情報組織化研究グループ月例研究会報告(2012.3)
目録はどうなる
目録作成利用環境の構造転換
上田修一(慶應義塾大学)
- 日時:
- 2012年3月24日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- キャンパスポート大阪
- 発表者 :
- 上田修一氏 (慶應義塾大学)
- テーマ :
- 目録はどうなる:目録作成利用環境の構造転換
- 共催:
- 目録法研究会(科学研究費基盤研究(C) 課題番号22500223 研究代表者:渡邊隆弘)
- 出席者:
- 池須安希(大阪音楽大学)、井上如、井原英恵(神戸大学)、井村邦博(シーエムエス)、上田洋(ATR-Promotions)、江上敏哲(国際日本文化研究センター)、江良友子(岐阜市立図書館)、太田仁(奈良女子大学)、大西賢人(京都大学)、大向一輝(国立情報学研究所)、奥田倫子(国立国会図書館)、尾松謙一(奈良県立大学)、川崎秀子(佛教大学)、川瀬綾子、川畑卓也(奈良県立図書情報館)、久保恭子(シャロンの花イエス・キリスト教会)、古賀崇(京都大学)、佐藤毅彦(甲南女子大学)、篠田麻美(国立国会図書館)、志保田務(桃山学院大学)、杉本節子(相愛大学)、高橋菜奈子(国立情報学研究所)、高橋晴子(大阪樟蔭女子大学)、田窪直規(近畿大学)、玉置さやか、田村俊明(紀伊國屋書店)、槻本正行(神戸松蔭女子学院大学)、長瀬広和、中村恵信(大阪府立大学)、中村健(大阪市立大学)、灘井雅人(園田学園女子大学)、成迫敬子(大阪音楽大学)、林豊(国立国会図書館関西館)、福山樹里(国立国会図書館)、堀池博巳、益本禎朗(神戸大学)、松井純子(大阪芸術大学)、松山巌(玉川大学)、宮崎幹子(奈良国立博物館)、宮沢厚雄、村井正子(日本アスペクトコア)、森石みどり(大阪大学)、八木敬子、山田美雪、山野美贊子、吉川直樹(京都府)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、渡辺斉志(国立国会図書館関西館)、和中幹雄(大阪学院大学)、上田<50名>
1.目録提供の現在
- ウェブOPACの普及によって目録は、かつてのカード目録時代と比較すれば、桁違いに頻繁に利用されるものとなった。インターネット予約が広く受け入れられていること等を見ても、目録に習熟した利用者は確実に増加している。
- そうであれば、目録は誰にでもわかりやすいほうがよい。しかし、NDL-OPAC、NDLサーチ、CiNii Books、ディスカバリサービスなどの最近の潮流は、むしろ目録をわかりにくくしている側面があるのではないか。
- 様々な情報源の一括検索は、もちろん一定の利便性を持っているが、本だけを探したいときに手間が増え、また所蔵とのリンクという目録の機能を曖昧にし、わかりにくさを生んでいるのではないか。各図書館がそれぞれ「ディスカバリ」を提供する必要があるだろうか。
2.目録作成の現在
- 公共図書館ではTRC作成の目録のシェアが8割に達し、大学図書館では大部分でNACSIS-CATが利用され、どちらにおいても目録作成作業は外部化(委託)もしくは非常勤職員によって担われている現状がある。
- そうした中で2010年以降、「書誌データの一元化」の動きが進められてきた。具体的には国立国会図書館(NDL)が「公共的書誌情報基盤」を整備し、書誌データを迅速に作成して無償提供するというものである。
- NDLでは納本後の迅速な書誌データ作成に努力しているが、納本の仕組みに起因する問題もあり、十分な状態とはいえない。一方TRCでは、本や雑誌の発売日前に現物を入手してデータ作成を行っており、品質管理の徹底なども目を見張るものがある。あくまで「一元化」を追求すべきなのか、やや疑問がある。
- NACSIS-CATは、「資源共有」理念と「分担目録作業」の合理性の共通理解を基盤として、長らく運用されてきたが、ILL利用の低落傾向、参加図書館間の格差の増大、目録作業の外部化の進行等により、曲がり角の状態に来ている。
- NPO法人「大学図書館支援機構」を2007年に設立し、大学図書館職員研修事業や大学図書館業務支援事業等を行っている。研修事業の一環として「大学図書館業務実務能力検定試験」を実施している。目録作成の質の向上と担当者のスキルの認定を目的としてきたが、ILL等を扱う「情報サービス−文献提供」も新たに開始する予定である。
3.なぜ、FRBRやRDAに馴染めないのか
- FRBR(書誌レコードの機能要件)やRDA(Resource Description and Access)などの近年の目録法の潮流は、真に正しい方向性なのか、疑問を持っている。
- メディアの変化への対応という視点からみれば、その区分けの検討が不十分であるし、全てのメディアに対応しようとするあまり抽象度が高まり解釈が定まらないものになってしまっている。また、キャリアとコンテンツは別という考え方はメディア論ではとらないし、実態にもそぐわない。
- 探し方の変化への対応という視点からみれば、主題探索と既知文献検索のバランスを一考の必要がある。過去様々な言説がなされてきたが、目録では既知文献検索のニーズが大きいのではないか。また、大多数の日常的ニーズがグーグルで満たされている現在、そのシンプルさに目録が対抗できるのかという問題もある。
- FRBRは研究成果であるが、未完のようにみえる。実体設定についても利用者タスクの取扱いについても他の解釈もとりうるものであり、完成されたものとして基盤に据えるのはいかがなものか。また、実体関連分析はRDBを用いたシステム設計を前提とした分析手法で、目録のモデル化に適切かどうか疑問である。
- 国際目録原則覚書については、「一般原則」に「表現性」「有意性」など理解しにくいものが混じっている。
- これだけ目録利用が増加し、目録の理解者も増えているのに、目録をわざわざ難解で閉鎖的な方向へ変えようというのは理解しにくい。
発表後、キャリアとコンテンツの区別、書誌データ一元化、NACSIS-CATの今後、目録の機能と対象等について、質疑応答があった。
参考.発表者による最近の目録関係研究
配布資料