情報組織化研究グループ月例研究会報告(2013.7)

米国図書館界の目録業務調査:RDA導入状況を中心に

塩野真弓(京都大学附属図書館)


日時:
2013年7月27日(土) 14:30〜17:00
会場:
キャンパスポート大阪(大学コンソーシアム大阪)
発表者 :
塩野真弓氏(京都大学附属図書館)
テーマ :
米国図書館界の目録業務調査:RDA導入状況を中心に
出席者:
石田康博(名古屋大学)、稲葉洋子、井原英恵(神戸大学)、江上敏哲(国際日本文化研究センター)、大塚栄一(樹村房)、大西賢人(京都大学)、奥友香子(京都大学)、蟹瀬智弘(IAAL)、川崎秀子(佛教大学)、川瀬綾子、河手太士(静岡文化芸術大学図書館)、坂本登代子、高野真理子(IAAL)、田窪直規(近畿大学)、田辺浩介(物質・材料研究機構)、田村俊明(紀伊國屋書店)、中島湖穂(福井大学)、中村健(大阪市立大学)、中村友美、中村恵信(神戸松蔭女子学院大学)、成迫敬子(大阪音楽大学)、日吉宏美(神戸大学)、福島見恵(京都大学)、堀池博巳、前川敦子(神戸大学図書館)、松井純子(大阪芸術大学)、松原晴子(京都工芸繊維大学)、松本尚子、村上遥(東京外国語大学附属図書館)、山上朋宏(京都大学)、吉田暁史、横谷弘美(大手前大学)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中幹雄(大阪学院大学)、塩野<35名>

 2013年3月31日から米国議会図書館を始めとする複数の図書館で、新たな目録規則RDA(Resource Description and Access)が導入された。その導入の経緯とそれにまつわる研修体制の構築、非ラテン語(特にCJK)資料への導入の可能性等について調査するため、北米の4機関を訪問した。期間は2013年1月14日〜18日で、訪問先は米国議会図書館、オハイオ州立大学、OCLC、コロンビア大学である。

1.RDA導入への経緯

 2008年11月にRDA全体の草案が公開された。その後、2010年6月から1年間かけて、国立3館(LC、NLM、NAL)を含む国内外の28館が参加するテストが実施された。テスト終了後、国立3館はRDAの導入を決定し、2013年3月31日より全面的にRDAに移行することになった。

2.米国議会図書館

 LCはJSC(Joint Steering Committee for Development of RDA)のメンバーであり、RDA維持・改定の中核的役割を果たしている。LISTSERVやWiki、Google Docsといったツールを活用し、広範囲に散らばる委員が迅速に意思決定を行っている。毎年11月に行われるカンファレンスでの議題はスプレッドシートで共有され、ここでの決定に基づいてSecretaryが草案をアップし、各委員が意見表明を行う。本文の改訂はオンラインで提供されているRDA Toolkitに反映される。仔細な変更については、指定の期日までに投票を行い、2ヶ月に1回の改定にのせる。さらに議論を深める必要性が確認されたものはこのプロセスからはずれる。
 LCでは収書・目録部門の下に10のDivisionがあり、各々4〜20名のスタッフがいる。職名はLibrarian、Cataloger、Technicianに分かれており、Technicianは"para-professional"とみなされる。当日はAsian and Middle Eastern Divisionで実際の画面操作を見ながら話を伺った。MARC21環境下ではAACR2からRDAに移行しても大きな変化はないということであった。RDA適用のために新設された、資料種別に相当する33Xフィールドを自動で挿入するマクロを活用するなどの工夫がされていた。なお、調査訪問後に発表されたLCのマニュアル"Copy Cataloging Using RDA"(2013.5)によれば、LC内の運用として、コピーカタロギングのうち、英語以外で記述されたレコードや簡易なAACR2レコードについてはRDAの研修を終えたカタロガーがRDAにコンバートするとのことである。
 RDAトレーニングは基本的に全カタロガーが受講する。約4週間、延べ36時間にわたるプログラムが用意されている。遠隔地にいるカタロガーはアーカイブされたWebinar(Web+seminar=オンラインで受講できる講習会)を用いてトレーニングを受ける。先に研修を修了したスタッフは授業の講師を担当する。また、研修終了後に実際にRDAを用いて作成した書誌のレビューも行う。各段階における目標などが具体的に設定されており、非常にシステマティックに行われている。書誌データの記述についてはONIXからの自動変換プログラムで自動化が進む一方、典拠データの作成や件名の付与などは人間の知識をもって行う必要があり、両者の作業の切り分けが必要とのことであった。また、RIMMF(RDA in Many Metadata Formats)と呼ばれるRDAのトレーニングツールが開発されており、RDAを理解するために非常に役立っている。

3.OCLC

 2013年3月30日までは、RDAでの新規書誌登録はできるが、RDA以外の目録規則を用いたマスターレコードに対して、RDAでの書き換えは許可されていなかった。2013年3月31日以降はRDAを用いたマスターレコードの書き換えが可能になったが、参加館に対してRDAへの移行を強制することはせず、引き続きRDA以外の目録規則を使用することも可能である。ただし、英語を用いたレコードの典拠はRDA準拠とする。GMD(一般資料表示)は3年間維持するが、それ以降は削除する予定である。
 WorldCatの品質管理はQuality control(QC)というセクションで6人のスタッフが担当している。参加館からの連絡を受けてQCのスタッフが修正に対応する一方、参加館による書誌修正も頻繁に行われている。書誌の修正にはcredit(対価)が与えられ、品質向上の動機付けになっている。また、バッチ処理で自動的に重複レコードの統合も行っている。
 Program for Cooperative Cataloging(PCC)は、LCを中心に行われている共同目録プログラムである。BIBCO(図書書誌)、CONSER(雑誌書誌)、NACO(著者名典拠)、SACO(件名)に分かれている。RDAの適用細則をLCと共同で作成している。メンバーに対してRDAへの移行期限を切ってはいないが、最終的には移行するように勧めている。
 OCLCでは機関内に目録スタッフを保持し、他機関からの委託業務を請け負っている。ここでの目録業務は30以上の言語に対応し、DVDやCDなど様々な資料形態に対応可能である。WorldCatは「MARC-8」という文字コード体系を採用しているが、Unicodeに比べて文字種が少ない。例えば、「説」という字を含む日本語資料の書誌データを作成する際、この字がMARC-8にないため、代わりに中国語の「說」という字を使うことになる。WorldCatでは別途検索用の文字変換テーブルを用意しているため、検索窓に「説」と入れても「說」で記述されたレコードがヒットする。しかしこのテーブルを使用するかどうかはオプションであるため、各機関のOPACでOCLC由来の書誌データを検索する際に、同じ検索結果が期待できるとは限らない。

4.コロンビア大学

 コロンビア大学にはメインライブラリーであるバトラー図書館と、法学や医学など主題ごとの図書館がある。今回訪問したのはバトラー図書館と東アジア資料を専門に扱うC.V.スター図書館である。なお、コロンビア大学図書館は、2010年に米国で行われたRDAテストの参加館である。 バトラー図書館の目録業務はルーティン部門と非ルーティン部門で分かれており、非ルーティン部門が雑誌・楽譜・ロシア語・貴重書など特殊資料を担当している。人員はProfessional Cataloger 7人と、Assistant 7人である。
 RDAへの対応については、バトラー図書館は大学全体を取りまとめる形でテストに参加し、テスト終了後そのままRDAを使い続けた。C.V.スター図書館では、中国語資料はRDAテストに参加し、日本語資料は一部のみ参加、韓国語資料は参加しなかった。日本語資料はテスト後に一旦AACR2での目録作業に戻したが、コロンビア大学と整理業務の統合を進めているコーネル大学が2011年11月にRDAを導入したこともあり、RDAを適用するようになった。
 C.V.スター図書館で日本語資料の目録を担当している森本英之氏に、RDAの適用について話を伺った(以下、インタビュー当時の状況)。OCLCにAACR2のフルレベルの書誌があればそれを使うが、それ以外はRDAで作成している。最初のうちは作成するのに時間がかかり、AACR2との混乱もある。CJKに特有の問題はない。RDAは内容がどんどん変わっていくので、必ず規則自体を参照しなければ正しいレコードは作れない。日本語の入力をする際、MS-IMEでは時間がかかるため、流用入力できる書誌があるのがありがたい。TRCからの流用が多く、古い資料はNDLを流用することもある。NACSIS-CATは雑誌書誌を参照する際などに使用する。
 カタロガー向けの研修には、WebinarなどLCが作成した教材を主として使用している。また、パブリックサービスのライブラリアンに対してRDAによる書誌の違いを説明する簡単な研修を行っている。

5.オハイオ州立大学

 オハイオ州立大学にはマンガ図書館(Billy Ireland Cartoon Library and Museum)があり、日本のマンガも多数所蔵(レコード数約18,000点)されている。このマンガ図書館は現在別の建物への移転が予定されており、移転先の建物は改築工事中である(2013年9月開館予定)。また、マンガ図書館の蔵書の一部を中央図書館であるトンプソン図書館に移し、貸し出し可能にするプロジェクトが進んでいるとのことであった。
 目録業務ではNDLからWorldCatに提供されている書誌データが役立っており、また典拠データについても、NDLがVIAF(Virtual International Authority File)に参加したことで、OCLC Connexionを通してNDLの典拠データを使用することができ、非常に有益であるとのことであった。

6.まとめ

 米国ではRDAの研修や目録業務のマニュアル化、知識の共有に大変な労力をかけている。RDAの導入はMARC環境下ではさほど効果が高くないが、書誌フレームの刷新後を見据えた取り組みが始まっている。CJK資料へのRDAの適用は、最適かどうかはともかく可能のようである。日本での導入を考えた場合、NDLとNIIの協力体制が必要と考えられる。また、日本版PCCについても、実現を検討すべきではないかと思う。

(記録文責:田村俊明 紀伊國屋書店)

参考:
京都大学国際交流推進機構. “図書系職員海外調査研修 | 京都大学国際交流推進機構”平成24年度 国際交流推進機構基盤強化経費に基づく教職員等の海外派遣事業実施報告書
http://www.opir.kyoto-u.ac.jp/w-opir/wp-content/uploads/2012/03/h24_1_tosho.pdf
塩野真弓「RDA導入に向けた米国図書館の現状について―米国図書館訪問記―」『NDL書誌情報ニュースレター』2013年1号(通号24号)
http://www.ndl.go.jp/jp/library/data/bib_newsletter/2013_1/article_02.html