情報組織化研究グループ月例研究会報告(2009.4)
IFLA「国際目録原則」をめぐって
渡邊隆弘(帝塚山学院大学)
- 日時:
- 2009年4月18日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪市立浪速人権文化センター
- 発表者 :
- 渡邊隆弘氏 (帝塚山学院大学)
- テーマ :
- IFLA「国際目録原則」をめぐって
- 出席者:
- 石定泰典(神戸大学図書館)、井上雅美(システムズ・デザイン)、猪俣裕子、上村孝子(大阪大学図書館)、川崎秀子(佛教大学)、河手太士(大阪樟蔭女子大学)、河村曜子、故選義浩、佐藤毅彦(甲南女子大学)、末田真樹子(神戸大学図書館)、杉本節子(相愛大学)、高城雅恵(大阪大学図書館)、田窪直規(近畿大学)、田村俊明(丸善)、中井万知子(国立国会図書館関西館)、堀池博巳、松井純子(大阪芸術大学)、村井正子(日本アスペクトコア)、山野美贊子(帝塚山学院大学非常勤)、山本知子、横谷弘美(大手前大学図書館)、吉田暁史(大手前大学)、渡邊勲(羽衣国際大学)、和中幹雄、渡邊<25名>
2009年2月に完成・公表された「国際目録原則覚書(Statement of International Cataloguing Principles)」について、策定経過を踏まえた逐条的検討を中心に、発表された。
1.「国際目録原則」の策定
- 「パリ原則」(1961)を約半世紀ぶりに見直した新原則の策定は、目録法の歴史の上で重みのあることである。
- IFLAでは2003年から2007年まで、地域ごとに専門家会議IME ICCを開催して、「国際目録原則」草案の検討を行ってきた。その後2008年のWorld Wide Review(JLA目録委員会も意見を提出した)を経て、完成に至ったものである。
- 一部に不完全性もあるが、情報公開度は比較的高い。2003年12月版から完成版に至る12バージョンの草案のほか、会議報告や投票結果(修正案はその都度IME ICC参加者の投票に付された)もWWW上で公開されており、議論の経過がたどれる。
2.概要と構成
- 「序論」によれば、データの国際的共有と目録規則作成者への指針が「国際目録原則」の目的である。図書だけでなくあらゆる種類の資料へ、標目の選定と形式にとどまらず書誌・典拠データのあらゆる側面へ、の2点で「パリ原則」より適用範囲を拡張している。
- 目録法の伝統を踏まえた上で、FRBR(書誌レコードの機能要件)モデルを大幅に取り入れて作成された。
3.内容:逐条的議論
- 1章「適用範囲」は、当初案からほとんど変化のない章である。博物館・美術館など他のコミュニティへの適用に言及しているが、実効性はやや疑問である。
- 2章「一般原則」は、E. Svenoniusの著書における整理に基づいて、「表現性」「正確性」「有意性」「経済性」など、目録規則を作成する際の9原則を列挙している。もともとは「付録」扱いだったが、最終的に冒頭近くの位置に移された。9原則のうち「利用者の利便性」が別格の最優先事項とされている。
- 3章「実体、属性および関連」は、FRBRモデルに沿って、11個の「実体」を列挙し、「属性」「関連」にも言及している。
- 4章「目録の目的および機能」は、パリ原則で整理された目録の2つの機能(識別機能と集中機能)を引き継ぐものである。今回の原則では、「発見」「識別」「選択」「入手」「誘導」という5つのユーザタスク(「誘導」以外はFRBRで規定されたタスク)によって機能を整理している。「発見」は「単一の資料の発見」と「(条件を満たす)すべての資料の発見」から成り、従来の識別機能・集中機能を引き継いでいるが、集中機能の条件は拡大されている。
- 5章「書誌記述」は、書誌記述の基盤と内容について規定している。作成単位は「体現形」で、版を単位とするこれまでの考え方を継承している。
- 6章「アクセスポイント」は、最長の章であり、また策定過程で最も変化の激しかった章でもある。当初案では「アクセスポイント」「典拠レコード」の2章として設定され、その切り分けについて試行錯誤(条文の移動等)が何度か行われたが、最終的に1章にまとめることとなった。
- 6章の内容では、「統制形(controlled)」の語の意味(最終的には、典拠形と異形を含む意味)、言語・スクリプトの優先順位(オリジナル言語を優先するか、目録言語を優先するか)、個人名の形を決定する優先順位、等についてIME ICC等で議論があり、策定過程で修正が加えられている。また当初の草案にあった「標目」「参照」「統一タイトル」の語は、完成版では使われなくなった。「統一タイトル」は「著作および表現形に対する典拠形アクセスポイント」とされている。
- 7章「探索能力の基盤」は、目録はどのような探索・検索ができなくてはならないか、を扱っている。特に書誌・典拠レコードのそれぞれについて、「中核的(essential)アクセスポイント」「付加的(additional)アクセスポイント」を列挙した点が重要である。出版年や分類番号など一部のエレメントについて、策定過程でどちらに位置づけるかの議論があった。
- 「パリ原則」の大きな特徴であった著者基本記入制は、とられていない。しかし、作成者が2以上の場合に「最初に記名された作成者」のみを「中核的アクセスポイント」とするなど、その伝統を伺わせる部分もある。
4.おわりに
- 覚書文書の末尾にはIME ICC参加者の決議が付されており、5年を目安にレビューを行うとされている。
- 大まかな原則であり、RDA(AACR2の全面改訂)など目録規則そのものの動きと比べると目録情報への直接的な影響は少ないともいえるが、基本的な考え方の国際的合意として重要である。
(記録文責:渡邊隆弘)