情報組織化研究グループ月例研究会報告(2008.9)
NACSIS-CATの過去・現在・将来
佐藤義則(東北学院大学)
- 日時:
- 2008年9月20日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪市立浪速人権文化センター
- 発表者 :
- 佐藤義則氏(東北学院大学)
- テーマ :
- NACSIS-CATの過去・現在・将来
- 出席者:
- 磯野肇(奈良大学)、石定泰典(神戸大学図書館)、井上雅美(システムズデザイン)、上村孝子(大阪大学図書館)、上山卓也(国立国会図書館関西館)、小沢香織、蔭山久子、河手太士(大阪樟蔭女子大学)、久保恭子(元・神戸松蔭女子学院大学)、楠本成生(相愛大学図書館)、嵯峨園子(ソシオメディア)、塩見橘子(大阪市立大学大学院)、新谷祐香(千里文化財団)、末田真樹子(神戸大学図書館)、高城雅恵(大阪大学図書館)、田窪直規(近畿大学)、玉置さやか(大阪教育大学図書館)、千本沢子(大阪社会運動協会)、辻水衣(広島経済大学図書館)、中村健(大阪市立大学図書館)、難波朝子(アグレックス)、堀池博巳(摂津市管理公社)、松井純子(大阪芸術大学)、松岡美佳(関西大学図書館)、村井正子(日本アスペクトコア)、村上健治(京都大学図書館)、八木敬子(相愛大学図書館)、山野美贊子(帝塚山学院大学非常勤)、山本知子、横谷弘美、吉田暁史(大手前大学)、渡邊勲(羽衣国際大学)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、佐藤<34名>
書誌ユーティリティNACSIS-CATについて、全件データの分析による現状と、今後の方向性についての発表が行われた。
1.NACSIS-CATのこれまでの発展
1.1.参加機関数と参加状況
- 参加機関数は年々順調に増加しているように見えるが、すべての機関が書誌登録を行っているわけではない。年ごとの書誌登録(1件以上)機関数は今世紀に入って500機関前後で横ばいの状態である。
- 年代半ば以降、書誌・所蔵を相応に登録する機関と、所蔵登録中心の機関という2極化現象がみられる。全書誌レコードの約95%が200機関で登録されている半面、所蔵レコード登録機関のうち約50%は書誌登録が100件以下である。
- 2極化は規模の拡大と安定的成長の副産物という見方もでき、直ちに問題視すべきものではない。しかし、かなりアンバランスな状況が出現していることは確かで、タイプ別のケーススタディなどさらに詳細な分析が必要である。
- 「資源共有」がCATの理念と言われるが、書誌情報は「公共財」なのか「クラブ財」なのかといった点を含め、必ずしも理念が明確に詰められているわけではない。サービス開始時期においては、制度の理論的整備を行うよりも、システム存立の基盤となる参加機関数の増大が優先された。また、インターネットの普及等によって書誌情報の流通可能性が増大したことが、参加機関数の増大や業務体制の多様化を生み、2極化現象の背景となっている。
1.2.書誌レコード件数、所蔵レコード件数に見られる変化
- 出版年別の書誌レコード件数とそれらの作成年に着目すると、初期には出版翌年に書誌レコード登録のピークがあったものが、次第に登録が早期化して現在は当該年中にピークが移っている。
- 言語別では、日本語の比率が書誌レコードでは約34%だが、所蔵レコードでは約69%を占めている。コピーカタロギング率は日本語では95%を超えるが、英語では約87%、イタリア語やスペイン語では50%台にとどまっていると推計される。
- 出版年ごとの言語別書誌レコード数をみると、日本語は横ばいだが、英語をはじめとする外国語は2001年ごろから大きく減少している。この間、大学図書館の図書受入冊数でも洋書が大きく減少していることを反映している。
- 様々な経年データを総合すると、参加機関数が少なく共同目録の効果が十分には発揮されなかった第1期(立ち上がり期 1985-1990)、参加機関が増えレコード件数が順調に上昇した第2期(安定成長期 1991-2000)を経て、2001年以降は第3期(停滞期)に陥っているといえる。書誌登録の時期はより早まったが、洋図書を中心に所蔵登録の減少が見られる。また、参加機関の2極化が顕在化したのもこの時期である。
1.3.アクセス可能性に関わるレコードの現状
- 著者名典拠リンクが行われている書誌レコードの比率は、約67%にとどまっている。1995年以降出版のものに限っても約70%で、遡及入力・新刊入力を問わず3割程度は行われていない。
- 件名が付与された書誌レコードの比率は、全体で約47%、1995年以降出版のものに限っても約60%である。分類もほぼ似たような状況で、主題情報が付与されていないレコードが多い。
1.4.ILL現物貸借と総合目録データベース
- ILLシステムを通じた現物貸借の件数は年間10万件程度、2000年ごろから伸び率が低くなっている。ほとんどが人文社会系で日本語資料の比率は約5割、特定年代への偏りは見られない。また文献複写の場合とは異なり、少数タイトルへの集中は見られない。
- 参加機関ごとの受付件数は、当該機関の所蔵レコード登録件数と強い相関がみられる。
- 米国では文献複写と現物貸借の件数に大きな差はないが、日本では現物貸借が著しく少ない。800万件を超える書誌レコードに対して年間10万件のリクエストという状況は、総合目録の構築意義という観点からは、望ましいものではない。
2.NACSIS-CATのこれから
2.1.現状の認識
- 図書館が扱うべき電子情報資源が急速に拡大している。これらのメタデータを管理する上で、扱うべき「粒度」の変化、目録記述の質的・量的困難といった問題が生じている。
- 「発見可能性(discoverability)」が注目されるなかで、電子情報資源間のリンク可能性の増大という視点も重要である。
- 利用者の行動スタイルにも確実に変化がみられ、利用者のワークフローに即した情報サービスが求められる。
- 様々な情報資源を別々のシステムで扱うため、図書館システムの複雑化・断片化が進んでおり、統合的検索環境が求められている。
- 今後のメタデータ活用においては、専門家による「知識の組織化」はもちろん重要であるが、利用者の貢献に基づく付加、プログラムによる付加、利用データに基づく付加、等を組み込んでいくことも不可欠である。
- 参加機関における経営合理化の要請と業務の多様化への対応体制という問題もある。さらなる効率化を求める意見があるが、一方で目録品質の維持という命題もある。
2.2.具体的方策(検討中)
- 国立情報学研究所では「次世代目録ワーキンググループ」を組織して検討中であり、2008年3月に中間報告を公表している。
- 電子情報資源管理のモデル案として、CATとは別枠で「電子情報資源用データバンク(仮称)」を構築することを提案している。
- データ構造についての検討も求められる。情報量(検索結果)の増大に対応して、整理された状態を利用者に提供するという観点から、FRBR対応が重要である。
- データ公開については、検索エンジンとの連携やAPI公開が考えられる。検索エンジンとの連携では、OCLCがGoogle Book Searchとの連携を開始し、デジタル化したコンテンツのためのMARCレコードの提供などを行っているのが注目される。API公開は、段階的に実施していく方向である。
- 目録作業の効率化のため、出版社や商業MARC作成機関によって作成される書誌情報を今以上に活用する川上方式(発生源入力)の可能性を追求する。また、全国書誌レコード等の高品質な目録の成果を、プログラムによって効率的に取り込む方策も追求する。
- オリジナル目録作成は今後も不可欠であり、大学図書館が目録作成の責任を放棄してはならない。しかし、前述の「2極化」現象を前提に考えれば、参加機関全体で書誌調整を行うのは非合理であり、より合理的な運営システムが求められる。オリジナル目録作業を行う図書館の集中化(「目録センター館」構想)、インセンティブモデルの導入、参加機関のレベル分け、などの可能性を検討している。
- 参考:
- 当日のプレゼンファイル(PDF 約2.1Mbyte)
次世代目録ワーキンググループ(国立情報学研究所)http://www.nii.ac.jp/CAT-ILL/archive/project/catwg.html
(記録文責:渡邊隆弘)