情報組織化研究グループ月例研究会報告(2011.11)
KOSMOS IIIにおける目録システムの設計:
AlephをKS IIIとして稼働させるために
古賀理恵子(慶應義塾大学メディアセンター本部)
- 日時:
- 2011年11月19日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪市立弁天町市民学習センター
- 発表者 :
- 古賀理恵子氏(慶應義塾大学メディアセンター本部)
- テーマ :
- KOSMOS IIIにおける目録システムの設計:AlephをKS IIIとして稼働させるために
- 共催:
- 目録法研究会(科学研究費基盤研究(C) 課題番号22500223 研究代表者:渡邊隆弘)
- 出席者:
- 磯野肇(奈良大学)、上野芳重(大阪市立大学)、太田仁(奈良女子大学)、大西賢人(京都大学)、尾松謙一(奈良県立大学図書館)、梶谷春佳(京都大学数理解析研究所)、川崎秀子(佛教大学)、古賀崇(京都大学附属図書館)、塩野真弓(京都大学)、篠田麻美(国立国会図書館)、高畑悦子(追手門学院大学)、田窪直規(近畿大学)、中村恵信(大阪府立大学羽曳野図書センター)、堀池博巳、松井純子(大阪芸術大学)、松林正己(中部大学)、村上健治(滋賀医科大学)、村上幸二(奈良学園小学校)、山本知子、和中幹雄(大阪学院大学)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、古賀、他1名<23名>
慶應義塾大では2010年春に、Ex Libris社の統合図書館システムAlephを導入した新図書館システム「KOSMOS V」(以下、KS3)を稼働させた。今回は、目録部分のシステム・業務設計について発表された。
1.システム設計のコンセプト
- 慶應義塾大学の図書館業務は、閲覧・選書・予算管理等を各キャンパスのメディアセンターで行い、目録・Eリソース管理等をメディアセンター本部で集中処理している。システム更新にあたっては、2008年11月に専従5名・兼務6名の「次期システムプロジェクト室」を立ち上げた。
- プロジェクト室ではAlephのシステム分析と、そのもとでの業務設計を行った。一定の業務変更は避けられないが、現場との温度差を生じないよう、稼働1年前と半年前にメディアセンタースタッフ全員が集合する説明会を開くなど、変更の内容と必然性を丁寧に説明し学内合意を得るよう心がけた。
- 目録業務設計にあたっては、国際的に流通できるデータの作成を、効率化をはかりつつ実現することをコンセプトとした。単価の低下等もあってカレントの資料受入数は必ずしも減っておらず、増大するEリソースを含めた管理コスト全体を膨らませないためには、目録業務の効率化は必須の要件であった。従来の方法にこだわりすぎず、不要な手間をできる限り削減するよう努めた。
2.Aleph導入に伴う変更点・非変更点
- 従来のKOSMOS II(KS2)では、発注受入システムと目録システムが別個に動いていた。データ流し込み作業等が複雑であり、また無理なく動かすために集中処理体制をとらざるを得なかった。KS3では発注から目録まで一つの書誌レコードを一貫して用いる形となった。効率化が図られ、選書・発注を各キャンパスで行える、予算管理がリアルタイムで行える、といった利点も生まれた。
- 書誌レコード作成単位を変更した。KS2では「著作責任単位」をとっていた。この方式は、セットものやシリーズが一括記入となることが多く、流用書誌レコードの修正やデータ更新、除籍時の処理などに相当の手間がかかっていた。KS3では流用元のデータに合わせることとし、和書は物理単位、洋書はOCLCの単位を基本とした。一括記入はデジタルデータと相性がよくなく、物理単位ごとのコード情報が失われるなどの問題がある。
- KS2は「所蔵ありきのシステム」であり、所蔵データの種類によって資料種別や取扱区分が規定され、サービスに影響を与える側面があった。KS3では「書誌ありきのシステム」となり、サービスに関わる情報との切り分けが整理された。なお、「書誌ありき」のため、未遡及資料については「ダミー書誌」を作成することとなった。
- コード情報の整理を行った。KS2の所蔵データが持つ各種のコードをAlephにマッピングするにあたっては、ローカル項目を増やすことはできないため、多くの注意・工夫が必要であった。
- UNICODE対応となり、特殊言語目録を総合目録に統合した。
- かつて「KOSMOS I」では典拠ファイルを保持していたが、当時のシステム的制約から維持できず、KS2ではインデックス(統一標目形)のコントロールだけを行い典拠ファイルは保持していなかった。KS3では典拠ファイルを復活させた。
- LC等の書誌レコードでは、レギュラーフィールド(タイトルなら245)はアルファベット表記としリンキングフィールド(880)に漢字表記形等を格納するが、レギュラーフィールドで日本語を使うKS2の方式は変えなかった。具体的には、本来の表記形を収めた245をまず作り、さらに$9がW(分かち書き)・K(カナ)・R(ローマ字)の各245を繰り返す。また、AlephはNグラム方式のインデックスを用いているが、検索精度の観点から形態素単位の検索も併せて維持することとした。
- Alephの機能を用いた効率化に努めた。媒体・業務目的・言語等によるテンプレートの作成、流用時に中国語書誌レコードの形式変換(漢字表記形を245とするなど)等のFix_doc.(レコード自動調整のマクロ機能)の設定、LCSHの細目設定等における選択用リスト作成などである。
3.Alephを補完する外付けシステム
- 外付けで加えた機能として、日本語処理のためのHappinessゲートウェイがある。辞書メンテナンスの必要等からあえてAlephに組み込まず、外付けとした。本ゲートウェイは、日本語書誌レコードのWKR($9)付与、日本人名典拠ファイルの効率的作成等の機能を備えている。
- AlephではZ39.50経由による外部書誌データベースへの接続が可能である。従来から利用可能だったLC、OCLCに加え、NII、中国国家図書館、延世大学にZ39.50の口を開けてもらった。また、発注段階では各キャンパスで目録ライン外のスタッフが書誌作成を行うことになるため、TOOLi、Amazon, Book Web Pro等からの書誌も流用可能にするためのゲートウェイも外付けで設けた。
- その他、請求記号等の所蔵データ管理、継続タイトル管理なども外付けで作成し、業務効率化を図った。
4.おわりに
- データ同士の関係性に配慮すること、効率性に配慮して過度に凝らないこと、機能によっては捨てることも考えること、に注意が必要である。一つの書誌レコードが一貫して用いられることから、各業務時にも全体フローへの意識が求められる。また、システムのマイナーチェンジ(年4回)への対応に苦慮するような変更は問題が大きい。
- 移行時には一時的に処理冊数が落ち込んだが回復は早く、カレントの資料は順調に流れている。未遡及資料、要改修事項、典拠データ整備などが課題である。ただし、遡及については、当分は既存データ整備を先行させる方針である。
- Aleph OPACは紙媒体のみが対象のため、Eリソースも守備範囲とするPrimoを全面に出している。近くPrimoは、論文タイトルの検索やGoogleブックスへのリンク等の機能拡張が行われる予定である。
- これからの目録データ(メタデータ)は全文データ(紙・電子)取得への足がかりになるものとしても位置づけられる。書誌記述の細かい点に凝るよりも、インターネット上での検索やフィルタに必要なコード情報を落とさないことなど、注意点をややシフトさせるべきではないか。利用者に有用な情報を提供するという自覚が必要である。
参考資料