情報組織化研究グループ月例研究会報告(2012.7)
アーカイブズの典拠レコード標準ISAAR(CPF)とRDAとの関係
寺澤正直(国立公文書館)
- 日時:
- 2012年7月21日(土) 14:30〜17:00
- 会場:
- キャンパスポート大阪(大学コンソーシアム大阪)
- 発表者 :
- 寺澤正直氏(国立公文書館)
- テーマ :
- アーカイブズの典拠レコード標準ISAAR(CPF)とRDAとの関係
- 共催:
- 目録法研究会(科学研究費基盤研究(C) 課題番号22500223 研究代表者:渡邊隆弘)
- 出席者:
- 井原英恵(神戸大学)、尾松謙一(奈良県立大学図書館)、川崎秀子(佛教大学)、川瀬綾子、研谷紀夫(関西大学)、古賀崇(天理大学)、塩野真弓(京都大学)、田窪直規(近畿大学)、谷合佳代子(エル・ライブラリー)、田村俊明(紀伊國屋書店)、千本沢子(エル・ライブラリー)、中村友美、成迫敬子(大阪音楽大学)、堀池博巳、水野翔彦(国立国会図書館関西館)、村上幸二(奈良学園小学校)、山本知子、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中幹雄(大阪学院大学)、寺澤<20名>
図書館界で新たに開発された目録規則RDA(Resource Description and Access)の典拠関連部分と、アーカイブズ界で策定された国際的な典拠レコード標準ISAAR(CPF)(International Standard Archival Authority Record for Corporate bodies, Persons and Families)との比較を中心とした発表であった。
1.はじめに
- 本研究では、アーカイブズと図書館との次の段階の連携を展望するため、典拠レコードに着目してRDAとISAAR(CPF)の比較を行う。またアーカイブズ界では、標準はあるものの、日本国内では典拠ファイルの実装は必ずしも進んでおらず、その進展に資するねらいもある。
- RDAはFRBR(書誌レコードの機能要件)・FRAD(典拠データの機能要件)モデルに沿って、情報資源の責任主体となる「グループ2の実体」として、従来からあった「個人」「団体」に「家族」も加え、典拠データ部分の規則化をはかっている。また、規則全般として、図書館だけでなく、アーカイブズや博物館などの世界でも適用できるものを志向している。
2.国立公文書館等における文書管理
- 国立公文書館で扱っている資料は、「公文書」と「古書・古文書」に大別される。公文書とは省庁等の機関から移管された非現用文書(特定歴史公文書)を指し、一般にはファイル等の「簿冊」形態をなしている。
- 簿冊は複数の「件名/細目」(文書)からなる。また、検索しやすくするため、移管元機関等ごとに簿冊をグルーピングした「資料群」体系による整理を行っている。ウェブ上で文書の検索を行う場合も、資料群の階層構造をたどるインターフェースを設けている。また書誌データの表示においても、資料群から件名にいたる階層構造が識別・把握に大きな役割を果たしている。
- 現用文書は各機関で「行政文書の管理方策に関するガイドライン」に沿ったデータ管理・公開が行われているが、ひとたび非現用文書となると、公文書管理法によって国立公文書館等に目録作成の義務が課され、同法施行令でその項目も定められている。
- 「国立公文書館デジタルアーカイブ推進要綱」に沿って、目録の連携に取り組んでいる。全国の文書館等を対象としたシステム標準仕様書の作成や、外部機関等を含めた「横断検索」システムの提供、NDLサーチとの連携、等である。NDLサーチとの連携では、ダブリン・コア形式でデータを受け渡す際の情報脱落等、課題も残されている。
3.アーカイブズ界の目録標準
- アーカイブズ記述(書誌記述)においては、国際文書館評議会(ICA)によるISAD(G)が国際標準となっている。資料群から簿冊、件名にいたる階層構造を基本としている。
- ISAAR(CPF)もICAによって策定された典拠レコードの規格で、アーカイブズ記述におけるアクセスポイントの作成と利用を制御し、団体・個人・家族の情報を識別することを目的としている。典拠レコードは、IDENTITY、DESCRIPTION、RELATIONSHIPS、CONTROLの各エリアと、リソースとの関連によって構成される。
4.RDAとISAAR(CPF)の関係
- RDAとアーカイブズ記述との関係に関する研究は、日本ではもちろん、北米でも極めて少ない。Nimer(2010)は、RDAとアーカイブズとの関係を考察し、ISADで規定された階層構造的記述にFRBRモデルをそのまま持ち込むと混乱するとして、制限されたFRBRの適用を主張している。またWhittaker(2007)は米国アーカイブズ界の標準的記述規則であるDACSとRDAの関係を考察し、DACSはRDAの展開を暗示する部分を含むが、RDAの起草者の意図にもかかわらず文化遺産コミュニティの融合はまだまだはかられていないとしている。
- 本研究では、RDAの9〜11章(グループ2の実体の属性)、19〜22章(グループ1とグループ2の関連)、30〜32章(グループ2相互の関連)に規定された項目(2階層まで)を対象に、ISAAR(CPF)の項目とのマッピングを行い、対応関係を分析した。比較にあたっては、RDAでは各項目のScopeを、ISAARでは各項目のPurposeを判断材料とした。
- 個人・家族・団体の属性では、いずれにおいてもRDAにはISAARにはない項目が一定数見られる。ただし、従来の目録規則になかった家族では個人・団体に比べISAARにはない項目が少ない。一方、RDAに存在しないISAARの項目も若干ある。
- 関連の部分においては、ISAARに存在しないRDAの項目は特にないが、関連の種類(関係の性質)の扱いが両者で異なるのでマッピングには一定のルールが必要である。一方、RDAに存在しないISAARの項目として、関係の日付(関係の継続期間)等がある。
- マッピングによって対応がとれている項目はデータ共有の可能性が高い。そうでない項目は両コミュニティの独自性を示すものであるが、お互いのコミュニティにその必要性等の課題を提起しているともいえる。
- 今回は規則レベルの比較であるが、今後は典拠データレベルでの検討も行いたい。ただし、現在、典拠ファイルを作成している日本のアーカイブズ機関はないため、アーカイブズについては書誌情報に内在する典拠情報を抽出する調査が必要である。
発表に対して、国立公文書館におけるデータの扱い、典拠レコードの役割、FRBRモデルとアーカイブズ資料、両規則のマッピングの問題点など、多岐にわたる質疑応答があった。
- 参考(RDAとアーカイブに関する先行研究):
- Nimer, Cory. "RDA and Archives". Journal of Archival Organization 8, 2010.
Whittaker, Beth M. "DACS & RDA: Insights and Questions from the New Archival Descriptive Standard" Library Resources & Technical Services 51, 2007.
(記録文責 渡邊隆弘)