情報組織化研究グループ月例研究会報告(2009.6)
RDA全体草案に見る目録の諸問題
古川肇(近畿大学・川村学園女子大学)
- 日時:
- 2009年6月27日(土) 14:00〜17:00
- 会場:
- 大阪市立浪速人権文化センター
- 発表者 :
- 古川肇氏 (近畿大学・川村学園女子大学)
- テーマ :
- RDA全体草案に見る目録の諸問題
- 出席者:
- 石定泰典(神戸大学図書館)、石田康博(名古屋大学図書館)、上村孝子(大阪大学図書館)、江上敏哲(国際日本文化研究センター)、川崎秀子(佛教大学)、河手太士(大阪樟蔭女子大学)、光斎重治(近畿大学)、塩見橘子、田窪直規(近畿大学)、田村俊明(丸善)、鳥谷和世(神戸大学図書館)、中井万知子(国立国会図書館関西館)、堀池博巳、松井純子(大阪芸術大学)、村井正子(日本アスペクトコア)、山野美贊子(帝塚山学院大学非常勤)、山本知子、横谷弘美(大手前大学図書館)、吉田暁史(大手前大学)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中幹雄(同志社大学)、他1名、古川<23名>
古川氏には、当グループにおいて2000年以降、AACR及びRDAに関する発表を4度お願いしている。この間、状況は電子資料への対応を主とする部分改訂(AACR2 2002年版)から、構成全体の組み換えに及ぶ全面改訂(当初は"AACR3"、その後"RDA")へと推移してきた。RDA刊行直前の今回は、全体草案の概要と、本改訂が目録の諸問題をどこまで解決しているのかという観点からの評価の2部に分けて述べられた。
前篇 全体草案の概要
- RDAの目的は、資料の発見(resource discovery)を支援する、データの形成に関する指針と指示を提供することにある。デジタル資料の組織化にも非デジタル資料の組織化にも対応する。
- 新しいデータベース構造(リレーショナル・データベースやオブジェクト指向データベースを指す)向けに構成されているが、それ以前のデータベース構造とも互換性をもつ。
- 基礎となる概念モデルは、FRBRとFRADである。(以上、第0章による)
- 必ず記録するコア・エレメントを定めた。
- 書誌レコードだけでなく典拠レコードをも対象とする規則である。
- リストを随所に掲げそれから選択して記録するようにした。
- 刊行形態を以下のように区分した。resource issued as a single unit、multipart monograph、serial、integrating resource。
- 粒度に関して、次のように「記述タイプ(type of description)」を区分した。全体記述、部分記述、階層的記述。
- 情報源の誤記・誤植は、従来以上に表示を尊重して記録する。
- 記述の基盤や情報源について記述タイプごとに規定した。後者については、1以上のページ・枚・シート・カードから成る資料(またはその画像)、動画資料、その他の資料に三分して規定した。
- 責任表示は数に関係なく記録する。ただし別法として、4以上の場合は最初を除いて省略する。
- 非刊行の資料は制作年(date of production)を記録する。
- メディア種別、キャリア種別、内容種別を規定した。
- 資料の量は、ユニット数とキャリアタイプを組み合わせて表す。ただし、地図・楽譜・静止画・テキスト・三次元資料については別に規定した。
- 著作を表現する優先アクセスポイントは、著作に責任を有する個人・家族・団体に対する優先アクセスポイントと、著作に対する優先タイトルを組み合わせる。
- 表現形を表現する優先アクセスポイントは、著作を表現する優先アクセスポイントに、表現形固有のエレメントを付加して構成する。
- 家族を表現する優先アクセスポイントについて独立の章を設けた。
- 著作と表現形・表現形と体現形・体現形と個別資料の各関連のほかに、著作と体現形の関連の記録も可能とした。
- 関連の表現手段・方式には、関連先の識別子(ISBNなど)、関連先の優先アクセスポイント、記述の合成などがある。さらに、資料と個人・家族・団体との関連、著作・表現形・体現形・個別資料の間の関連、および個人・家族・団体の間の関連については、付録として、関連識別子(relationship designator)の詳細なリストを設けた。
- 付録には、ほかに各種のマッピングが含まれている。
後篇 目録の諸問題
1. どの書誌レベルの記録をも作成できるか。
- 新たに粒度について規定し、全ての書誌レベルの記録が可能となるよう改訂したにもかかわらず、単行レベルの記録への偏向が残存している。 具体的にはシリーズ表示の規定(2.12)が一般化されていない。
- 参考-「「シリ-ズに関する事項」との名称を包括的なものに改める必要がある。「上位書誌レベルに関する事項」としてはどうか。」古川肇、志保田務「『日本目録規則1987年版改訂版』への意見と提案」整理技術研究 40: 5(1998.7)
2. どのような階層構造をも表現できるか。
- RDAもそれ以外の目録規則も、関連規定と例示は単純なイメージ(各レベル単一階層、降順(RDAの階層的記述)または昇順(AACR2 のIN分出)の一方のみ)に基づいていて、複雑な実態に十分対処できない。
- 上位の書誌レベルに関する情報を収める項目としてシリーズ表示(2.12)と関連(第27章及び付録J)が用意されているのに対して、下位の書誌レベルに関する情報を収める項目は関連(任意)のみであり、不均衡である(内容細目(contents list)は改訂中途で削除された)。
- 参考-「複数レベルの構成単位のうちのどれかを記述の本体とした場合、それ[以外]の構成単位をどの[ように]記録するのか、NCRにはその規定がない。」古川肇、志保田務「続『日本目録規則1987年版改訂版』への意見と提案(上)」整理技術研究 41: 15(1999.7)
3. 著作の構造の解明は十分か。
- 著作の集合(合集)の扱いについてはIFLAのWGやFRBROOの案があるが、まだ解明の途上にある。また、派生著作など著作相互の関連をとらえるためにはsuperworkもしくはbibliographic familyの概念が必要との意見もある。
- 参考-2004年4月17日の発表で、以下のように述べた件については、IFLAに目録委員会を通じて削除を申し入れた結果、実現した。「[国際目録原則案の]次の一文(3.1.2)は、現実追随であり「原則」になじまないのではないか。:経済的制約により、いくつかの図書館目録では著作の構成部分や著作中の個別著作に対応した書誌レコードを欠くことが認識されている。」
4. 刊行形態の区分は解決できたのか。
- 「継続資料(continuing resource)」の概念が放棄された。この概念は結局AACR2 2002年版に登用されただけで終わった(早くも2005年12月案に見られない)。今度の区分で問題ないか否か吟味が必要である。
5. RDAの構成上の難点
- オンライン版が出てみないと最終評価は下せないが、膨大なのに中間見出し(括り)が欠落しているため、印刷体としては把握しにくい。
- [第T部]と[第U部]の接合が不十分。具体的には6.27.1と19.2。団体を選択する規定(←AACR2 21.1B2)を含む後者は、第6章へ移すべきである。
- [第U部]と付録の接合が不十分。具体的には第25〜28章と付録J(本文より付録が詳細)。
- 章の区分をユーザータスクと対応させるのは無理がある(第2章「体現形と個別資料の識別」と識別、第3章「キャリアの記述」と選択、第6章「著作と表現形の識別」と識別、第7章「内容の記述」と選択)。
- 音楽作品・法律著作・宗教著作・公式通達に関する規定は、第6章末尾か付録へ集中すべきである。
6. その他の事項
- 第0章が平板かつ不十分である。たとえば、他コミュニティとの相互運用性や、RDAの範囲を書誌レコードから典拠レコードに広げたことなどに言及していない。
- 版表示について、AACR2 2002年版もRDAも、ISBD(ER)(1997)の詳細な関連規定を採用しなかった。版の識別に関する不可知論の立場を採るのか。書誌レコードの増大は著作や表現形による括りにより対処することにしたのか。
- 表現形主体の書誌レコード案は採用されなかった。なおFRBRの表現形の項が改訂された。
- 優先タイトルに冠する個人・家族・団体に対する優先アクセスポイント(6.27.1.1/1.8)に、固有の名称を与えるべきである。著作と結びついた個人・家族・団体>creator>[primary creator]と考えてみたが、18.3の規定と整合しない。
7. 属性の記録と記述は接合できるか。
- 両者は接合できるのか疑問をもっている。例えば情報源上の表記が誤謬や偽りとわかる場合、実体の属性としては正しい情報を格納すべきで、現行の記述における「転記の原則」とは相容れないのではないか。
- 責任表示はすべてが体現形の属性だろうか(演奏・演技者の表示は第7章に表現形のエレメントと位置付けられている)。
8. 結論−RDAの評価−
- 問題点や不備は多々あるものの、以下のような評価すべき点があり、全体としては、正しい方向性を含んでいる。粒度について規定したこと、全タイトルを典拠コントロールの対象としたこと、関連について規定したこと、注記を多くエレメント化したこと、継続性を確保したこと(creatorがmain entry を継承していること、体現形を書誌レコードの基盤としていること)。
- 2000年9月9日の発表で、「Haglerは(中略)「著作の定義を」、「著作典拠ファイルの形成を」、「全著作へのアクセスを」という3つの提案を行っている。」と紹介したが、これらはすべてRDAで実現したと見られる。
参考:丸山昭二郎「著者と、著作と、目録法をめぐって-著作典拠システムへの提言-」書誌索引展望 6: 1-4(1982.5)、岩下康夫「“著作単位"“書誌単位"と“書誌階層"」図書館界 38(3) (1986.9)、古川肇「目録の構造に関する試論」資料組織化研究 44 (2001.7)
- 参 考:
- 古川肇「未来の書誌レコードおよび典拠レコードに関する規則」『資料組織化研究-e』 57, 2009.9
古川肇「RDA全体草案とその前後」(『カレント・アウェアネス』299号) http://current.ndl.go.jp/ca1686
(記録文責:渡邊隆弘)