TOP > 月例研究会 > 2004 > / Last update: 2008.1.1

整理技術研究グループ月例研究会報告

ベイツレポートにみる「新しい図書館目録」の可能性

橋詰秋子(国立国会図書館)


日時:
2004年5月22日(土) 14:30〜17:00
会場:
大阪市立浪速人権文化センター4階会議室1
発表者 :
橋詰秋子氏(国立国会図書館)
テーマ :
ベイツレポートにみる「新しい図書館目録」の可能性
出席者:
江上敏哲(京都大図書館)、蔭山久子(帝塚山大図書館)、門昇(大阪大学)、川崎秀子(佛教大)、河手太士(大阪樟蔭女子大図書館)、進藤達郎(京都大物理工学系図書室)、田窪直規(近畿大)、谷口美代子、中村恵信(大阪府立大総合情報センター)、堀池博巳(京都大学術情報メディアセンター)、前川和子(堺女子短大)、山野美贊子(帝塚山学院大非常勤)、吉田暁史(帝塚山学院大)、渡邊隆弘(神戸大図書館)、橋詰秋子<16名>

 Marcia J. Batesのレポート「図書館目録とポータル情報における利用者アクセスの向上」(Improving User Access to Library Catalog and Portal Information)の紹介を主内容とした発表であった。
レポート原文のURL
 http://lcweb.loc.gov/catdir/bibcontrol/2.3BatesReport6-03.doc.pdf

1.「ベイツレポート」とは

> 米国議会図書館(LC)は2001年に「Web情報資源の書誌コントロールに関するLCアクションプラン」を策定した。「ベイツレポート」は、その中の行動課題2.3「メタデータレコードを向上させる方法を、主題検索やアクセスメカニズムの提供、アクセスと表示の詳細化に焦点をあてて研究」に対応して委嘱を受けた検討結果で、2003年7月に最終草案が出された。
 本レポートの最大の特徴は「利用者志向」を前面に出していることである。構成としては、図書館目録に関する情報探索行動の研究レビューを行ったうえで、3つの課題について具体的提言がなされている。

2.図書館目録に関する情報探索行動

 研究レビューの総括として、主題検索の問題とブラウジングの重要性をあげている。利用者が主題検索を指向する割合は高いが、適切な主題検索語を見つけるのは困難との指摘がある。また、最も好まれる探索手法はブラウジングであり、ブール演算子を用いた検索式はめったに使われない。検索式中心からブラウジング中心へ、目録検索システムのパラダイム変更が必要であるとしている。

3.利用者アクセス語彙の構築

従来の件名標目やシソーラスはいわば「索引者の語彙」といえるが、主題検索の困難を解消するためには利用者がアクセスの際に用いる語彙を広範に集めたデータベースが必要であると提言している。この「利用者アクセス語彙」とは関連する語をクラスター化したシソーラスであり、語彙はデータベースレベルで検索システムとリンクされる。

4.書誌ファミリーによるリンク

リンクをたどるブラウジングを検索機能の主役に位置づけるには、レコード間の関係性を十分に管理することが求められる。具体的には、関連する書誌レコードをグループ化した「書誌ファミリー」の構築を提言している。ここで書誌ファミリーとは、ある一つの共通の祖から派生した著作(例えば「源氏物語」に対して原書と注釈書・翻案書など)や当該著作を具体化させた表現形(Expression)・実現形(Manifestation)を包含したものである。書誌ファミリーの分布はブラッドフォードの分散則に従い、大規模なファミリーは相対的に少数である。複数の機関が分担して、人々の興味を引く大規模ファミリーの構築作業を行うことを提言している。

5.情報アクセスの段階化

適合性判断のために、利用者は目録レコードに今まで以上の内容情報(要約、抄録、目次)を求めており、こうした情報の提示方法が検討される必要がある。人々は1:30の比率で段階化された情報アクセスを好むという研究結果を踏まえ、その比率でより詳細な情報へ誘導する段階的な画面進行を提言している。また、情報システムの構造は深いよりも広いほうが使いやすく、各段階で多機能を提示する、階層の少ないシステムが適当であるとしている。これらはAmazon.com社のサイトで実現している事項であり、こうした商用サービスは新しい図書館目録への有益なアイデア源であるとする。

6.最後に(考察)

インターネットの普及とGoogleやAmazon.comなど商業情報サービスの展開により、一般の人々の情報探索行動は変化してきている。その中で図書館目録(もしくは図書館)の優位点を考えてみると、目録法など情報組織化に関する手法の蓄積、これまで構築してきた膨大な量の目録レコード、図書館が培ってきた信頼性・権威性、といったことが考えらえっる。いずれも蓄積・伝統に関わることであるが、そうした伝統を生かしながら、より利用者に受け入れられる「新しい図書館目録」を構築していくことが求められているのではないだろうか。
【参考文献】
橋詰秋子 米国にみる「新しい図書館目録」とその可能性『現代の図書館』41(4), p.222-230, 2003

(記録文責:渡邊隆弘)