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整理技術研究グループ月例研究会報告

『英米目録規則』新版への論点

古川肇(近畿大学・川村学園女子大学)


日時:
2004年4月17日(土) 14:00〜17:00
会場:
大阪市立総合生涯学習センター第4研修室
発表者 :
古川肇氏(近畿大学・川村学園女子大学)
テーマ :
『英米目録規則』新版への論点
出席者:
江上敏哲(京都大図書館)、大塚志乃(大阪大図書館)、蔭山久子(帝塚山大図書館)、川崎秀子(佛教大)、河手太士(大阪樟蔭女子大図書館)、楠本成生(相愛大図書館)、久保恭子(神戸松蔭女子学院大)、志保田務(桃山学院大)、進藤達郎(京都大物理工学系図書室)、田窪直規(近畿大)、中村恵信(大阪府立大総合情報センター)、堀池博巳(京都大学術情報メディアセンター)、前畑典弘、松井純子(大阪芸術大学)、村井正子(京都精華大学情報館)、山野美贊子(帝塚山学院大非常勤)、吉田暁史(帝塚山学院大)、渡邊隆弘(神戸大図書館)、古川肇<20名>

はじめに

副題は「JSC 2003年9月会議録の主要5議題および第U部を中心に」である。新版の2006年刊行方針を発表したAACR改訂合同運営委員会(JSC)の最新の会議録に基づき、発表者による紹介がこれまで比較的少なかった第U部(発表者の関心はむしろこちらにある)に重点を置く(http://www.collectionscanada.ca/jsc/0309out.html)。

また、JSCによる "New Edition of AACR Planned"(http://www.collectionscanada.ca/jsc/newedann.html) および米国図書館協会目録委員会(CC:DA)による"The Future of AACR" (http://www.libraries.psu.edu/tas/jca/ccda/future1.html)をも参照した。
 なお、今後の目録法の検討に当たっては、セマンティックスとシンタックス、入力形と出力形、著作と著作単位などを明確に区別するとともに、目録を図書館界だけで完結させず、文書館など隣接するコミュニティとの相互利用性を考慮する視点が求められる。

0.全体−用語の問題−

・FRBRとの用語の統一が、JSC 2003年9月会議録の主要議題の第2。
・従来「記述対象」の意で用いられてきた"item"の語がFRBRの定義(「個別資料」)と衝突する点が問題である。ISBDの改訂組織は"item"をあえて使用せず"resource"に置き換える方針であるが、CC:DAではFRBRとの統一方針を打ち出していて、立場の相違があり今後の動向が注目される。
・IFLAのISBD改訂グループの方針については、"Invitation to: World-Wide Review of ISBD(G)… 2003 revision" <http://www.ifla.org/VII/s13/guide/isbdg03.htm>などを参照。CC:DAの方針については、"The Future of AACR" を参照。
・カード目録時代の残滓である"main/added entry"の他の語による置き換えが、検討されている。

1.一般的序論

(1)目録の原理・基本概念・目的の明記
AACRに関する国際会議(1997年)の後にJSCが示したアクション・プランのなかで、この方針が出された。Tillettによるメモ(2001年5月8日付)が公開されているが、FRBRのほかElaine Svenoniusの著作 The Intellectual Foundation of Information Organization (2000)の影響が強い。
<http://www.nlc-bnc.ca/jsc/docs/prin2001.pdf>
→「付 国際目録原則の声明最終草案」
(2)フォーマット・ヴァリエーションの問題(同一表現形の多様な体現形の扱い)
かつてCC:DAの0.24条項に関するタスク・フォースは、表現形を記述の本体とするレコード(expression-based record)を答申した。だが、これを引き継いだJSCのフォーマット・バリエーション作業グループ(以下「FVWG」)は、複数の体現形のレコードから表現形のレコードを作成することの困難さなどを理由に,従来どおり別々に作成した体現形レベルのレコードを表現形レベルでいかに集中するか,という課題を追究している模様である。 <http://lcweb.loc.gov/marc/marbi/2002/2002-dp08.html>

2.第T部

(1) 第T部内の横断的整合性の追求
・JSC 2003年9月会議録の主要議題の第3。CC:DAの Task Force on Consistency across Part I of AACRは、第T部内の横断的な首尾一貫性を実現しようと図り、特に第2章から第12章までに存在する通則的な規定を第1章へ移行することに努めている。<http://www.libraries.psu.edu/tas/jca/ccda/docs/tf-alpha.pdf> 元来はDelseyによる第T部のISBDのエリア別構成の提案に由来する。
・同タスク・フォースは、別に次のような第T部の再構成案を提示している(Section I以外の順序は未定)。
Section I - Generalities and principles
 Chapter 1.1 Overall principles
 Chapter 1.2 General rules that apply to all contents, carriers, and publication patterns
Section II - Content
 Chapter 2.1, 2.2, etc. Rules for specific types of content (e.g., verbal, whether ink on a page or sound; musical, whether ink on a page or sound; visual, whether moving or still)
 Note: there was some discussion among the task force about splitting this section into two sections, "Content" and "Form of Expression." Partly because of time constraints the task force was unable to work  this out, but it might be worth pursuing.
Section III - Carrier
 Chapter 3.1, 3.2, etc. Rules for specific formats (e.g., codex book, microform, disc, cassette)
Section IV - Publication Pattern
 Chapter 4.1. Rules for monographs in all formats/genres
 Chapter 4.2. Rules for continuing resources in all formats/genres
 Chapter 4.3. Rules for unpublished materials in all formats/genres (including guidance on what constitutes published vs. unpublished)
Section V - Granularity
 Chapter 5.1. Principles/guidance for decision-making
 Chapter 5.2. Collection level (including archival control)
 Chapter 5.3. Item level
 Chapter 5.4. Analysis
cf. デルシーの提案・・・コンテンツ記述、メディア記述、刊行方式、非刊行資料、分出・多段階記述(→永田治樹「図書館目録・メタデータの動向:伝統の再構築と新たな胎動」(2003年11月月例研究会))
・この問題に、分析合成型分類表の構成手法である、区分原理を列挙し、区分肢を展開し、区分原理間の優先順位を確定する、という手順を適用できないだろうか。
・一般資料表示・・・JSCがこの要素の成立過程などを調査している段階であり、改訂案の提示には至っていないようである。
(2)第9章の再定義(reconceptualization)
本章の範囲(名称)を "Computer Software, Numeric Data, Computer-Oriented Multimedia, and Online Systems and Services"と狭め、各資料の電子的キャリア(例えば電子地図)を記述する規定は他章に分散させる構想が、Joint ALA/BL Task Force to Reconceptualize
Chapter 9によって模索されている。<http://www.libraries.psu.edu/tas/jca/ccda/tf-ch9a.html>
(3)電子資料の特性(第9章)
JSC 2003年9月会議録の主要議題の第4。JSC は第3エリアを除去することを最終的に承認。今後、電子的内容と電子的な数量・大きさは第5エリアに記録する。なお、ISBD(ER) 2004年版草案は、情報源を資料全体へ変更し、第3エリアを使用しないと規定して、world-wide reviewに供された。<http://www.ifla.org/VII/s13/guide/isbder_ww2-1-04.pdf>
(4)多巻もの(multipart monographs)の扱い
JSC 2003年9月会議録の主要議題の第5。この種の資料が有するserialityが問題であり、新第12章の改訂過程では、同章に属させようとする案もあった。
*仮逐次刊行物・・・終期が予定されていても継続期間が長いため、完結するまでは逐刊として取扱う方が便利なもの。(『学術雑誌』JLA 1976)

3.第U部

(1)第21章
・デルシーによる次の分析の末尾にある7か条の勧告が、改訂作業の出発点となっている。
The Logical Structure of the Anglo-American Cataloging Rules - Part II. (1999)
<http://www.collectionscanada.ca/jsc/docs/aacr2.pdf>
・JSC は当面 "rule of three"(責任表示もアクセス・ポイントも3までに限定する、という規定の通称)の問題に取り組んでいるが、今後は本章全体をデルシーの勧告に従って改訂する意向である。
*関連するデルシーの勧告(原文を敷衍)。
2.パリ原則と対比して、AACRには著者性の概念に関して標目を立てる範囲を縮小している面(共著者を標目とするのを3以下に限るなど)と、逆に拡大している面(記念論文集の被記念者を標目とするなど)がある点について、再評価すること。
5.相異なる著者による4以上の著作を収録した合集の場合、分出的副出記入の作成が3番目以内の著作に制限される点を再評価すること。
7.諸条項の使用を簡素化し、条項が存在しない特殊な場合に通則を適用可能とすることを目指して、第21章を再構築する可能性を試みること。
*デルシーの第21章の分析・・・responsibility, configuration, derivation, type of workという区分原理が共存している(21.23(録音物)の区分原理は資料種別ではないだろうか)。
・ALA目録委員会が21.0D(役割表示・任意規定)に関するタスク・フォースを設置。現行の表示(comp., ed., ill., tr. )を廃止し、団体名や基本記入標目にも付加できる、あるいは標準的なリストに準拠できる道を開く趣旨の提案をした。
<http://www.libraries.psu.edu/tas/jca/ccda/docs/tf-210d2.pdf>
(2) 第22-25章
・標目の形を扱うこれらの章を、第V部(典拠コントロール)に再構成しようとしている。
・個人標目の形に関する第22章を、IFLAの刊行物 Names of Personsと互換性のある方向に改訂しようとしている(英語形対原語形の問題)。
・第25章(統一タイトル)の改訂・・・JSC 2003年9月会議録の主要議題の第1。FVWGが、本章を現状のように著作を対象とするだけでなく、表現形(および体現形)をも対象としようと試みている。
・かつて、ある書誌レコードと他の書誌レコードとの関連に関する規定を第V部として別立てする提案があった。
・コンピュータ目録の時代になって、アクセス・ポイントに統制・非統制の両者が生じたほか、タイトルのように特定要素が二重構造を有する場合もある。フランスで出版者名を統制しているという例もあり、アクセス・ポイントの統制の範囲を見直す必要がある。また、MARC等におけるコード化情報と記述における記録との関係も、再検討する余地がある。(→拙稿「ルベツキイにおける『記述』」(『資料組織化研究』48 20ページ))

4.その他の問題

前章に含まれるもの以外の改訂事項は、JSCのホームページの"Other Agenda Items"に列挙されている(重要度は比較的小さい)。なお、この欄にも挙げられていない事項が、同ホームページの"JSC Program of Work"という欄に含まれているので注意。

5.ゴーマン(Gorman, Michael)による新版反対論

新版への反対論の趣旨を理解することは、近年の改訂の動向に対して適切な距離を置く
ために必要である。AACR2の編者ゴーマンは、AACR新版を志向する潮流に逆らい、改訂の成果が必ずしも十分でない現況を批判し、AACR2の構造を擁護してやまない。何らかの改訂が必要なことは認めるが、それはAACR2の構成を基本的枠組みとしてそのなかで漸進的に行うべきだ、というのが彼の立場である。そして、AACR3制定への代案としてAACR2改訂案をも提示している。
なお、ゴーマンは一方でメタデータをも批判する。彼によれば、メタデータとは"a fancy name for an inferior form of cataloguing"で、ダブリン・コアは標準を欠く"subset of the MARC record"に過ぎない。さらに、後者はcreatorとcontributorとを区別しているが、等価標目の立場を取るゴーマンの眼には、これが基本記入と副出記入を維持するカード目録と重なるのである。彼にとって電子資料の多くは無価値かそれに近いものである。重要な問題は目録法ではなく(それは容易であると彼はいう)、未来の世代のために目録と保存に値する電子資料を選別することである。彼の主張の詳細については以下を参照。
・"AACR3? Not!" In: The Future of the Descriptive Cataloging Rules: Papers from the ALCTS Preconference, AACR2000, American Library Association Annual Conference, Chicago, June 22, 1995, ed. by Brian Schottlaender. Chicago: American Library Association, 1998. p.19-29.
・Keynote Address: "From Card Catalogues to WebPACs: Celebrating Cataloguing in the 20th Century." In: Proceedings of the Bicentennial Conference on Bibliographic Control for the New Milleniam: Confronting the Challenges of Networked Resources and the Web, Washington, D.C., November 15-17, 2000.
<http://lcweb.loc.gov/catdir/bibcontrol/gorman.html>

6.結論

ゴーマンの批判に照らしても、数ある改訂事項の中核は、第T部と第U部(特に前者)の再構成の成否にあると考えられる。AACR2の構造から自立した構造の確立に成功すれば、それは新版の名に値し、失敗した場合は、AACR2のrevisionの一つに過ぎないとみなされるべきであろう。

付 国際目録原則の声明最終草案

内容については、渡邊隆弘「『目録規則再構築の動向』勉強会第2回発表」(2004年2月27日)を参照。以下には筆者が抱いた批判や疑問を述べる。ご教示をいただきたい。
・AACR2「一般的序論」へのTillettのメモに基づいていて、新奇性に乏しい。
・FRBRやSvenoniusの影響(利用者タスクへの "to navigate"の追加など)が未消化の感がある。
・パリ原則では扱わなかった主題目録にも範囲を広げるとあるが、具体性に乏しい。
・main/added entryあるいはこれに変わる用語が見当たらないようであるが、記入の主副の別は廃止するのだろうか。
・次の一文(3.1.2)は、現実追随であり「原則」になじまないのではないか。
It is recognized that, due to economic restraints, some library catalogues will lack bibliographic records for components of works or individual works within works.
(経済的制約により、いくつかの図書館目録では著作の構成要素や著作中の個々の著作に対応した書誌レコードが欠落するだろうことが認識される。−渡邊氏訳)
・"creator"という従来にない用語を使用した(5.1.1.1、7.1.2.1)ことは、混乱の原因にならないだろうか。
・原則が目指す目録の構造が把握しにくい(目録が書誌レコードと典拠レコードによって構成されることは読み取れるが、書誌レコードが記述と何によって構成されるのかよくわからない、アクセス・ポイント(統制されるものとされないものがある)と、書誌レコードまたは典拠レコードとの関係がよくわからない、など)。
・付録「目録規則の構築に関する目標」における次の箇所は、草案が未完成であることを自認していて、「最終」の名にふさわしくない。
It is recognized that at times these objectives may contradict each other and a defensible, practical solution will be taken.
[With regard to subject thesauri, there are other objectives that apply but are not yet included in this statement.]
(時にはこれらの目標は相矛盾する場合があることがわかる。妥当で実際的な解決がなされるであろう。[主題シソーラスに関しては、この声明で述べられていない目標が他にもある。]−渡邊氏訳)

(記録文責:渡邊隆弘)