整理技術研究グループ月例研究会報告
資料組織教育の再定義
倉橋英逸(前・関西大学)
- 日時:
- 2006年5月20日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪市立浪速人権文化センター
- 発表者 :
- 倉橋英逸氏(前・関西大学)
- テーマ :
- 資料組織教育の再定義
- 共催 :
- 日本図書館研究会図書館学教育研究グループ
- 出席者:
- 梓加依(天理大)、尾松謙一(奈良県立図書情報館)、蔭山久子、川崎千加(羽衣国際大図書館)、笠井詠子(帝塚山学院大)、川崎秀子(佛教大)、河手太士(大阪樟蔭女子大図書館)、漢那憲治(龍谷大)、光斎重治(武庫川女子大)、小松泰信(大阪女学院大)、今野智子(アグレックス)、佐藤毅彦(甲南女子大)、杉本節子(武庫川女子大)、瀬戸口誠(梅花女子大)、田窪直規(近畿大)、土居純子(同志社大図書館)、中川正己(松山大)、中島幸子(帝塚山大)、長瀬広和、難波朝子(アグレックス)、堀池博巳、村井正子(日本アスペクトコア)、柳勝文(龍谷大)、山野美贊子(帝塚山学院大非常勤)、吉田暁史(大手前大)、渡邊隆弘(帝塚山学院大) 倉橋 <27名>
情報技術の発達による資料組織の変化を踏まえ、今後の資料組織教育のあり方について発表された。
1.インターネットの本質
- 自律、分散、協調がインターネットの本質である。階層的関係・固定性・線形性・一方向性等の性格を持つ印刷メディアに対して、電子メディアは平面的関係・可塑性・非線形性・双方向性といった正反対の性質を持ち、それらへの対応が必要である。
2.電子図書館の発展と資料組織モデル
- 電子図書館は、試行期・応用期を経て、電子資料の長期・永久保存を目指す成熟期に入った。
- 電子図書館には集中モデルと分散モデルがある。集中モデルとしては、国立図書館等によるWebアーカイビングや、図書の全文テキストを検索エンジンに取り込むGoogle Book Searchなどが注目される。分散モデルとしては、出版社の電子ジャーナルや、大学等が自機関の研究成果を発信する機関リポジトリなどがあり、いずれも情報生産機関が保存・配信までを手がけるところに特徴がある。当分は両モデルの並存が予想される。
3.機関リポジトリとメタデータ
- 機関リポジトリは、SPARCに基いており、学術コミュニケーションの変革を目指す「オープンアーカイブ運動」と深く結びついている。メタデータの相互交換プロトコルOAI-PMHにより、分散モデルが機能する。
- 記述用メタデータだけでなく、保存・再現の技術環境を記述する保存用メタデータが重要である。指針としてOAISモデル(「開放型アーカイブ情報システムのための参照モデル」)があり、具体的なメタデータ要素規定や記述標準の検討も進められている。
- 機関リポジトリの安定的運営には、情報の作成から関与する必要があり、メタデータ作成や典拠コントロールなどの専門的技術を効果的に提供できる図書館の役割が大きい。
4.米国における図書館の目録・分類の動向
- コピーカタロギングによって目録業務の非専門職化が進み、専門職の目録担当者は減少している。こうした状況の中で、ゴーマン(Gorman)は目録の「敵」として、目録を理解しない図書館管理職、「情報学者」、「メタデータ主義者」の3者をあげている。これに対して、LC副館長のマーカム(Marcum)は、情報技術環境・流通環境の変容の中で、Google等との関係やAACR3の必要性など目録を根底から問い直す必要があるとの講演を行っている。
- 目録担当者採用広告の分析調査によると、伝統的な職種名称が多数派であるが、「電子資料図書館員」「メタデータ図書館員」等の新規名称も見られるとのことである。また求められる能力としてメタデータの知識等をあげる例もあった。
5.米国における資料組織教育
- 図書館情報学部の必須科目に関する調査によると、資料組織は今なお中心的な位置にあり、増加している。また、授業内容の調査によると、伝統的な目録に加えて、メタデータに関する講義・実習もかなりのところで行われている。
- イントナー(Intner)は、資料組織教育の問題点として、「理論対実際」「図書対非図書」「大学教育対非大学教育」の3点をあげている。
6.これからの資料組織教育
- わが国の司書課程は就職率低下等により職業教育としては機能しなくなっている。将来的に職業教育は大学院に移行すると予想され、学部レベルの司書課程はその導入教育として一般教育化するだろう。
- 職業教育を前提とした規則主義の資料組織教育は一般学生にはブラックボックス化している。一般教育においては、「なぜ」を教える原則主義教育が望ましい。ただし、原則を講義だけで理解させるのは困難で、十分な情報環境を整えての実習が重要である。
- 内容面では、インターネット以後のIT関連図書館技術、電子出版、情報発信も含める必要がある。
- Web授業を実践してきたが、電子図書館の基礎となるWebの作成・利用を日常化できる、映像等により理解を容易にする、予習復習を促すなどの効果がある。印刷メディアと電子メディアの性格の違いから、Web教材はハイパーテキスト、マルチメディアなどWebの特性を十分生かして構成する必要がある。方法としては、主体的学習、双方向学習、共同学習が有効である。
- 一方Web授業には、適合学生と不適合学生との幅が大きい、大人数講義科目では難しい、教材作成・質問対応など教員の負担が非常に大きい、などの問題点もある。
7.おわりに
- 図書館現場の情報技術と教育現場のそれとに落差があり、図書館情報学教育の変容が求められる。電子図書館時代の図書館員は情報の「仲介者」の立場からコンテンツ「作成者」へと移行するので、資料組織教育もそれに対応する必要がある。
- 教員主体の伝達モデルから、学生主体の構築モデルへの転換が望まれる。電子メディアにおける学生主体の構築モデルでは、教員も自らを変革する必要がある。
(記録文責:渡邊隆弘)