作成する。しかし、資料の媒体変換が容易になった今日、これでは記入の数がどんどん増えていく。この問題について新旧タスク・フォースにより異なる2つの勧告が出された。旧勧告(1999.8)では、異なる表現形ごとに記入を作るという趣旨、新勧告(2000.2)では、実現形ごとに作るか表現形ごとに作るかを選択制にするという趣旨であり、揺れが見られる。確かに表現形を記述の本体の対象に据えるという案は、目録史上、極めて根本的な提案であり逡巡するのは当然である。十分な議論とテストが必要と思われる。
2)第12章の改訂案(Hirons他のCONSERグループが提案・勧告の主体)
 逐次刊行物の定義の見直しにより、継続資料(continuing resources)については、ISBDにおいてもISBD(S)からISBD(CR)に変更されることが決まっており、改訂作業が進行中である。一部の電子ジャーナルで、タイトルが変更された後、旧タイトル分に遡って新タイトルが適用されるケースがある。このような場合に対して、incorporating entry(分出的副出記入の一種)という記入方式も検討されている。
3)AACRの再構成
(1)第T部を現行の資料種別構成から、エリア別構成へという案がある(Delsey)。これは、単に縦のものを横に組み替えるということではなく、エリアによって区分原理を異ならせるのであろう。実際にこれを実行すると総則の比重が大きくなるエリアもあるだろうし、またほとんど例外事項のないエリアと、形態的記述エリアのように詳しく細分されるところが生じると思われる。資料種別における区分原理の論理的な整備が図られればこの方法は合理的かも知れないが、実用上は使いにくい可能性がある。
(2)「第V部 関連」の新設案(Hirons他)
 書誌的記録の相互の関連に関する規定は、現在では規則中に散在しているが、これをまとめて別にしようとする提案である。
(3)記録の新たな作成を要する顕著な変更と、要しない軽微な変更に関する一覧を付録にとの提案(Hirons他)

3.メタデータとマークアップ言語
 メタデータには、semanticsはあるがsyntaxがないとよくいわれる。semantics中心ということは、記述要素を分析して特定化するということであろうが、この傾向はルベツキー以来の目録法の流れでもあり共通性がある。メタデータと図書館目録の最も大きな相違は、前者には典拠コントロールが存在しないということであろう。
 マークアップ言語とMARCとの関係でいえば、MARCフォーマットをXML化して記載する試みが既に始まっている。将来はこの方向に進むのであろうか。ちなみに、US MARCとCAN MARCは最近統合して、MARC21という名称に変わった。

4.目録の今後−内部構造の緊密化−
1)記述対象の再指定
(1)電子資料のような、独立した存在として捉えがたく階層構造が不明確な資料が出現した。これについては、従来のように図書や雑誌全体という形態が独立した単位を対象に記述すればよいのではなく、記述とアクセスの対象が必然的に粒状化してくることになる。
(2)Haglerの提案
  Haglerは下記において、「著作の定義を」、「著作典拠ファイルの形成を」、「全著作へのアクセスを」という3つの提案を行っている。傾聴に値する。
Hagler, Ronald. "Access Points for Works," In: The Principles and Future Development of AACR.
(3)「著作単位」の検討の再開を
  NCR1987年版の第2次案までは著作単位という考え方が残っていた。これを再び取り上げて検討すべきではないか。
2)書誌的関連
(1)FRBRにおける書誌的関連の提示
 書誌的関連についてはTillettの論考が有名であるが、全体−部分という関連のみ形態に関わり、内容に関わるその他の関連と異質であるとの批判があった。FRBRは全体−部分の関連を全レベルにおいて設定しているので、この批判を吸収できると考えられる。
(2)著者基本記入標目の意義
 欧米では著者基本記入標目はいまだに健在である。特定著作の諸記入の集中および関連づけのためには、この概念はやはり有効であると発表者は考える。なお、Haglerは、main entryの代わりにprincipal access point for a workという語句を提案している。

参考文献(発表者による)
(1)アメリカにおける『英米目録規則』改訂の動向 『電子資料の組織化』p.10-16 日本図書館協会 2000.5
(2)『英米目録規則』に関する改訂の動向−一つの展望− 『資料組織化研究』43 p.15-29 2000.7(上記(1)を増補)