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整理技術研究グループ月例研究会報告

FAST(Faceted Application of Subject Terminology)について

吉田暁史(帝塚山学院大学)


日時:
2003年5月31日(土) 14:30〜17:00
会場:
大阪市立浪速人権文化センター
発表者 :
吉田暁史氏(帝塚山学院大学)
テーマ :
FAST(Faceted Application of Subject Terminology)について
出席者:
蔭山久子(帝塚山大図書館)、川崎秀子(佛教大学)、久保恭子(神戸松蔭女子大)、光斎重治(愛知大)、田窪直規(近畿大)、多武典子(大阪市立中央図書館嘱託)、藤井絹一(産業技術短大)、堀池博巳(京都大学術情報メディアセンター)、村井正子(京都精華大図書館)、安威和世(梅花女子大図書館)、前川和子(堺女子短期大学)、渡邊隆弘(神戸大図書館)、吉田暁史

1.FASTとは

 ネットワーク情報資源の索引を目的とし、LC件名をベースにして開発した索引言語。件名の形や参照関係など意味論的部分は、ほぼLC件名の形式をそのまま採用し、LC件名における統語論的各部分を、一般件名(topical)、地理、時代、形式、と分解し、それぞれを個別にファセットとして持たせる。要するに、単純化した引用順序公式P−M−E−S−T−形式のうち、P−M−Eをtopicalとして1本化し、あとSとTと形式を個別に分離して管理する。
P:personality(最重要ファセット、事物)
M:matter(物質、部分や性質)
E:energy(動作)
S:space(空間)
T:time(時代)

2.LC件名の概要

 現在25版(2002)。2003年夏に26版が出る。1974年からfree floating subdivisionが取り入れられる。1988年11版から参照構造がシソーラススタイルになり、同時に階層構造の設定基準が、「全体/部分関係」「類種関係」の2つに絞り込まれる。
・意味論
 単数形と複数形。複合語に関しては、Nuclear physicsなど自然な語順を基本とするが、Songs, Frenchなど転置形もある。転置形は言語や国名による修飾の場合に多い。Cookery(Fish)といったカッコに包む形式もある。この形式は同義語の分野名による限定とは限らないようである。このあたりBSHと同レベルか。またCharacters and characteristics in literatureといった句による表現も多い。件名の種類は、topical, geographical, chronological, formの4種類となる。人名や団体名は含まない。これらはName authorityとして著者標目などとともに別途管理される。意味論的関係の種類は、BSH4とほぼ同様である。細目つき件名にも上下関係を設定している。
・統語論
 複雑な統語規則を持つが、基本的には列挙方式である。自由な組み合わせが許されるわけではない。一般件名−地名−時代−形式の順序を基本とする。topicalとgeographicalは主標目にも細目にもなりうるが、時代と形式は細目にしかなり得ない。BSHと同様地名の関与する件名は、地名優先と地名非優先の2種類がある。地名の形式は、France−Parisのように大地名−小地名の2段階構造をとる。原則として"May Subd Geor"と指示のある場合のみ地名細目として付加できる。このため、以下のようなとんでもないことが起こる。
 Construction industry−Italy (Construction industryは地名細目可)
 Construction industry−Italy−Finance (Financeは不可)
 Construction industry−Finance−Law and legislation−Italy (Law and...は可)
 Construction industry−Government policy−Italy (Government policyは可)
細目の例
 Art criticism−France−Paris−History−18th century−Bibliography
 Art−Censorship−Europe−20th century−Exhibitions
 France−Intellectual life−16th century−Periodicals
Free-floating subdivisionの例
 Burns and scalds−Patients−Family relationships
 Patientsは病気など医学的状態を示す件名のもとでのみ細目となりうる。Family relationshipsは、人の種類を表す件名のもとでのみ細目となりうる。こういったように、件名の所属する分野や種類によって、複雑な統語規則が存在する。

3.FAST各論

(1)沿革
 FASTはOCLCのResearch Projectであり、そのメンバーは、Edward T. O'Neill、Eric Childress、Rebecca Dean、Kerre Kammerer、Diane Vizine-Goetz、Anya Dyer (OCLC)、Lois Mai Chan (University of Kentucky)、Lynn El-Hoshy (Library of Congress)である。
 Web上の資源を件名から検索できるようにするため開発。1999年にALACTS/SAC/Subcommitteeが以下のような目的のための件名標目表を検討。ALACTS:The Association for Library Collections & Technical Services
1)単純で適用が容易で、広範に用いることができる。
2)高度な訓練なしに直感的に使いこなせる。
3)論理的にできていて、それゆえ理解しやすい。
4)単純な主題から複雑な主題までを扱える。事前結合にも事後結合にも使えるものとする。
 そして主題索引方式に対し、次の可能性を検討。
1)既存の索引法を用いる。
2)既存の索引法を修正して用いる。
3)新しい索引法を開発する。
 結果として2)にすることとし、LCSHをベースに修正を施す。OCLCのWorldCat中の書誌データから、800万件のユニークな一般および地名件名を取り出して、初期データとした。
(3)LC件名をいかに修正するか
 LC件名は以下のような特長を持つ。
1)あらゆる主題分野にわたって、豊富な語彙を持つ。
2)LCという強力な維持機関を持つ。
3)同義語と同形異義語の統制を行う。
4)多くの図書館での使用実績を持つ。
5)何百万という書誌レコードで使用されている。
6)長い歴史を持つ。

 しかし専門家でも付与作業が行えることを目的とするため、LC件名の複雑な統語規則は回避したい。
(4)FASTの仕組み
 LCSHをベースとしつつも、オンライン環境のための事後結合型のファセット化語彙として再設計する。次のようなことをめざす。
1)最小の訓練で使いこなせる。
2)広く利用者が、Web資源に対して件名を与えうるものとし、典拠コントロールは自動化しうること。
3)埋め込み型メタデータとして使用しうるものとする。
4)オンライン事後結合システムとして、LC件名の改変を計る。
 結果として、LC件名を6つのファセットに限定して分解する。一般、地名、形式、時代、およびファセット化された人名および団体名。時代を除いて、これらのFAST標目は、FAST典拠ファイルとして維持管理する。

(5)一般ファセット(Topical facet)
 topical主標目と一般細目(general subdivisions)とからなる。
・MARCレコードの650フィールドから、切り出す。
・$x細目はそのまま付けて取り出す。
・時代細目のうち、主題要素を含むものはそれを取り出す(下図参照)。
The geographic heading France $x History $y Wars of the Huguenots, 1562-1598 $v Sources would be faceted into:
History-Wars of the Huguenots, 1562-1598 (Topical)
France (Geographic)
1562-1598 (Period)
Sources (Form)

一般ファセット実例
 Project management $x Data processing
 Colombian poetry
 Blacksmithing $x Equipment and supplies
 Epic literature $x History and criticism
 Pets and travel

 ただし、下記のようなものは含まない。
 Colombian poetry $v Indexes
 Pets and travel $v Guidebooks

(6)地理ファセット
・LC件名では、地名は、主標目のとき(直接形)と細目のとき(間接形)で、形式が異なるが、これをすべて間接形とする。
 Columbus(Ohio) → Ohio−Columbus
・Geographic Area Code表により、地名コードを同時に付与する。
 x Earth            zne Neptune
 xa Eastern Hemisphere     zo Outer space
 xb Northern Hemisphere    zpl Pluto
 xc Southern Hemisphere    zs Solar system
 xd Western Hemisphere     zsa Saturn
 zd Deep space         zsu Sun
 zju Jupiter          zur Uranus
 zma Mars           zve Venus
 zme Mercury
 zmo Moon

 以下のような形式となる。
 England $z Coventry [e-uk-en]
 Great Lakes [nl]
 Great Lakes $z Lake Erie [nl]
 Italy [e-it]

 その他、LC件名に対して、若干の修正を行う。

(7)形式ファセット
 すべての形式ファセットを含む。
 $v Translations into French
 $v Rules
 $v Dictionaries $x Swedish
 $v Controversial literature $v Early works to 1800
 $v Statistics $v Databases
 $v Bibliography $v Graded lists

 以上、topical、地名、形式ファセットは典拠ファイルで維持管理する。

(8)時代ファセット

(9)固有名ファセット(names facet)
 個人名と団体名。書誌レコードの中から、主題としての人名と団体名(LC固有名典拠ファイルの形式)のみ取り出す。540万固有名典拠レコードの中から、27万件の主題典拠レコードを取り出した。

4.メタデータ中のFAST標目

 ダブリンコアへの変換がうまく行われている。当初からそれを狙ったものかもしれない。

Slavery $z United States $v Fiction
→FASTでは
Slavery (Topical)
United States (Geographic)
Fiction (Form)

5.評価

・純然たる事後結合用なら何のためのファセット。ロールのような役目か。したがって、引用順序もなしということか。
・少なくとも検索にはファセットを使用しないと思われる。検索したレコードの主題表示用か。ならば引用順序が必要となる。
・そもそも要約主題を考えているのか、深層索引までを考えているのか。この方式なら前者のように見えるが。要約主題でかつ事後結合なのか。一方事後結合なら深層索引が可能だし、そうすべきと思うが。事後結合なら個々の概念に分解し、それぞれの意味論的形式や関係を統制するということでよいのではないのか。
・FAST典拠の維持管理を考えた場合、LC件名とわずかに違うだけなのに、わざわざ膨大な件数を手去管理するメリットがあるのだろうか。簡略なファセットもダブリンコアとの相性はよさそうだし、LC件名から語彙だけをそのまま借用して、典拠管理なしにすませる程度でもよかったのではないか。その方がLC件名自体によって索引された資料との、一括検索にも好都合だと思われるが。

参考文献

1. FASTホームページ
 http://www.oclc.org/research/projects/fast/
2. Rebecca J. Dean. FAST: Development of Simplified Headings for Metadata
 http://www.unifi.it/universita/biblioteche/ac/relazioni/dean_eng.pdf
3. Lois Mai Chan, Eric Childress, Rebecca Dean, Edward T. O'Neill, Diane Vizine-Goetz. A Faceted Approach to Subject Data in the Dublin Core Metadata Record. Journal of Internet Cataloging. Vol.4, no.1/2, 2001, p.35-47
4. Elaine Svenonius. LCSH : Semantics, Syntax and Specificity. Cataloging & Classification Quarterly. Vol.29, no.1/2, 2000, p.17-30
5. Alva T. Stone. The LCSH Century : A Brief History of the Library of Congress Subject Headings, and Introduction to the Centennial Essays. Cataloging & Classification Quarterly, vol.29, no.1/2, 2000, p.1-15
6. LCSH 18版 序文(1995)。
7. Edward T. O'Neill, Eric Childress, Rebecca Dean, Kerre Kammerer, Diane Vizine-Goetz, Lois Mai Chan, Lexington, Kentucky, Lynn El-Hoshy. FAST : Faceted Application of Subject Terminology.
 http://wcp.oclc.org/fast/DC-FAST.doc
8. Lois Mai Chan. Library of Congress subject headings : principles and application. -- 3rd ed. -- Englewood, Colo. : Libraries Unlimited , 1995
9. Office of Subject Cataloging Policy, Library of Congress. Subject cataloging manual : subject headings. -- 4th ed. -- Washington, D.C. : Cataloging Distribution Service, Library of Congress, 1991.