情報組織化研究グループ月例研究会報告(2008.10)
ハーバード日記・目録編
米国大学図書館での経験から
江上敏哲(国際日本文化研究センター)
- 日時:
- 2008年10月18日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪市立浪速人権文化センター
- 発表者 :
- 江上敏哲氏(国際日本文化研究センター)
- テーマ :
- ハーバード日記・目録編 : 米国大学図書館での経験から
- 出席者:
- 石井道悦(広島大学図書館)、稲葉洋子(大阪大学図書館)、井上雅美(システムズデザイン)、猪俣裕子(システムズデザイン)、上野芳重、上村孝子(大阪大学図書館)、大塚志乃(大阪大学図書館)、大場利康(国立国会図書館関西館)、川瀬直人(国立国会図書館)、故選義浩、佐藤毅彦(甲南女子大学)、塩野真弓(京都大学文学研究科図書館)、城下直之(エスオーファイリング研究所)、末田真樹子(神戸大学図書館)、高城雅恵(大阪大学図書館)、千葉真弓(大阪大学図書館)、田窪直規(近畿大学)、長谷川裕子(京都大学情報学研究科図書室)、浜口敦子(京都大学医学図書館)、藤原奏子(大阪教育大学図書館)、松井純子(大阪芸術大学)、松井宏、村井正子(日本アスペクトコア)、村上健治(京都大学図書館)、八木敬子(相愛大学図書館)、山野美贊子(帝塚山学院大学非常勤)、山本知子、横谷弘美、吉川直樹、吉田暁史(大手前大学)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、江上<32名>
発表者は、北米最大級の東アジア図書館であるハーバード大学イェンチン図書館に、京都大学附属図書館からvisiting librarianとして研修派遣され(2007.3〜2008.3)、調査・実務体験・交流を行った。今回は資料組織化に焦点を絞り、他機関での見聞も含めて幅広い内容の発表であった。
1.研修の概要・ハーバード図書館の概要(略)
2.古典籍補遺目録出版事業
- イェンチン図書館には日本の古典籍が約14,000冊所蔵されている。90年代に目録が刊行されているが、約1,000冊の収録漏れがあり、2004年頃に補遺目録出版事業が企画された。鈴木淳教授(国文学研究資料館)らの書誌調査により2008年6月に『ハーバード燕京図書館の日本古典籍』(八木書店)が刊行された。
- イェンチン図書館には和古書を扱える専門スタッフはいない。発表者が、資料現物や既調査の整理、調査の支援、書名・人名のローマ字化、イェンチン分類の付与、図版用の写真撮影委託など、本事業をサポートする業務を行った。
3.ハーバード大学のテクニカル・サービス部署
- ハーバード大では、学内に80〜90館ある図書館・室のうち、旗艦的なWidner Libraryやイェンチン図書館などいくつかの図書館でHarvard College Library(HCL)が形成されている。HCLのテクニカルサービス部門は大学キャンパス外のビルに置かれ、Widner Libraryのテクニカルサービス全般に加え、学内約30図書館の目録業務請負等も行っている。
- 目録作業では、OCLCへのデータ登録を行うとともに、図書館システムAleph(Ex Libris社)を用いて目録データベースを構築している。
- OCLCに書誌レコードが存在しない場合、直ちにオリジナルカタロギングを行わない。最小限のデータ要素を記した「ミニマルレコード」をローカルに作成し、資料現物は「バックログ書架」に収め、(検索・リクエストは可能だが)滞貨資料扱いとする。滞貨資料がOCLCに登録されたことを自動検出する専用プログラムなどにより減少につとめているが、2008年3月現在で15,000冊程度の滞貨がある。
- テクニカルサービスの合理化策として、目録業務の集中化が徐々に進められてきた。また、OCLC等へのアウトソーシングも進められており、特定言語の資料をまとめて海外の業者に委託することもある。
4.ハーバード大学における次世代目録の検討
- 2006年秋にTask Group on Discovery and Metadataが発足し、1年を経た2007年9月に最終報告書をまとめた。本報告書では、ユーザの情報環境と図書館サービスの革新を目指して、長期に渡る検討よりも短期的なアクションプランを優先するというスタンスをとっている。一方で継続性と蓄積を重視し慎重な行動をとるともしている。
- OPACの革新を喫緊の課題とする一方、メタデータ標準の将来像が見えないことから既存のデータ構造の改変は行わず、その蓄積を利用するとの方針をとっている。また、一般図書は外注等で処理し特殊資料等に力点を置く、外部で利用可能なオープンなシステムとする、多様化したユーザの情報行動を把握すべきである、等の言及がある。次期OPACについては、ファセット検索・レレバンス・FRBR化を優先し(ソーシャル機能は非優先)、目録情報の豊富化をはかるなどとしている。
- 2007年秋に広範なグループ・委員会を統括するDiscovery and Metadata Coordinating Committeeが発足し、次世代のシステムと業務体制を構築していく舵取りを行うこととなった。
5.OCLCにおける日本語対応の経緯
- 標記について、OCLC訪問等による調査を行った。
- OCLCのCJKデータ取扱は、RLGより3年遅れて、1986年に開始されたが、大きな進展は1990年代に入ってからである。早稲田大学による日本語書誌の一括提供(1995〜)、イェンチン図書館のカード遡及事業(1996)等により、1997年には参加50機関、書誌レコード約114万件を数えるようになった。1998年にはOCLC参加館に無料配布されるキットにCJK取扱ソフト類が含まれるようになった。その後、2007年にRLGとの統合によるRLIN書誌レコードの搭載が行われ、TRCの日本語書誌レコード提供もはじまった。2008年2月現在では日本語資料の書誌レコードは約248万件に達している。
- 文字コードにUNICODEでなくMARC-8を用いていることに起因する問題、日米の基準の違いにより北米仕様に合致しないデータの混入・上書の発生、などが現在の課題と認識されている。
6.マンガのカタロギング
- オハイオ州立大学にマンガ資料専門の研究図書館であるCartoon Research Library(1977設立)があり、日本のマンガ・関連図書が約10,000冊所蔵されている。当地を訪問し、調査を行った。
- 専門司書によるMANGA Cataloging Manualが作られており、日本のマンガに特有の出版事情や形態に関する解説や、同図書館で作成する書誌データの説明がある。同図書館では通常の書誌記述に加えて、カタロガーが作成した「サマリー」を入力している。また件名標目とは別に、マンガ特有のジャンル情報(「少年マンガ」「学園マンガ」など)も入力している。マンガを読み慣れた日本人には常識となっていることが米国人には理解しづらいため、明示的に入力するとのことである。
発表後、古典籍目録作成作業、目録業務運用、OCLC日本語書誌レコード、日米の業務感覚の違い、などについて活発な質疑応答があった。
- 参考:
- 当日のプレゼンファイル(PDF 約1.9Mbyte)
「ハーバード日記 : 司書が見たアメリカ」http://www.kulib.kyoto-u.ac.jp/modules/wordpress/
江上敏哲「長期・滞在型海外研修の実際:ハーバード大学イェンチン図書館実地研修」『大学図書館研究』84, 2008.12. pp.47-55
(記録文責:渡邊隆弘)