情報組織化研究グループ月例研究会報告(2011.9)
国立国会図書館の典拠データ提供の新展開
大柴忠彦(国立国会図書館)
- 日時:
- 2011年9月24日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- キャンパスポート大阪
- 発表者 :
- 大柴忠彦氏 (国立国会図書館)
- テーマ :
- 国立国会図書館の典拠データ提供の新展開
- 共催:
- 目録法研究会(科学研究費基盤研究(C) 課題番号22500223 研究代表者:渡邊隆弘)
- 出席者:
- 池須安希(大阪音楽大学)、上山卓也(京都大学図書館)、江上敏哲(国際日本文化研究センター)、沖田克夫(佛教大学)、尾松謙一(奈良県立大学図書館)、川崎秀子(佛教大学)、川瀬綾子、河手太士(静岡文化芸術大学図書館)、川畑卓也(奈良県立図書情報館)、久保恭子(元神戸松蔭女子学院大)、佐藤久美子(国立国会図書館関西館)、塩見橘子、杉本節子(相愛大学)、田窪直規(近畿大学)、田中伸尚(ブレインテック)、中村恵信(大阪府立大学羽曳野図書センター)、中村友美、成迫敬子(大阪音楽大学)、堀池博巳、松井純子(大阪芸術大学)、松林正己(中部大学)、水野翔彦(国立国会図書館関西館)、村上健治(滋賀医科大学)、山中秀夫(天理大学)、山本知子、和中幹雄(大阪学院大学)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、大柴<28名>
2011年7月に提供を開始した「Web NDL Authorities(開発版)」(国立国会図書館典拠データ検索・提供サービス)を中心として、国立国会図書館(NDL)の典拠データ提供の新展開と今後の方向性について発表された。
1.はじめに:NDLの方針
- 書誌コントロールに関わるNDLの最近の方針文書としては、まず「国立国会図書館の書誌データの作成・提供の方針(2008)」がある。向こう5年間の方向性として書誌データの「開放性」「有効性」を高めることなどを述べており、典拠データ提供の展開についてもこうした考え方が基礎となっている。
- その後2009年に、「国立国会図書館の書誌サービスの新展開」を公表した。ここでは、インターネットの普及による利用者の広範化、ニーズの多様化に対応して、「NDLでこそ可能なサービス」を展開し情報探索機能を向上させることを目指している。その重要な要素の一つが典拠データの活用であり、有効活用のためのシステム開発や海外への提供、フォーマットの見直しなど具体的な方向性を示している。
2.Web NDL Authorities(開発版)
- こうした方針のもとに、セマンティックウェブ志向の典拠データ公開サービスとして、Web NDL Authorities(開発版)をリリースした。SKOS形式による件名標目データを提供したWeb NDLSH(2010.6)に、RDF形式による名称典拠(個人名・団体名・家族名・統一タイトル・地名)を加え、すべてのNDL典拠データ(計100万件強)をLinked Open Dataとして公開するものである。
- Web上のアプリケーション等からシステム連携による典拠データ利用を可能とするとともに、国立国会図書館サーチ(NDLサーチ)と連携して付加価値のある検索を可能とすることを目指している。
- 個々の典拠レコードにURIを付与し、RDFによる記述を行っている。インターネット世界での汎用性を重視し、プロパティには、Dublin Core、SKOS、FOAF、RDAなど多くの標準を組み合わせて使用している。
- 語や分類記号による検索が可能である。画面表示に加えて、RDF/XML形式等によるダウンロード機能やSPARQLによる外部システム連携機能等も備えている。また、典拠データには、LCCNを用いたLCSHへのリンクや、動的問い合わせによるウィキペディアへのリンクも含んでいる。
- 開発にあたっては、データの完全性・信頼性をどこまで重んじるか、逆に言えば多少の問題を残しても公開性を重視するか、という点で議論があった。また生年に代表される個人情報の扱いも問題であり、基準・細則の整備を行った。
- 現在の「開発版」ではデータ更新を行っていない(2011年4月時点の固定データ)。NDL全体のシステム更新が行われる2012年1月前後に本番化し、データ自動更新機能や新設件名のRSS配信機能を提供する予定である。
3.JAPAN/MARC(A)の現状と今後
- JAPAN/MARC(A)は書誌データと同じくUNIMARCベースのフォーマットで、著者名典拠(個人名・団体名)データを収録し頒布している。書誌データはまだしも、典拠データは事実上国立情報学研究所(NACSIS-CAT)以外には使われていない状態である。
- 2012年1月より、書誌データと同様にMARC21フォーマットを採用する。合わせて、家族名、統一タイトル、件名標目としてのみ使用する個人名・団体名など、収録範囲を拡大する。
- OCLCのWorldCat(既に書誌データは搭載)やVIAF(バーチャル国際典拠ファイル)など、海外展開も進める予定である。
4.今後の課題と将来展望(発表者の個人的見解)
- NDLのこれまでの運用では、統一タイトル及び家族名を件名標目としてのみ付与している。FRBRとの関係等から考えて、今後はタイトル標目としての統一タイトルのコントロール、著者標目としての家族名のコントロールが必要と思われる。
- 米国議会図書館(LC)では「ジャンル・形式標目」の運用を開始しており、NDLでも検討課題となりうる。
- 児童書や実用書などの「簡略整理」資料や洋資料など、標目付与をこれまで行ってこなかった資料群があり、対象資料の拡大が求められる。
- 米国ではNACO/SACOプログラムにより、LCと他の多くの図書館との共同作業によって典拠データが豊かになっている。わが国でもこうした仕組みによる国内「汎用化」が求められる。
- 今後の維持・拡大のためには、標目や典拠コントロールの存在意義が問い直され、図書館界の内外で十分理解されることが重要である。
発表後、「家族」の扱い、音楽資料・古典資料の統一タイトルの扱い、民間MARC利用と典拠コントロール、ネットワーク情報資源の扱い、典拠コントロールの有用性などについて、質疑があった。
(記録文責:渡邊隆弘)
参考資料