情報組織化研究グループ月例研究会報告(2009.3)
欧州における図書館・文書館・博物館連携の最新動向:
欧州デジタルプロジェクトを中心に
菅野育子(愛知淑徳大学)
- 日時:
- 2009年3月14日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪樟蔭女子大学小阪キャンパス
- 発表者 :
- 菅野育子氏 (愛知淑徳大学)
- テーマ :
- 欧州における図書館・文書館・博物館連携の最新動向:欧州デジタルプロジェクトを中心に
- 出席者:
- 石道尚子、井上美穂(大阪府立大学)、内田紘子(大阪府立大学)、大場利康(国立国会図書館関西館)、加藤昌也(インフォコム)、川崎秀子(佛教大学)、川原亜希世(近畿大学)、河村曜子(丸善)、久慈達也(神戸芸術工科大学)、古賀崇(京都大学附属図書館研究開発室)、故選義浩、佐藤毅彦(甲南女子大学)、佐藤毅彦(国立国会図書館関西館)、城下直之(エスオーファイリング研究所)、杉本節子(相愛大学)、末田真樹子(神戸大学図書館)、住広昭子(東京国立博物館)、高久彩(九州国立博物館)、高城雅恵(大阪大学図書館)、高橋晴子(大阪樟蔭女子大学)、田窪直規(近畿大学)、土出郁子(大阪大学図書館)、當山日出夫(立命館大学GCOE)、中村健(大阪市立大学図書館)、中村美奈子(お茶の水女子大学)、丹羽奈弥(京都精華大学)、浜田行弘(関西学院)、堀池博巳(摂津市管理公社)、前田正義(海上保安大学校)、松井純子(大阪芸術大学)、三須信幸(インフォコム)、村井正子(日本アスペクトコア)、山本泰則(国立民族学博物館)、八木敬子(相愛大学図書館)、吉川恵子、横谷弘美(大手前大学図書館)、吉田暁史(大手前大学)、吉間仁子(国立国会図書館関西館)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、菅野<40名>
- 共催:
- アートドキュメンテーション学会関西地区部会、情報知識学会関西部会
- 後援:
- 情報処理学会人文科学とコンピュータ研究会
発表者がMLA(博物館・図書館・文書館)連携に関して行った欧州デジタルプロジェクト調査(2009年2月26日〜3月4日)について、鮮度の高い発表をいただいた。
1.MLA連携の意義
- MLAはそれぞれ独自の伝統をもって資料を扱ってきたが、近年相互連携の重要性がクローズアップされてきた。特に、ワンクリックであらゆる資料を検索でき、その所在を知ることができる検索システムを協働して作成するための連携が重要視されている。少なくとも今回調査した欧州においては、Googleの脅威とそれへの対抗が背景にあると思われる。
- 情報共有だけでなくサービス拡大のための連携が重要である。資料への態度において、MLAにはそれぞれ特徴と強みがある。博物館では、唯一性をもった収蔵品に研究的態度で接し、来歴情報などを蓄積している。図書館は、基本的にコピーの存在する資料を扱うために、同定を可能にする標準化に熱心で、資料に関する情報(メタデータ)の提供には一日の長がある。文書館は、しばしば強調される保存機能だけでなく、歴史的意義を含めた資料の解釈にも強みがある。連携によって、それぞれの特徴を生かしていくことが重要である。
- デジタルプロジェクトという観点から見れば、デジタルコンテンツ作成、メタデータ作成、検索システム構築のそれぞれの側面において、MLA連携が考えられる。
- 今回のデジタルプロジェクト調査では、個別の技術的側面よりも、組織作りの側面を中心として現地調査を行った。
2.訪問先1:Europeanaプロジェクトオフィス
- Europeanaは、欧州の文化遺産をを統合的に提供するポータルシステムで、2008年に一般公開され、予想外のアクセス殺到で一時閉鎖・システム増強を余儀なくされるほどの注目を集めた。今回は、デンハーグ(オランダ)にあるプロジェクトオフィスを訪問した。
- 2005年にEC(欧州委員会)議長から出された「欧州の文化的・科学的資源をすべての人にアクセス可能に」という手紙が契機となり、同年9月に「i2010:Digital Libraries」プロジェクトが立ち上げられた。Libraryとあるが、第一には文化遺産、第二には科学情報を、広範に扱うものである。MLAにわたる文化遺産全般を扱うポータルとしてEuropeanaが構想され、2007年から試行版の運用がはじまり、その後本版化された。なお、文化遺産のデジタル化の重要性はLund原則(2001)で既に確認され、英・仏
- 伊を中心としてMINERVAプロジェクト、その後継のMICHAELプロジェクトが進められてきた。MICHAELプロジェクトはEuropeanaに参画し、データ提供を行っている。
- 試行版には、EDL(European Digital Library)Foundationから資金が提供されていた。現在はECとEU各国からの資金に拠っている。運営形態はPrivate Agencyで、20名という少人数の運営組織である。総括責任者の下に、マーケティング・広報・プロジェクト管理を担当するビジネス開発部門、相互運用性確保やサイト運用を行う技術部門、予算配分や会計を行う財務部門が置かれている。様々な専門家が集められ、担当者は総じて若い。今後は民間からの資金も一定程度見込み、ビジネスモデルの構築を重要視していると感じられた。
- Europeanaは基本的にアグリゲーションサービスであり、各国諸機関のコンテンツ構築に依存している。各機関からメタデータの提供を受けて統合検索システムを構築し、一次情報閲覧は各機関のシステムへのリンクとなっている。メタデータ収集にあたっては、ダブリンコアをベースに一定の独自拡張を行ったEuropeana Semantic Elementsというスキーマにマッピングしている。その際、プログラムチェックによる一定の質的コントロール(品質の低いデータはいったん返却するなど)が行われている。
- 現在は著作権処理を含めてコンテンツ構築はすべて各機関に依存しているが、今後はアクセスに必要な追加情報や著作権情報など、Europeana側で持つ情報の増強を構想している。
3.訪問先2:フランス文化省
- 国レベルのMLA連携の姿も調査する必要がある。まずフランス文化省の科学技術部門代表を訪問し、文化政策、デジタルプロジェクトについて調査した。フランスの文化政策の柱の一つは「文化の普及と民主化」であり、文化へのアクセスの機会均等をめざす手段として、デジタルプロジェクトが位置づけられている。Europeanaのほか、MICHAEL(フランスが代表国)、Culture.fr(文化省)などのプロジェクトも推進されている。
- フランス国立図書館(BnF)でもGallica2などの電子図書館事業を積極的に行っている。今回の調査ではBnFも訪問した。
4.MLA連携の契機としてのデジタルプロジェクト
- 統合検索をめざすデジタルプロジェクトは、MLA連携をいっそう推進する大きな契機となっている。今回の調査では、政策・組織・運営の側面を主に調査した。今後は、デジタル化の技術基準開発によるMLA連携への影響や、著作権処理などの側面も調査を行いたい。
発表後、アグリゲーションの可能性と限界、欧州と米国の違い、日本のMLA連携、メタデータの相互運用性、ビジネスモデルの可能性、など諸方面にわたって活発な質疑応答があった。
参考:Europeana http://www.europeana.eu/portal/
(記録文責:渡邊隆弘)