TOP > 月例研究会 > 2005 > / Last update: 2008.1.1

整理技術研究グループ月例研究会報告

和漢古書総合目録の基本的態度、及び問題の検討

岡嶌偉久子(天理大学附属天理図書館)


日時:
2005年1月29日(土) 14:30〜17:00
会場:
大阪市立浪速人権文化センター
発表者 :
岡嶌偉久子氏(天理大学附属天理図書館)
テーマ :
和漢古書総合目録の基本的態度、及び問題の検討
出席者:
江上敏哲(京都大情報学研究科図書室)、蔭山久子(帝塚山大図書館)、河手太士(大阪樟蔭女子大図書館)、今野智子(アグレックス)、土戸千晶(国立民族学博物館図書室)、楢本順子(アグレックス)、難波朝子(アグレックス)、堀池博巳(京都大学術情報メディアセンター)、吉田暁史(帝塚山学院大)、渡邊隆弘(神戸大図書館)、岡嶌 <11名>

伝統的な和漢古書整理法を踏まえて、統一的な記述規則を定めるうえでの問題点が、いくつかの角度から示された。

0.はじめに

従来の和漢古書目録では、各館の状況や対象資料群・主題の性格に応じて記述の精粗や形式が独自に判断されており、統一的な規則への志向は薄かった。近年NACSIS-CAT「和漢古書に関する取扱い」が制定され、NCR改訂案も出されているが、総合目録を意識した和漢古書記述規則の検討は本格的にはごく最近のことであり、いまだ開発途上にある。

1.書誌作成単位について

和漢古書における書誌作成単位は記述対象資料毎でなくてはならない。これは伝統的に当然の了解事項であったが、文章としての明示はNACSIS-CAT「取扱い」が初めてだと思われる。記述対象資料毎が必然であるのは、(1)製作が手作業のため、同版といっても実際には中身の細部に何らかの異同があるのがほとんどである、(2)稀には同じ伝本もあるが、それは大変な調査・労力の末にしか判明しない、(3)成立時の本来的なものではないが「書き入れ」など、長い伝存過程において個々に独自の歴史的・文化史的情報を帯びる、といった理由による。

2.情報源について

NACSIS-CAT「取扱い」やNCR改訂案が各書誌的事項の情報源について優先順位を厳密に定めないのは、和漢古書の実状に即した方向である。現行のNCRでは和漢古書のタイトルの情報源として「巻頭」を最優先するとしているが、江戸期の版本では通常巻頭より「題簽」が通行書名として重視されるなど、分野により時代により、さらには個別に異なっており、全てに共有できる厳密な優先順位は存在しない。記述の安定性を欠き同定識別に問題があるとの反論はあるが、たとえそうした恐れがあっても、伝統的常識から外れた形を強いる厳密な優先順位規定は不適切である。
なお、わが国では伝統的に「著作」「作者」といった意識が薄いため「責任表示」の情報源の扱い方がタイトル以上に難しく、従来の古典籍目録では資料上の表示に関わらず通行の名をとる、いわば「標目感覚」の記録が一般的に多かったようだ。

3.書誌的巻数について

「書誌的巻数」は比較的新しい用語であるが、意味内容は従来の「巻」及び「巻数」の定義の概念に含まれており、要するに形態的(物理的)まとまり(「冊」等)に対して内容的(論理的)まとまりを指す。書誌的巻数記録の伝統は古いが、不完全本の扱いが問題である。完全本の場合のみ記録し不完全本の場合は記録しない(国会、国文研)、不完全本の場合は手元の現存巻数を記録する(多くの和古書目録)、不完全本でも完全本巻数を記録する(多くの漢籍目録)など様々な方式がある。完全本巻数と現存巻数はともに重要な情報であり、NACSIS-CAT「取扱い」やNCR改訂案で両者を併記する方式としたことは望ましい形である。なお、版本に比べると、写本は巻立て意識の曖昧なものが多く、完全本巻数の厳密な表記は難しい場合があるが、目録利用の側から見ると何らかの情報は必要であると考えている。
NCR改訂案等で書誌的巻数にアラビア数字を用いることに対し、漢数字にすべきとの意見がある。しかし、和漢古書においては、漢数字を用いた明記の形ではなく、詞や巻名等による巻立ても多い。まとめた形での書誌的巻数は(転記ではなく)加工された記録とならざるを得ないので、アラビア数字で問題ないものと考える。

4.出版年の記録について

版本の記述において、刊行(版)と印行(刷)の別を明らかにすることは重要であるが、現実には両方を明確に記した目録は極めて少ない。刊記に年があげられていても、刊・印いずれに当たるかは軽々に判断できないし、どちらにも当たらない場合も決して少なくない。NCR改訂案では刊・印の判断がつかない場合に[刊または印]と補記するとしているが、このような実状を考えれば適切とは言えず、NACSIS-CAT「取扱い」のとる「年のみ(付記なし)」の形式が適切と思われる。

(記録文責:渡邊隆弘)