情報組織化研究グループ月例研究会報告(2010.6)
インターネットへ対応するための図書館・システム
:Aleph+Primoの導入について
入江伸(慶應義塾大学メディアセンター本部)
- 日時:
- 2010年6月19日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪市立市民交流センターなにわ
- 発表者 :
- 入江伸氏(慶應義塾大学メディアセンター本部)
- テーマ :
- インターネットへ対応するための図書館・システム:Aleph+Primoの導入について
- 出席者:
- 赤澤久弥(奈良教育大学図書館)、天野絵里子(京都大学)、石定泰典(神戸大学図書館)、石道尚子、伊豆田幸司(近畿大学)、磯野肇(奈良大学)、井上昌彦(関西学院大学)、上野芳重(大阪市立大学)、上山卓也(京都大学)、牛島裕(近畿大学)、江上敏哲(国際日本文化研究センター)、太田仁(奈良女子大学)、大友恒文(国立国会図書館関西館)、大西賢人(京都大学)、大場利康(国立国会図書館)、川崎秀子(仏教大学)、河手太士(静岡文化芸術大学図書館)、川畑卓也(奈良県立図書情報館)、久保山健(大阪大学)、五島敏芳(京都大学総合博物館)、近藤千佳(京都造形芸術大学)、酒見佳世(慶應大学メディアセンター本部)、佐藤毅彦(甲南女子大学)、塩野真弓(京都大学)、塩見橘子(立命館大学非常勤)、篠田麻美(国立国会図書館関西館)、杉本節子(相愛大学)、高城雅恵(大阪大学)、田窪直規(近畿大学)、田中俊洋(大阪府立中央図書館)、田中伸尚(ブレインテック)、谷航、谷本千栄(神戸市外国語大学)、玉置さやか(大手前大学メディアライブラリー)、辻本浩一(近畿大学)、土出郁子(大阪大学)、坪井伸樹(国立国会図書館関西館)、中村友美、西川真樹子(京都大学図書館)、野間口真裕(京都大学)、濱生快彦(関西大学図書館)、林豊(京都大学)、平松晃一(名古屋大学大学院)、堀池博巳(大阪芸術大学非常勤)、前川敦子(奈良先端科学技術大学院大学図書館)、前田信治(大阪大学図書館)、松井純子(大阪芸術大学)、光森奈美子、村井正子(日本アスペクトコア)、村上健治(大阪大学図書館)、村上幸二(奈良学園登美ヶ丘ライブラリー)、八木敬子、山野美贊子(帝塚山学院大学非常勤)、山中秀夫(天理大学)、山本知子、吉田暁史(大手前大学)、渡邉勲(羽衣国際大学)、渡邉英理子(京都大学)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、入江<60名>
慶應義塾大学図書館では今春のシステム更新でEx Libris社のAlephを導入し、「次世代OPAC」であるPrimoを稼働させている。情報環境の変化のなかで今回の海外パッケージシステム導入にいたった経緯と視点について、発表された。
1.電子時代における図書館の役割
- 紙資料を中心とする「モノ」の世界から「電子」の世界への移行の中で、図書館が存在できる基盤は何なのか、を考える必要がある。モノの世界にあっては、著作権上の制約、保管スペース(書庫)の運用、予算集約による共同利用等の面で図書館というシステムの存在価値が間違いなくあったが、生産者と消費者が直結しうる電子の世界ではこうしたことの意味は大きく異なる。図書館のデータ、サービスをすべて見直していく必要がある。
- 特に学術情報リソースについては、市場に流通しない種類の情報も含まれ、図書館が真剣に考える必要がある。
2.図書館における検索システムとメタデータ
- 図書館の世界の検索システムは、図書館員等がコストをかけて統制的に作成したデータを前提として、一定の条件に合致した抽出を正しく行うものである。対して今日のインターネットの世界の検索システムは、非定型の使えるデータを集めてソフトウェアで加工(例えばRDFによる表現)するところに核心がある。図書館方式と比べて大量のデータにも対応でき、単純な検索の上にランキング、ナビゲート等の機能を構築している。
- 両者のアプローチには大きな違いがあるが、その中間に位置するものにeコマースの世界で用いられている全文検索(エンタープライズサーチ)がある。慶應ではこれを用いた全文検索実験を行い、一定の成果を得た。
- メタデータについては、学内他組織との、いわゆるMLA連携の経験のなかで、自立分散環境での在り方、相互交換・相互運用へのマッピングの重要性などを感じてきた。
3.KOSMOSからKOSMOSVまで
- 慶應の図書館システムKOSMOSの初代システムは、1991年に稼働した。1998年にKOSMOS2に移行し、本年2010年のKOSMOS3に至る。
- 1998年のシステム更新では汎用機システムからクライアントサーバシステムへ移行したが、業務体制も全面的に見直した。初代KOSMOS時代は各地区業務をそのままにして集中システムに搭載していたが、KOSMOS2では集中処理体制に改めた。また、複雑で遅いシステムから、Simple, Speed, Standardの「3S」をモットーとするシステム設計を心がけた。システム自体は負荷を考慮した分散型で、分散処理によるデータの重複・不整合を運用上の制限によってカバーしており、そのような運用のためにも業務の集中管理が必須であった。
- このとき、NACSIS-CATから離脱(ILLは参加)して、国際的なデファクトスタンダードであるUSMARC(現・MARC21)フォーマットを採用し、RLG RLIN(OCLCに吸収)を用いた目録作成に切り替えた。
- 今回のKOSMOS3においては、業務・システム運用の効率化を引き続き追求するとともに、Googleやインターネットと融合する、デジタル世界にシフトしたシステムを目指している。資料費が電子リソースへの傾斜を強めている中で、「モノ」の管理コストを削減し「電子」側の運営コストを確保するのが目標である。
- 少なくとも現状においては、国内パッケージシステムの電子リソース管理機能は十分でない。これが海外システムを選択した最大の理由であり、KOSMOS2段階でMARC21フォーマットを採用していたことも決め手の一つとなった。結果的に次世代OPACの導入となったが、それは中心的な動機ではない。
- 職員による開発室のチームで日本語化に取り組んだ。カスタマイズについては、国内システムと比べると対応は厳しい。業務フローの変更、根気強い理由の説明、外付けシステムの可能性追求等をはかり、最後に妥協案を相互に模索できるかどうかが勝負である。
4.書誌データとOPACをめぐる問題
- グローバルな標準は、中身に問題を抱えているとしても、システム間の対話を可能にする道具として不可欠である。この点で、CAT-Pという独自方式をとるNACSIS-CATには閉塞性があるといわざるをえない。
- また、NACSIS-CATの世界では目録業務にかかるコストが分散し、効率的に用いられていないと感じる。慶應では目録業務の効率化を進める一方、LCSHの付与を独自に進めるなど、書誌データ作成には相応の注意を払ってきた。集約によってコストを削減し、一つ一つの書誌データはコストのかかった品質のものを作るべきである。
- 書誌データにおいて、記述に注意が偏り、コード情報が軽視されている。デジタル環境下での検索では分類・件名等も含めて各種コード情報が大変重要であり、もっと重視されるべきである。
- Alephにもともと装備されているOPACは機能が貧弱なため、Aleph導入を決めた時点でOPACをPrimoとすることは必然であった。
- 今回は、FRBR化表示は結局採用していない。FRBRは書誌データ作成におけるレコード構造を示すものというよりは、MARCデータを元に利用者に提示していく段階の問題と考えている。
- 書誌レコードに、ISBN、LC番号、OCLC番号等が入ってないと、国際的に運用交換していけない。国立国会図書館からJAPAN/MARCデータのWorldCat投入が表明されているが、これは大きな出来事である。
5.今後の図書館と図書館システム
- モノから電子へと資料は移行しているが、業務がそれに見合っていない。電子を正しく扱う体制を組むべきである。慶應では今回、はっきりとモノと電子の業務を分ける体制をとった。
- ハイブリッド図書館とは、モノと電子の併存を続けることではない。できる限り電子に移行していく役割を図書館が担うことである。図書館は、学術情報リソースをインターネット上に展開していく役割を担わなければ、次の時代を生きていけない。
発表後、書誌データフォーマット、システムのカスタマイズ、業務再編、ILL業務等について活発な質疑があった。
(記録文責・渡邊隆弘)