情報組織化研究グループ月例研究会報告(2008.3)
FRBRのとらえる「書誌的世界」:
FRBRooを中心に
渡邊隆弘(帝塚山学院大学)
- 日時:
- 2008年3月15日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪市立浪速人権文化センター
- 発表者 :
- 渡邊隆弘氏(帝塚山学院大学)
- テーマ :
- 「FRBRのとらえる「書誌的世界」:FRBRooを中心に」
- 出席者:
- 猪俣裕子、大場利康(国立国会図書館関西館)、蔭山久子、新谷祐香(千里文化財団)、田村俊明(大阪市立大学術情報総合センター)、戸田光昭、堀池博巳(摂津市施設管理公社)、松井純子(大阪芸術大学)、山野美贊子(帝塚山学院大非常勤)、山本知子、渡邊 ほか1名<11名>
IFLAのFRBR関係者とCIDOCのCRM(博物館情報のオントロジ)関係者が共同で作成したFRBRoo(オブジェクト指向モデル版FRBR)の策定経緯や内容の特徴を中心とする発表であった。
1.FRBRの概要(略)
2.目録・目録規則等の動向とFRBR(略)
3.CIDOC CRM
- CRM(Conceptual Reference Model:概念参照モデル)は、ICOM(国際博物館会議)のCIDOC(国際ドキュメンテーション委員会)によって1998年に策定された、博物館情報のオントロジである。2006年にはISO21127として国際標準規格となっている。
- 文化遺産情報を扱う異なったシステムの間でメタデータの交換
- 統合を可能とすることが、CRMの目的である。メタデータスキーマ上の「属性」(「属性値」ではなく)を扱うオントロジといえる。
- CRMはオブジェクト指向分析に基づくモデルを採用しており、約80個の「クラス」と約130個の「プロパティ」からなっている。各クラス
- プロパティには「スコープノート」の形で文章による詳細な定義がなされている。また、クラスとプロパティはそれぞれ、階層構造を形成している。なお、CRMは意味的定義のみを行っており、構文定義(XML記述など)は定められていない。
- クラスとして、モノや記号だけでなく、「活動」や「状態」を表す「一時的実体(Temporal entity)」も設定されている。
- 各プロパティには、定義域
- 値域として、それぞれ特定のクラスが設定される。逆からみれば、各クラスごとに、適用されるプロパティが規定される。クラスの階層構造に沿ってプロパティ情報が継承されるのが大きな特徴である。
4.FRBRooの策定作業とその構成
- 2003年から、IFLA FRBR Review GroupとCIDOC CRM SIGの両グループによるワーキンググループが作られ、会議を重ねている。最新草案は2008年1月発行のVer.0.9である。
- FRBRをオブジェクト指向モデリングによって表現することによって、博物館情報と図書館情報との間の相互運用性の向上、FRBRの内的一貫性の検証などをめざす。また、静態的で「プロセス」の扱いが不十分というFRBRの欠点、「知的生産物」の扱いが不十分であるというCRMの欠点を、相互補完によって改良していく可能性も指摘されている。
- FRBRの「実体」と「関連」は、CRMの「クラス」と「プロパティ」に相当するが、「属性」にあたるものはCRMのモデルでは設定していない。このため、FRBRの属性を一つ一つ検討
- 分析し、プロパティとして位置づける(新たな実体を設定する場合も)作業が行われた。また、FRBRには規定されていない「一時的実体」の設定なども行われている。
- FRBRから約35個のクラスと約40個のプロパティが定義され、CRMに則った形式に整えられた。クラスとプロパティはCRMの階層構造に組み入れられている。
5.FRBRooモデルの特徴と論点
- モデリングの過程で、「著作」「表現形」「体現形」のとらえ方についていくつかの問題が発生し、下位クラスの設定やクラスの分割が行われている。
- 著作をめぐっては、FRBR内における意味づけが完全に一貫していない点が大きな問題となった。中心的解釈である「複数の表現形で共有されるとみなされる、概念のセット」をComplex work、対して「ある特定の表現形中に示された、概念のセット」をIndividual workとして、それぞれクラスが設定された。また、アンソロジーなどのように「他の著作の表現形に付加価値を付けた著作」をContainer workとしてクラスを設定し、さらにいくつかの下位クラスを設けている。
- 表現形をめぐっては、著作や体現形に比べれば明快であるとの評価がなされている。しかし、表現形の生成というイベント(Expression creationというクラス)の2面性が問題となった。記号化は通常何らかの物理的側面(原稿など)を伴うので、表現形と同時に体現形(Manifestation singleton)も生成されると規定された。
- 体現形をめぐっては、手稿に代表されるように単一の物理的存在に対応する側面と、複数の個別資料を生成する前段階としての「出版」という概念的な側面を、同時にカバーしてしまっている点が問題となった。結果、前者はManifestation singleton、後者はManifestation product type、という別のクラスとして設定された。Manifestation product typeは出版行為を一種の「型」の生成(この「型」に従って個別資料が製造される)とする解釈に基づいて設定されている。
- その他、「記録(Recording)」「実演(Performance)」などによる生成物についても分析し、いくつかのクラスを設定している。
当日配布資料(PDF)*別添資料は省略