整理技術研究グループ月例研究会報告
主記入、記述独立、記述目録法−主題目録法という図式への疑問
田窪直規(近畿大学)
- 日時:
- 2007年2月3日(土) 14:30〜17:00
(1月分の月例研究会)
- 会場:
- 大阪市立浪速人権文化センター
- 発表者 :
- 田窪直規氏(近畿大学)
- テーマ :
- 主記入、記述独立、記述目録法−主題目録法という図式への疑問
- 出席者:
- 上田洋(大阪市立大大学院)、蔭山久子、川崎秀子(佛教大)、河手太士(大阪樟蔭女子大図書館)、坂本博(国立国会図書館)、佐久間泰子(大阪市立中央図書館)、佐藤毅彦(甲南女子大)、堀池博巳(京都大情報環境部)、山野美贊子(帝塚山学院大非常勤)、渡邊隆弘(帝塚山学院大)、田窪<11名>
「検索目的中心主義」という発表者の立場から、従来の目録法の根本的部分についての批判と、今後に向けての提言があった。
1.主記入概念の通時的変遷
- 19世紀中期以降の冊子体目録時代には単一記入(「主記入」と呼ばれた)を参照が補完するという目録形式が採用され、その後カード目録時代になると、主記入(完全記入)と副出記入(簡略記入)からなる複数記入制へと変化した。この間、主記入には原則として、第一著者による著者記入が採用された。
- カード目録作成にユニットカードが普及するようになると、完全・簡略という図式は崩壊し、主記入概念はアクセスポイント(標目)論の方向へと向かった。すなわち複数記入のうちで第一義的アクセスポイントを持つ記入を主記入とする考え方である。さらにOPAC時代に入ると、単一記入(レコード)に複数のアクセスポイントが与えられる構造となり、主記入論の第一義的アクセスポイント論への変化がさらに明確となった。第一義的アクセスポイントには、引き続き、原則として第一著者が採用された。
2.主記入賛成・反対派の論争
- 日本では1950年代中期から60年代初期にかけて、主記入制をめぐる論争があった。主記入論者は集中機能・二次排列機能等の優位性や標目記述分離不可能性を主張するが、森耕一らの記述独立論者は本質的な優位性を認めず、基本記入標目選定困難性を指摘した。60年代初期以降主記入をめぐる文献は散見される程度となるが、『日本目録規則』は記述独立方式の方向に向かった。
- 西洋でも60年代に非主記入論が出現するが、多出するのは90年代以降のことである。OPACを意識しているのが主記入批判論の特徴で、OPACでは第一義的アクセスポイントよりも典拠コントロールが重要であること、主記入の集中機能よりもリンク付けが有効であること、等の指摘がある。
- 90年代以降も内外において、集中機能の重要性や標目記述分離不可能性を根拠とした主記入賛成論はなお根強く主張されている。
3.従来型の図式への疑問
- 検索目的中心主義という発表者の立場からは、主記入論・記述独立論のどちらにも疑問がある。
- 記入(アクセスポイント)間の優位性は、検索目的の従属変数として決定されるべきである。主記入論が主張するように常に第一著者に絶対的な優位性があるわけではなく、その時々の検索目的に合う記入がその時々の「主記入」である。
- 概要(抄録)や対象読者などの情報は、未知検索(主題検索など)には非常に有用だが、既知検索の場合には特に必要とはいえない。すなわち検索目的によって必要とされる記述は変化するのであり、記述独立論における記述とアクセスポイント(標目)の分離という考え方は適切でない。
- この観点から、「記述目録法−主題目録法」という図式にも疑問がある。この枠組みのもとで主題目録法では標目のみを問題にするのが通常であるが、これは記述目録法の記述を主題目録法に流用するという考え方であり、検索目的によって必要とされる記述が変化するとみれば、適切でない。
4.目録法研究の再構築を目指して:OPACを意識して
- 今後の目録法研究においては、OPACにおいて要求される多様なアクセスポイントと、それぞれのアクセスポイントで必要とされる記述の分析が必要である。
- この際、入力レコードと出力レコードを分離した考察が必要である。すなわち、出力レコードの設計ではアクセスポイントごとにどのような記述が必要かの割り出しが求められ、入力レコードの設計においては要求されるアクセスポイントと記述をすべて吸収することが求められる。
- 結局、検索目的中心主義からアクセスポイント記述・レコードのすべてにわたって根本的な見直しが必要である。なおこの際、メディアがメッセージとキャリヤーの二次元構造体であるという視点を持つことも重要である。
(記録文責:渡邊隆弘)