整理技術研究グループ月例研究会報告
日本へのFRBRの適用:2つの試みの報告
橋詰秋子(慶應義塾大学大学院文学研究科)
- 日時:
- 2007年5月26日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪市立浪速人権文化センター
- 発表者 :
- 橋詰秋子氏(大学院文学研究科)
- テーマ :
- 日本へのFRBRの適用:2つの試みの報告
- 出席者:
- 川崎秀子(佛教大)、佐藤毅彦(甲南女子大)、谷口美代子、田村俊明(大阪市立大学術情報総合センター)、中川正己(松山大)、堀池博巳(摂津市公社)、松井純子(大阪芸術大)、山野美贊子(帝塚山学院大非常勤)、吉川直樹(京都府立総合資料館)、吉田暁史(大手前大)、渡邊隆弘(帝塚山学院大)、橋詰<12名>
FRBRを日本の図書館目録に適用するという視点から、発表者が実施した2つの実証的研究について、発表された。
1.FRBRの概要(略)
2.FRBRからみた日本の図書館目録における著作の傾向:慶應義塾大学OPACを例として
- 本研究の目的は、日本の図書館目録に含まれる「著作」を調査して、傾向・特徴を明らかにし、日本におけるFRBRの有用性を考察することである。
- 慶應義塾大学図書館システムに含まれる既存の書誌レコードを対象に、FRBRの考え方によるグルーピングを試みた。調査方法はOCLCによる先行研究を参考とした。和図書書誌レコードをNDC各類から100件ずつ無作為抽出し、計1000件の書誌レコードについて、当該レコード(体現形)と同一の「著作」につながる書誌レコードを網羅的に検索し、その集合を著作−表現形−体現形の構造に整理した(無作為抽出後の作業は人手による)。
- 作業を通じて、FRBRの適用に致命的障害となるような問題は見出されなかったが、「統一タイトルの不整備」「全集・選集の扱い」「典拠コントロールの不備」といった目録データの問題点も明らかになった。
- 対象となった著作のうち、81.6%が1つの体現形しかもたない「単一体現形著作」、4.9%が1つの表現形と複数の体現形をもつ「単純著作」、13.5%が複数の表現形と体現形をもつ「複雑著作」であった。OCLCの先行研究と比較すると、単一体現形著作の割合は近似しているが、単純著作が少なく、複雑著作が多いという特徴が出た。
- 各類別に見ると、複雑著作の数が最も多いのは4類(自然科学)で、特に関連タイプ(表現形の異なりが生じている事由)が「改訂」のものの割合が高い。一方、多くの体現形をもつ大規模な著作が最も多いのは9類(文学)であり、関連タイプが「翻訳」のものの割合が高い。また、7類(芸術)は複数の体現形をもつ著作はそれほど多くないが、関連タイプが「表現形式」(楽譜と演奏など)のものの割合が高いという特徴がある。
- FRBRによる著作の集中化は複数の体現形をもつ著作、中でも複雑著作に有効である。よって、複雑著作の割合が高い4類・7類・9類の分野に力を入れている図書館には効果が大きいといえる。また、メディアの違いを超えた形で書誌レコードを関連づけられるという利点もあり、この点では関連タイプ「表現形式」が重要である。
3.FRBRからみたJAPAN/MARCフォーマットの機能的構造
- FRBRは、利用者の観点から書誌レコードを分析するツールであると同時に、「全国書誌レコードの基本要件」を明らかにしたものでもある。
- 本研究の目的は、FRBRモデルを用いてJAPAN/MARC(以下、J/M)の機能的構造を明らかにしたうえで、「全国書誌レコードの基本要件」との比較を行い、J/Mを再検討する手がかりを提示することである。先行研究として、米国議会図書館(LC)によるMARC21フォーマットの機能分析がある。
- まず、FRBRモデルを拡張し、J/Mの全データ要素を反映する「J/M用モデル」を作成した。この際、対応する属性・関連がFRBRに見あたらないデータ要素が発生するが、これらはデータ管理のための項目である。これらにはLCの先行研究に従って「レコード」等の実体と対応する属性・関連を定義して処理した。作成を通じて、J/Mモデル特有の属性(日本語の表記法に関するモノ、多巻ものの扱いに関するもの、など)が多く存在していること等がわかった。
- ついで、J/M用モデルの「属性」「関連」と「タスク」(FRBRの「利用者タスク」に加えて、LCの先行研究における「データ管理タスク」も用いた)とを対応づけ、J/Mの機能的構造を明らかにした。作業の結果、利用者タスクを支援する要素が全体の88%を占め、中でも最も多いタスクが「識別」であること、一つのタスクのみを支援するデータ要素はないこと、などが明らかとなった。
- 最後に、J/M用モデルと「全国書誌レコードの基本要件」とを比較した。J/Mには基本要件を満たしていない部分がかなりあり、とりわけ表現形にかかるタスクが弱いことや、特定の資料群に関する属性が不足していること、関連が不十分であること、などがわかった。
4.おわりに
- FRBRは欧米(特に英米)の目録の伝統に深く基づいている。基本記入制でなく典拠コントロールも十分なされていない日本の図書館目録に、欧米のFRBR化アルゴリズムを直接適用するのは無理がある。日本において著作の集中化に対する強いニーズがあるのか、日本と欧米で目録の目指す方向に差異があるのか、といった点も検討が必要である。
(記録文責:渡邊隆弘)