情報組織化研究グループ月例研究会報告(2013.11)

図書館分類法におけるファセット概念の展開

緑川信之(筑波大学)


日時:
2013年11月23日(土) 14:30〜17:00
会場:
大阪市立弁天町市民学習センター
発表者 :
緑川信之氏(筑波大学)
テーマ :
図書館分類法におけるファセット概念の展開
出席者:
尾松謙一(奈良県立大学附属図書館)、川崎秀子、田窪直規(近畿大学)、中井万知子(立正大学)、堀池博巳、松井純子(大阪芸術大学)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中幹雄(大阪学院大学)、緑川<9名>

はじめに

 図書館分類法の重要概念である「ファセット」について、2つの研究成果が発表された。(1)ファセット概念の源流―ランガナータン以前にファセット概念は存在していたのかどうか。(2)ランガナータンにおけるファセット概念の展開―ランガナータン自身はファセットその他の関連概念をどのように捉え、展開していったのか。これらを、当事者たちの著作を経年的に分析し、明らかにした。発表の詳細は、次の論文にまとめられている。

1.ファセット概念の源流

 ファセット概念の形成期(1870年代後半〜1950年頃まで)に作成された主要な分類法(DDC,EC,UDC,CC,BC)をCCから逆に遡り、多義的に使われるファセット概念の源流とその意義を探った。

1.1 Colon Classification (CC)

 ランガナータン(Ranganathan)は、著書Funda-metals(1944)で初めてファセット(facet)という語を使用し、CC第3版(1950)に導入して「ある区分特性に基づく区分肢の総体」と定義した。また、メインクラスごとにファセット式を提示し、主題を記号の組合せで表現する手法を明確にした。だが、CC第1版(1933)ではファセットという語ではなく「区分特性(characteristic)」という語が使用され、ファセット式も示されていないが、例示に従って第3版と同様の記号の合成を行うことから、ファセット概念はCC第1版ですでに存在していたといえる。
 ランガナータンは、既存の分類法とCCとの相違を「異なる原基表(standard unit schedules:ファセットのこと)の番号を指定された順列組合せで結合することによって、考え得るすべてのトピックに対する分類番号を構築できる」(1933)と述べた。その結果、1)助記性の向上、2)複合主題に対応した詳細な区分が可能、という2つの利点を得た。だが1)は、原基表(ファセット)の組合せによらずとも補助表やDCの「〜と同様に区分せよ(divide like 〜)」という指示でも同等の効果があること。2)は、原基表の組合せゆえに可能というよりもCCが独立要素から成る記号法であり、コロンの数だけ詳細に展開できるため、とランガナータンは考えていた。

1.2 記号が独立要素から成る分類法

 UDC(第1版1905-07)の策定者オトレ(Otlet)がUDCの構想を述べた1895-96年の論文、およびBC(試作版1935,完成版1940-53)の策定者ブリス(Bliss)の1910年の論文とBCにおいて、CCの2つの利点やファセット概念の存在を確認した。
 オトレは、分類記号について「異なる要素からなり、それぞれの要素の意味が並置されて複合的な観念を表現する」「記号がすべてまたは一部の分類番号に直接結合できれば[従来の分類法の]問題は完全に解決される」と述べ、さらに「分類のあらゆる部分に存在するいくつかの基本的観念がある」とした。
 ブリスは、BCの「体系的補助表」を1910年の論文では「助記表(mnemonics)」と呼んだ。加えて、体系的補助表の記号の適用順序は任意に選択・合成できるしくみであり、記号は独立した要素と捉えられる。また「多くの主題に類似する共通の項目は体系全体で繰り返され適用できるであろう」と述べた。
 これらのことから、CCの2つの利点やファセット概念がUDCとBCにも存在していたといえる。

1.3 記号が単一要素から成る分類法

 ここではデューイ(Dewey)のDDC(第1版1876,第2版1885,以下略)、カッター(Cutter)のEC(1891-93)において、CCの第一の利点やファセット概念が見られることを確認した。
 DDC第1版では補助表はまだなく、第2版から補助表(独立した表ではない)による合成が導入された。「〜と同様に区分」の名称も第2版から明示された。しかし第1版でも簡易な合成手法が見られ、「〜と同様に区分」(デューイはこれを「助記性を与えるのに有効」と説明している)も、名称はないものの同様の手法が示されている。ただし、DDCの記号法は単一要素から成るため、CCの第二の利点である「独立要素から成る記号法による複合主題への対応」は満たしていない。また補助表の各項目、表中の見出し・中間見出し(第2版から表示)は、ファセット概念といえるものである。
 ECは、7種類の表のうち第3表以降に、補助表や「〜と同様に区分」による合成手法が用いられているが、記号法は単一要素から成っている。

1.4 考察

 分類法の望ましい性質として指摘される「複合主題への対応」(CCの第二の利点)の実現に必要な手段は、「独立要素から成る記号法」であった。しかしCCは、ファセット概念の導入とファセット式による合成という特徴も備えている。そのため両者が同等とみなされ、ともに複合主題への対応を実現する手段とみなされてしまったのではないか。
 また、「助記性の向上」(CCの第一の利点)の実現に必要な手段は「ファセットの組合せ」と「補助表等による合成」である。CCはどちらも備えているが、両者の意味は同等ではない。現在は図書館分類法における「分析合成型分類法」と「ファセット化分類法」の区別は曖昧だが、表示方法(合成表示)と構造(多次元構造)の問題は区別されるべき。

2.ランガナータンにおけるファセット概念の展開

 ランガナータンは1)ファセット概念、2)ファセットと基本カテゴリーの関係、3)ファセット化分類法と分析合成型分類法の関係、をどのように考えていたのか。自身の著作に基づき検討した。

2.1 第1期:ファセットおよびファセット式の概念の確立(1933-45)

 CC第1版では「区分特性」と呼ばれていたが、事実上のファセット概念は存在していた。CC第2版(1939)では区分特性の組合せ方法を示した。さらに、自身の著作Fundamentals(1944)でファセットという語を初めて使用し、区分特性の組合せ方法を「区分特性の式」と呼んだ。Elements(1945)では区分特性の式を「ファセット式」と呼び変え、CC第3版で初めてファセット(式)を明示して使用した。
 上記1.4で、CCは詳細な主題区分を行うために「ファセットの組合せ」「独立要素から成る記号法」を採用したが、そのことにより本来同等でないものが同等とみなされてしまった、と指摘した。しかし、ランガナータン自身は「連結記号の導入により、各ファセットに自律性が与えられる」(1944)と述べ、ファセットと自律性(独立要素から成る記号法)とは別の概念と認識していた。また、DDCにもファセットがあることを認めていた。

2.2 第2期:基本カテゴリーの考えの変遷(1949-52)

 ランガナータンは、第1期末のFundamentals(1944)において5つの基本カテゴリー(Time,Space,Energy,Matter,Personality)の存在を示した。メインクラスごとに異なる様々なファセットもすべて5つの基本カテゴリーに整理できる、とも述べた。ここでは、基本カテゴリーは分類作業者がファセット分析を行う際の手引きと位置づけられていた。
 第2期のSelf-perpetuating(1949)では「異なる主題のファセットは異なる体現(manifestations)であるが、基本カテゴリーを通じてすべて関連させられる」との考えを述べた。が、翌年のCoding(1950)では「すべてのファセットは、5つの基本要素のどれか1つの体現」であると述べ、ファセットの前に基本カテゴリーが先にあると捉えていた。
 当時、基本カテゴリーはまだファセット式に使われていないが、Philosophy(1951)では選択ファセットが導入され、連結記号としてドットが設定された。
 さらに同年のBibliographic Organization(1951)では基本カテゴリーの役割が変更され、詳細で複合的な主題への対応のため多数のファセットをそこから体現させるための源、と捉えなおされた。

2.3 第3期:ファセット化分類法と分析合成型分類法の関係の明確化(1957-69)

 ランガナータンは、Prolegomena第1版(1937)において、合成ができる分類法を「分析合成型分類法」と呼んだ。Self-perpetuating(1949)ではLCCやDDCを「列挙型(enumerateive)」、CCを「非列挙型」または「合成型」と呼んで比較した。Coding(1950)では「分析合成型分類法」という語を初めて用い、既存の分類法を「列挙型:DDC」「列挙型と分析合成型のハイブリッド型:UDC」「分析合成型:CC」の3種類に分けた。さらにCRG主催のドーキング(Dorking)会議(1957)で、ランガナータンは「分析合成型分類法」を「ファセット分析から記号の合成までの過程を可能にする分類法」と述べた。
 一方ヴィッカリー(Vickery)は、「合成型分類法」(1950)、「分析合成型分類法」(1953)、「ファセット化分類法」(1955)と呼称を変え、分析合成型分類法とファセット化分類法を同義とみなしていた。
 ランガナータンは1965年のエルシノア(Elsinore)会議で「公準と原理に導かれたファセット化分類法だけが分析合成型分類法」であり、「ファセットに関する無限の受容力を提供できる」ものと述べた。
 さらにProlegomena第3版(1967)では、1)列挙型分類法:LCCなど、2)ほぼ列挙型分類法:DDC,SC、3)ほぼファセット化分類法:UDC,BC、4)硬直化したファセット化分類法:CC第1版〜第3版、5)自由なファセット化分類法:CC第4版以降、の5種類に分け、それぞれの特徴を説明した。しかも、「いかなるファセット化分類法もそれが自由なファセット化でなければ分析合成型ではない」とした。
 Preview(1969)ではこれをさらに手直しし、4)完全だが硬直化したファセット化分類法:CC第1版〜第3版、5)ほぼ自由なファセット化分類法:CC第4版〜第6版、6)自由なファセット化分類法:CC第7版とした。合わせて「分類表がファセット化という性質をもつことは、それが分析合成型になることを意味する」と述べた。つまり、ファセット化分類法と分析合成型分類法は、定義は異なるが結果的にほぼ同じものを指していると考えられる。
 このようにランガナータン自身も揺れており、現在のテキストブックは両者を同義に扱っているのが現実である。

(記録文責:川崎秀子 佛教大学非常勤講師)