TOP > 月例研究会 > 2005 > / Last update: 2008.1.1

整理技術研究グループ月例研究会報告

和古書総合目録とそこから見えた目録世界

山中秀夫(天理大学)


日時:
2005年11月26日(土) 14:30〜17:00
会場:
大阪市立浪速人権文化センター4階会議室1
発表者 :
山中秀夫氏(天理大学)
テーマ :
和古書総合目録とそこから見えた目録世界
出席者:
江上敏哲(京都大情報学研究科図書室)、大坂牧子(千里文化財団)、新谷祐香(千里文化財団)、田窪直規(近畿大)、田村俊明(大阪市立大術情報総合センター)、中川正己(松山大)、楢本順子(京都女子大図書館)、藤井靖子(千里文化財団)、堀池博巳(京都大情報環境部)、松井純子(大阪芸術大)、吉田暁史(帝塚山学院大)、吉田芳枝(大阪大図書館)、渡邊隆弘(神戸大図書館)、山中<14名>

欧州での在外研究の知見を含め、和古書総合目録における規則標準化や作成方式等について発表された。

1.書誌記述規則と古典籍

・書誌記述規則の標準化や書誌ユーティリティの登場の中で古典籍資料の扱いは積み残されてきたが、システムの安定化とともに、所蔵資料の一元的管理という要請のもとで見直されつつある。
・西洋古書の世界では1970年代以降、独自規則からISBD準拠規則への移行が進み、DCRB(Descriptive Cataloging of Rare Books: 1991)等が制定された。現在も改訂作業中であり、AACR改訂との関係も注目される。
・一方わが国における和(漢)古書の世界では、個々の所蔵館が独自の方式で目録作成を行ってきた。長澤規矩也等によるいくつかの目録基準もあるが、これらも日本目録規則(NCR)との連携は考慮されていない。NCR1987年版には和漢古書の条項が一部盛り込まれたが非常に不十分な状態であった。2000年代に入って、NACSIS-CATの和漢古書入力基準、国立国会図書館の和古書細則、そして本年のNCR増補改訂と、ようやく標準化の動きが出てきた。海外でも和古書目録は個別に多様な採録基準・記載内容がとられてきたが、CEAL(Council on East Asian Libraries)による書誌記述規則の検討など標準化への動きがある。
・新書とは異なる独自の取扱が求められる部分は多いが、一方で情報メディアを横断的に検索する必要が生じる場面もある。一般的な目録規則やMARCと連動できる形で記述規則を作っていくことが望ましい。

2.目録DB作成方法と古典籍

・英語圏古刊本の総合目録事業としては、1976年に英国図書館を中心にはじまったESTC(Eighteenth century Short-Title Catalogue)がある。ここではまず入力方法の検討が行われ、既存の冊子体目録データを用いるよりも資料現物から採録し直すほうがむしろ効率的との結論が出されている。その後、構築された基本データファイルをもとに、各館が同定識別と個別資料情報の入力を行っていく形で本格稼働し、現在2200以上の機関による約47万件のレコードが蓄積されている。
・1990年代に入って、Hand Press期の全ヨーロッパの刊本書誌を対象とするHPB(Hand Press Book database)事業が欧州主要図書館やIFLA, OCLC, RLG等の参加で開始された。既存MARCなどを変換し統一DBを構築する方式をとったが、その過程でMARCフォーマットの相異から生じる問題(ドイツMARCの階層構造など)や多言語に関わる諸問題(翻字方法、名前典拠、転記方法など)が報告されている。現在165万件弱のレコード数となっており、書写資料の追加などの計画もある。
・総合目録DBの構築方法には、(1)各館が共通了解のもとに作成したデータを集中処理する「新収洋書総合目録」方式、(2)独自規則による各館のデータを集めて編集作業を加える「国書総目録」方式、(3)基礎データを中央で作成したうえで各館がデータ追加を行う「学術雑誌総合目録」方式、(4)オンライン共同分担作業によるNACSIS-CAT方式、が考えられる。ESTCは(3)、HPBは(1)、古典籍総合目録DBは(2)といえる。(4)によるNACSIS-CATはデータ数が急速に伸びているが、成功には十分な標準ルールの策定が欠かせず、その点では現在のルールは行き届いたものとはいえない。
・和古書においては資料同定は非常に難しく、「版」単位での書誌共有は行わないことはほぼ了解事項となっている。
・西洋では刊本と書写本は一般に明確に分離して捉えられているが、和古書の世界では両者を分離しないのが一般的である。ISBDに沿ったNCRの章構成には問題なしとしない。

3.目録の概念モデルと古典籍

・FRBRの西洋古書への適応については5点ほどの論考があり、著作と個別資料の間にある中間層(表現形、体現形)のとらえ方が焦点である。和古書においても論考は少ないが、個別資料を基盤とするデータ作成を行う以上、やはり中間層の扱いが重要であり、グルーピングを体系的に行う必要がある。「刊写の別」もグルーピングの一つとしてとらえる余地がある。その他、著作典拠コントロールとの関係も重要である。

4.和古書総合目録のための検討課題

・資料同定の困難な和古書において書誌情報源の転記は重要であるが、手書き文字を版木に彫る和古書は、活字による西洋刊本よりもはるかにレイアウトの自由度が高く、テキストデータでの再現には限界がある。検索のためのテキストデータと組み合わせて書誌情報源のイメージデータを添付することが有効である。
・和古書には近世後期のものを中心に、外形式が決まっていたり(合巻など)、複雑な内容を持つ(女訓書など)資料群があり、規則の適用だけでは識別が困難である。分野によって注記に記述したほうがよい情報の指針を定めることにより、比較・同定に資する書誌情報を作成することが可能になる。

(記録文責:渡邊隆弘)