情報組織化研究グループ月例研究会報告(2011.7)
20世紀前半の米国におけるアーカイブズと図書館の関係
目録・分類法を中心に
坂口貴弘(京都大学大学文書館)
- 日時:
- 2011年7月16日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪市立弁天町市民学習センター
- 発表者 :
- 坂口貴弘氏 (京都大学大学文書館)
- テーマ :
- 20世紀前半の米国におけるアーカイブズと図書館の関係:目録・分類法を中心に
- 共催:
- 目録法研究会(科学研究費基盤研究究(C) 課題番号22500223 研究代表者:渡邊隆弘)
- 出席者:
- :上野芳重(大阪市立大学)、尾松謙一(奈良県立大学図書館)、蒲生英博(名古屋大学)、川崎秀子(佛教大学)、河手太士(静岡文化芸術大学図書館情報センター)、川畑卓也(奈良県立図書情報館)、佐藤久美子(国立国会図書館関西館)、田村俊明(紀伊国屋書店)、堀池博巳、松井純子(大阪芸術大学)、松林正己(中部大学)、村井正子(日本アスペクトコア)、吉間仁子(国立国会図書館関西館)、和中幹雄(大阪学院大学)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、坂口<16名>
1.はじめに:研究の動機と対象
- 今日においてアーカイブズ理論は一定の確立をみているが、普遍の真理というわけではない。歴史的に規定され構築されたものとしてこれを再解釈する歴史的研究が必要である。また、管理者的視点に立つ制度・政治・経済等を扱うだけでなく、実務者的視点に立った技術史研究が必要である。具体的には目録・分類・選別等の歴史であり、図書館界の情報組織化技法との関係も視野にいれなければならない。
- 米国のアーカイブズの発展史において「決定的な10年」とも言われる1930年代を対象として、あまり行われていない組織化技術史を考察する。主な素材は、米国図書館協会(ALA)年次大会でのArchives and Libraries委員会会議録(1937-40)である。
2.背景:20世紀前半の米国アーカイブズ界
- 背景として、米国歴史協会など歴史研究者による文書館運動があったこと、ビジネス界で科学的事務管理が指向され文書管理・記録管理が注目されたこと、そして図書館界の影響がある。
- 図書館界が与えた影響としては、議会図書館(LC)や公共図書館においてmanuscripts(個人・家・中小団体を主な出所とする書簡・日記等の文書)が注目されたこと、文書管理用バーティカル・ファイリングシステムが生み出されたこと、そしてpublic documents(公的組織・団体による刊行物)が重視されるようになったこと、が挙げられる。
- 1934年、歴史研究者の長期にわたる運動の結果、国立公文書館(NARA)が設立された。分類部長はLCから、目録部長はニューヨーク州立図書館から来るなど、図書館員の参画もあった。
- 1935〜43年、ニューディール政策の一環として全国的な歴史資料調査が行われた。大量人員による大量整理が行われ、大量の文書の存在が明らかになった。
- 1936年には米国アーキビスト協会(SAA)が設立され、また同年にALAではArchives and Libraries委員会がPublic Documents委員会から独立した。また、1940年にはオランダの古典的アーカイブズ編成・記述マニュアル(Dutch Manual)が翻訳出版され、欧州のアーカイブズ原則の本格的受容がはじまった。
3.情報組織化をめぐる論点
- 20世紀前半においては、2つの伝統が併存していた。一つは、独立直後に成立したHistorical Manuscriptsの伝統であり、希少な歴史的資料を主対象とし、1点ごとの緻密な目録を指向すること、欧州の理論にやや懐疑的であること、等の特徴を持つ。もう一つは、20世紀初頭に生まれたPublic Archivesの伝統であり、膨大な近現代公文書を主対象とし、集合的目録を指向すること、欧州の理論の適用に積極的なこと、等の特徴を持つ。なお、いわゆる「出所原則」は、19世紀フランスにおける(物理的)主題分類の失敗を教訓として確立された、欧州由来の理論である。
- 1930年代の言説をたどると、組織化の単位として、関連する文書の集合である「シリーズ」が重視されるようになった。対象資料が大量に及ぶなかで、個々の文書を基本単位に置くことは不可能との認識が背後にある。NARAでは「1回分の受入資料(accession)」「1部署(division)」「シリーズ(series)」「個別資料(document)」との階層構造をとらえ、目録作成は大きい単位から順に行い、どこまで作るかは条件により異なるとした。
- 組織化のプロセスについて、NARAは「資料の受入に目録作成がついていけるよう作業を計画する」としている。具体的には、機関名の標目を管理する「典拠カード」、機関の概要を記した「沿革カード」、そして「受入別」「部署別」「シリーズ」「個別文書」の各単位の目録カードが作られた。シリーズ単位の目録が理想的ではあるが全資料への適用は無理であり、個別文書単位の目録が作られることは稀であった。
- 通信文の場合、NARAでは資料の出所(=受信者の所属組織)を基本記入標目とし、資料の著者(=発信者の所属組織)を副出記入標目とした。著者による集中よりも、機関を単位とした集中が優先されている。
- 分類体系に関する考え方は図書館のそれとは大きく異なっている。NARAでは「予め定められた主題の論理的体系」ではなく「調査による客観的事実の確定」を分類ととらえた。具体的には、所蔵機関・過去の所蔵機関・記録作成機関・記録の機能類型・年代範囲・地理範囲等を確定することである。資料類型名については、標準化の提案もなされている。
4.おわりに
- その後の展開として、NARAの組織改編(機能別から資料別へ)、ALAのArchives and Libraries委員会の活動停止、等が起こった。
- 1930年代の組織化手法は、現在のアーカイブズ実務にも一定の影響を与えている。例えば組織化の単位(階層構造)は「フォンド>シリーズ>アイテム」という現在の捉え方に、記述要素や典拠コントロールはISAD(G)やISAAR(CPF)といった国際標準に、それぞれ影響を見てとれる。
- 米国のアーカイブズ界は、図書館界・歴史学界に対して、独立と依存の間で揺れている。アーカイブズの独自性を強調する(古い慣習を図書館界の影響に帰する傾向もある)独立志向がある一方で、アーキビスト教育課程の半数近くが図書館情報学(または情報学)専攻に設置されるなど依存的な実態もある。
- 今後は、一次資料(アーカイブズ)の調査、図書館界側の視点を明らかにすること、等を課題としたい。
発表終了後、19世紀からの流れの継続をとらえることの重要性などについて、質疑があった。
(記録文責:渡邊隆弘)