情報組織化研究グループ月例研究会報告(2011.10)
識別と記述のフレームワーク
宮澤彰(国立情報学研究所・総研大)
- 日時:
- 2011年10月22日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪市立難波市民学習センター
- 発表者 :
- 宮澤彰氏 (国立情報学研究所・総研大)
- テーマ :
- 識別と記述のフレームワーク
- 共催:
- 目録法研究会(科学研究費基盤研究(C) 課題番号22500223 研究代表者:渡邊隆弘)
- 出席者:
- 池須安希(大阪音楽大学)、磯野肇(奈良大学)、上野芳重(大阪市立大学)、上山卓也(京都大学図書館)、太田仁(奈良女子大学)、尾松謙一(奈良県立大学図書館)、河手太士(静岡文化芸術大学図書館)、川畑卓也(奈良県立図書情報館)、忽那一代(京都大学)、古賀崇(京都大学附属図書館)、故選義浩、塩野真弓(京都大学)、塩見橘子、杉本節子(相愛大学)、高城雅恵(京都大学)、田窪直規(近畿大学)、槻本正行(神戸松蔭女子学院大学)、中村友美、成迫敬子(大阪音楽大学)、濱生快彦(関西大学図書館)、堀池博巳、米谷優子(園田学園女子大学)、前川敦子(奈良先端科学技術大学院大学図書館)、松井純子(大阪芸術大学)、松林正己(中部大学)、松本聖(豊中市立岡町図書館)、三浦秀喜(豊田工業高専)、村井正子(日本アスペクトコア)、村上健治(滋賀医科大学)、山田美雪、山中秀夫(天理大学)、山野美贊子、山本一治(一橋大学)、山本知子、和中幹雄(大阪学院大学)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、宮澤<37名>
「書誌コントロールを超えて」(『情報の科学と技術』60(9), 2010.9)で提唱した書誌コントロールの新たな枠組みについて、さらに敷衍する内容の発表であった。
1.書誌コントロールの新しい形
- 書誌コントロールの究極の目的は、人類の知的生産物すべてに対して探索・検索を可能とすることである。知的生産物の範囲はすべての表現形式、すべてのメディアに及ぶ。
- また、メディアの範囲だけでなく、著作・表現形といった抽象的なクラスを含めたモデル化も必要である。主として人間による識別のための「記述」と、一次資料の情報に何らかの処理を加えて作成されコロケーション機能を提供する「アクセスポイント」という区分は、今後も意味を持つ。
- 図書館等のコミュニティがすべてを担う従来型の書誌コントロール方式では上記の目的は達成できない。体現形や著作の記述を提供する「登録機関」と、著作・表現形の識別や実体間の関連づけ等を行う「書誌コントロール機関」による枠組みを考える。
- IT化の進んだ現代では、社会的に流通するもののメタデータはほぼ必ずどこかで作られており、業界団体で組織化する場合もある。また、知的所有権の確立により、著作権処理も組織的に行われるようになってきている。問題は、メタデータをいかに社会的に利用可能とするかという点にある。様々な情報を機械可読形式で公刊するセマンティックウェブ的な方法を用いることができよう。
- 体現形や著作については、業界団体等における整備の進展に伴って、それらの団体が登録機関として、業務に差し支えのない範囲でメタデータを公開することを想定する。一方書誌コントロール機関は、それらのメタデータをもとに実体間の関連づけ、伝統的用語でいえば典拠作業及び主題目録作業を行う。
2.「識別」と知的生産物の分野:新たな方式のための理論的考察
- 「識別(identification)」には、記述対象の識別、関係の識別、属性値の識別という各レベルがある。関係・属性の識別タスクにおいては、例えば新たな著者名典拠レコードが作成され続けられるように、関係づけられる実体や属性値が閉じたものではないことが、難しさを増す。また、識別タスクでは理論的には、すべての属性値の一致をもって「同一」の判断が行えるわけであるが、全属性の列挙は実際には不可能であり、だれかが行った識別に多数が従うという社会的な解決しかとり得ない。
- 知的生産物の分野については、形態、流通形態、業界などの区分原理が考えられるが、それほど簡単なことではなく、今後カテゴリーの確立が必要である。図書館資料の枠にとらわれず広い範囲で考えること、データ作成側だけでなく利用側にも焦点をあてること、が必要であろう。
3.新しい書誌コントロールの展望
- 体現形登録機関の候補と考えられるような機関の例として,JPO(日本出版インフラセンター)と,英国に本拠を置くEDItEURを紹介する。
- JPOは主に出版流通業界の各団体によって設立され、出版情報・近刊情報の収集配信、ISBNの管理、出版者・書店等のコード管理等を行っている。近刊情報の書誌データ項目は図書館目録の書誌データとはかなり異なるが、体現形に対するメタデータ基盤になりうる。
- EDItEURは、国連の電子データ交換標準EDIFACTを出版流通の世界で実装することを目的として設立され、国際ISBN機関等の識別子に関わる活動、ONIXなど出版流通における標準化に関わる活動を行っている。
- 一方書誌コントロール機関では、体現形より上位の概念部分の識別と関係づけを行う。著作・表現形の区切りを決め体現形を関係づけること、主題概念等を識別し著作等を関係づけること、エージェント(個人・団体)を識別し体現形・著作等を関係づけることである。
- これらの上位概念について、書誌コントロール機関は識別子を管理し、メタデータ公開サービスを行う。この際、求められるコロケーションは分野ごとに異なるので、現行のFRBRのみではなく、分野に応じた組織化モデルが求められる。また、エージェントについては、分野をこえた作成・維持が必要である。
- 上位概念レベルの情報は、国単位で完結するものではなく、国際的協力も不可欠であろう。
4.今後の検討課題
- 登録機関については、体現形単位の識別を出版流通業界の登録機関に完全に委ねられるか(ISBNの問題ある運用例などを考えると)、著作権管理団体が本当に著作登録機関としての役を果たせるようになるか、登録機関による識別子付与とメタデータ公開という方式が社会的に受け入れられるか、などの課題がある。
- 書誌コントロール機関については、分野の分け方と各分野に応じたモデルの検討、収集保存機関をもたない分野の問題、などが課題である。
終了後、資料の物理的側面と内容的側面の整理、本来の目的を異にするメタデータを連結することの問題、分野ごとの組織化モデルのありよう、等について質疑があった。
参考資料