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情報組織化研究グループ月例研究会報告(2010.3)
Net.-basedな情報流通の今における情報の組織化の機能理解
石川徹也(東京大学史料編纂所特任教授;筑波大学名誉教授)
- 日時:
- 2010年3月13日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪市立浪速人権文化センター
- 発表者 :
- 石川徹也氏(東京大学史料編纂所特任教授;筑波大学名誉教授)
- テーマ :
- Net.-basedな情報流通の今における情報の組織化の機能理解
- 出席者:
- 上野芳重(大阪市立大学)、川崎秀子(佛教大学)、河手太士(大阪樟蔭女子大学)、川瀬綾子、川畑卓也(奈良県立図書情報館)、川原亜希世(近畿大学)、久保恭子、佐藤久美子(国立国会図書館)、佐藤毅彦(甲南女子大学)、塩見橘子、杉本節子(相愛大学)、高城雅恵(大阪大学)、田窪直規(近畿大学)、谷航、玉置さやか、鳥谷和世(神戸大学図書館)、平松晃一(名古屋大学)、堀池博巳、前田正義(海上保安大学校)、松井純子(大阪芸術大学)、松井宏、山野美贊子(帝塚山学院大学非常勤)、横谷弘美(大手前大学図書館)、吉野敬子(田辺三菱製薬)、渡邊雄一(佛教大学非常勤)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、石川<27名>
1.前提:「情報の組織化」目的理解
- 世の中には多種多様にして大量の情報源が存在している。一方、人間は情報要求を持っており、その集合体が一つの情報要求マーケットとなる。
- マーケットと情報源をつなぐために、情報を目的別に取捨選択・収集し、整理・保存し提供しなければならない。これを「情報の組織化」とする。
- 情報源が多種多様で大量であればあるほど、選択的収集技術や整理保存技術というものが発展しなければ、情報要求マーケットの要求に応えることができなくなる。
2.紙書籍を対象とする情報の組織化
- 「電子書籍」という言葉に対して、これまでの紙媒体での書籍を「紙書籍」とする。
- 今後は電子書籍の利用が隆盛期を迎える。
- 図書館の特性に基づく収集方針に従って人手により収集が行われ、目録データなどが人手により作成される。非常にコスト高である。これが、現在の紙書籍の組織化の特徴である。
- 普及期を迎える電子書籍に対する組織化はどのようにすればよいかが大きな悩みである。
3.電子書籍の普及期における図書館の役割
- 電子書籍の普及期においては、これから出版される書籍はデジタルコンテンツとして提供され、既刊本はデジタル化されて提供される。
- eBookやiPad、キンドルなどのユビキタス端末の普及により、電子書籍の利便性はますます向上する。
- 紙書籍を読みたい場合には、プリント・オンデマンド端末を利用することにより、これまでの紙書籍(刊本)よりも利便性が高い利用が可能となった。
- 刊本をデジタル化する技術や電子書籍に対するフルテキスト検索技術が確立されてきた。
- 出版社が絶版本に商品価値があることに気づき、long-tail意識がめばえ、絶版本などの過去の資産をもう一度商品化しようとする意識が出版社に出てきた。
- long-tail意識により刊本のデジタル化が促進され、さらに新たな本を出版する場合にも、紙で出版するよりもデジタルコンテンツとして提供されるということが急速に進むであろう。
- そうなったときに、従来の流通やプロバイダー、図書館はどのようなアイデンティティを確立し、どのような位置にいるべきであるかを考えることは大きな課題であると考える。
- 図書館における内包的な問題として、インターネット検索と蔵書検索の違いやMARCデータの限界、図書館利用の変化などがある。
- 蔵書検索システムは図書館が開いていなければ調べることは出来ないが、インターネット検索だと可能である。蔵書検索は情報の入手までに物理的な制約が大きく、利便性においてインターネット検索との差は大きい。
- MARC-DB検索は書名などの属性値データ検索や主題データ検索は可能であるが、情報やデータを検索することはできない。
- 大学生の図書館利用ニーズが、「蔵書の利用」から「静かな空間であるから良い」「空調がきいていて快適である」「遅くまで利用できる]「インターネットが利用できる」などと大きく変化している。
- 図書館は教育研究の場において、自己学習の場として無いと困る場所である。
- 現在、インターネットでの情報については、その利用者も相当緊張して情報を利用しなければならない状況であるので、大学のコミュニティセンターを形成することにより「上質な知の共有」が可能となる。大学図書館は、大学のコミュニセンターにおける中心的な役割を担うことが必要であると考える。
4.電子書籍を対象とする組織化
- 電子書籍を初めとするデジタルコンテンツを組織化することが今後は重要になってくる。
- 電子書籍に対する収集・解析・保存・提供の機能は、テキスト処理システムが行う。
- 収集方針に基づいてクローリングで自動的に収集され、書誌データなどは半自動で作成される。
- 検索結果は、テキストの内容に基づく処理を行いTF-IDFなどの数値を用いてランキング出力が可能となる。
- 電子書籍は情報利用の効率化に寄与できるので、ますます電子書籍へシフトすることになる。
5.情報の組織化のための研究課題
- 人間の情報要求に対して、現行の情報検索システムはほとんど対応できていない。
- 人間の情報検索要求は、「事項知要求」「理由知要求」「五感知要求」に大きく分けることができる。
- 「事項知要求」については、What,Who,Where,Whenの場合は、キーワードを入力すれば検索することができるが、Which,Why,Howの場合は高機能化が必要であるが対応が可能。
- 「理由知要求」は、状況判断が必要となり、状況判断を取り入れて情報を提供するということは、現時点においては実現できていないことから、システムでの実現も困難。
- 「五感知要求」のうち、聴覚情報と視覚情報については計算機システムの援用により対応できるようになったが、臭覚情報・触覚情報・味覚情報についてはまだ対応できていない。
- これまでの情報組織化は紙書籍を管理するために行ってきた。これからは電子書籍の時代になり内容を適切に処理することが可能となってきたので、有効な情報(知識)を提供することが情報の組織化ではないかと考える。
6.さいごに
- 情報要求は一つのマーケットであり、それをつなぐのが情報の組織化である。
- 情報の組織化は、紙の組織化から情報の組織化が現在行われている段階である。次のステップとしては知の組織化、知の発見組織化となる。
- 知の組織化や知の発見組織化については研究に着手されたばかりではあるが、われわれはそのような流れの中にいることを自覚し研究をすすめていくことが必要だ。
(記録文責・河手太士)