情報組織化研究グループ月例研究会報告(2015.4)

『日本十進分類法新訂10版』の改訂、そしてこれから

小林康隆(聖徳大学)


日時:
2015年4月25日(土) 14:30〜17:00
会場:
弁天町ORC200生涯学習センター
発表者 :
小林康隆氏(聖徳大学)
テーマ :
『日本十進分類法新訂10版』の改訂、そしてこれから
共催:
書誌コントロール研究会(科学研究費基盤研究(C) 課題番号25330391 研究代表者:和中幹雄)
出席者:
石井莉乃、石田康博(名古屋大学)、稲葉洋子、大塚栄一(樹村房)、岡田大輔(明石工業高等専門学校)、奥田正義、尾松謙一(奈良県立大学附属図書館)、甲斐基晃、蟹瀬智弘(IAAL)、川崎秀子、川瀬綾子、河手太士(静岡文化芸術大学図書館)、故選義浩、佐藤久美子(国立国会図書館)、佐藤毅彦(甲南女子大学)、塩野真弓(京都大学)、塩見橘子、柴田正美、志保田務(桃山学院大学)、杉本節子、高階時子(武庫川女子大学)、田窪直規(近畿大学)、西原千尋(豊中市立図書館)、野田純(城北中学校)、日吉宏美(神戸大学)、藤倉恵一(文教大学)、堀池博巳、前川和子、松井純子(大阪芸術大学)、松川隆弘(大阪商業大学)、松山巌(玉川大学)、山田美雪(兵庫県立大学)、山中秀夫(天理大学)、山本宗由(愛知県立芸術大学)、吉川佳代、渡邉勲(羽衣国際大学)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中幹雄(大阪学院大学)、小林<39名>

 当グループでは、2014年3月に『日本十進分類法 新訂10版』改訂試案の関西説明会を、JLA分類委員会、日図研との共催により開催した。今回は、2015年1月に刊行された新訂10版について、JLA分類委員である小林氏に、新訂10版改訂の経緯、改訂の基本方針と主な改訂内容、新たな時代の分類法のあり方等についてご発表いただいた。

1.新訂9版〜新訂10版刊行までの経緯

 NDC新訂9版は、1995年8月に当時の石山洋分類委員長のもとで刊行された。改訂作業に着手したのは2001年7月に金中利和委員長に交代した翌年、2002年3月からである。2004年4月には新訂10版作成のための改訂方針を公表、2008年4月にはNDCの使用状況把握のため、全国の公共・大学図書館を対象に「図書の分類に関する調査」を実施した。
 2009年5月に那須雅熙委員長に交代し、改訂作業が本格化する。同年11月、改訂試案説明会(中間報告)を開催。すでに『図書館雑誌』で公表されていた0, 2, 3, 7類と、新たに提案された「情報科学と情報工学の統合」「NDC・MRDFの検討状況」について説明と意見交換が行われた。2013年11月 には第2回試案説明会を開催。1, 4, 5, 6, 8, 9類に加え、「情報学および関連領域」の試案説明と意見交換が行われた。翌年3月に関西でも同様の説明会を開催した。本表完成の目途が立ち、分類規程の見直しや序説の検討等に着手。2015年1月、待望の新訂10版が刊行された(奥付の日付は2014年12月)。

2.新訂9版までに対して指摘されてきた問題点

 これまでに指摘されてきた論理構造上の問題点として、十進記号法、不均衡項目、関連主題の分離、交差分類、複合・混合主題への対応などがある。また、語彙・名辞の現代化、本表各類の記述の統一、注記の充実・定型化、相関索引の充実、マニュアルの充実、機械検索への対応などが挙げられた。

3.新訂10版改訂の基本方針(2004年4月)

 発表者が挙げた中から、主な基本方針のみを示す。

  1. NDCの根幹に関わる体系の変更はしない。
    ただし、情報科学(007)と情報工学(548)の統合の可能性を検討する。
  2. 書誌分類を目指す。
  3. 新主題・新項目の追加を行う。
  4. 論理的不整合をできるだけ修正する。
  5. 用語整備:新名称への変更、用語の現代化を行う。
  6. MRDF9 (新訂9版機械可読データファイル)の本表と相関索引を統合し、分類典拠ファイルを作成する。

4.新訂10版の主要な改訂内容

4.1 新訂10版の構成

  1. 「本表・補助表編」と「相関索引・使用法編」の2分冊
  2. 新訂9版の「解説」を廃止して「序説」と「使用法」に二分し、「使用法」を充実させた。
    「使用法」では、各館共通の一般的な適用法と個別の適用法に分けて説明している。また、分類規程を「書架分類のための指針」という従来のあり方でなく、著作の主題を分析的・論理的に把握するための基準と捉え直し、書架分類はそこで得られた分類記号から所在記号として最適なものを選ぶとした。
  3. 「各類概説」を全面的に見直し、各類の構造をわかりやすく解説。区分特性が明確でない類ではその構造を説明し、区分の優先順序にも言及している。
  4. 「用語解説」「事項索引」の新設

4.2 補助表の再編と使用基準の明確化

 一般補助表(3種4表)と固有補助表(10種)の区別を見直し、再編のうえ「本表・補助表編」に一括収録した。

  1. 言語共通区分と文学共通区分を固有補助表へ移設。
  2. 日本史(210)において、沖縄を除く地方史の時代区分を可能にする固有補助表を新設。

4.3 新設項目の追加と多数の別法の導入

  1. 新設項目:288項目(細目表以下)
  2. 別法の新設:52項目
    記号の変更・移動を伴う抜本的な改訂を回避するため、別法を新設することで部分的な改訂を試みた。
  3. 削除項目:55項目
    第3次区分表(要目表)では、「546 電気鉄道」「 [647] みつばち.昆虫」の2か所のみである。

4.4 「情報学および関連領域」の整理

 情報科学(007)と情報工学(548)の統合については、単に記号的な統合を目指すのでなく、概念(観点)の明確化により区分するという考え方に切り替えた。

  1. 情報学一般 ⇒007 に
  2. 主題分野を限定しない社会学的な観点(情報ネットワークやその利用、社会的な関わり等)に関するもの  ⇒007.3を中心に
  3. 工学・技術的な観点(機器設計や作成、操作解説、敷設等)に関するもの ⇒547/548に
  4. 産業・経営・事業に関する観点(各種事業者に関するものやその歴史等)に関するもの ⇒694に
  5. 007と548のいずれかに関連図書を集中させられるよう、007の下に548に対する別法(007.8)と、情報学関連の547.48を収める別法(007.9)を用意した。

4.5 名辞の整備・統一

 今日一般的でない漢字表記や外来語のカタカナ表記を現代的な表記に改め、統一を図った。
 例:車輌→車両、ディジタル→デジタル

4.6 注記・参照の定型化

 注記の種類を整理し、定型化を図った。

  1. 分注記
  2. 範囲注記 a.限定注記、b.包含注記、c.排除注記、d.分散注記
  3. 別法注記

 参照の種類は以下のとおり。

  1. 「をみよ」参照
     a.二者択一項目における別法の分類記号から本則の分類記号への指示
     b.形式区分の縮約関係の指示
  2. 「をもみよ」参照
  3. 注参照

4.7 相関索引の整備

 すでに新訂9版で機械編さんに適した形式に整備され、索引語の収録範囲も拡充されている。新訂10版では、新訂9版の相関索引を引き継ぎ、本表の改訂に合わせて以下のように更新した。

  1. 分類項目の新設等に伴う新たな索引語の追加
  2. 本表からの索引語の収録を拡充
  3. BSHからの索引語取込を拡充(一部NDLSHも)
    索引語登録件数33,367件(新訂9版は29,494件)

4.8 判型の変更

 従来のA5判からB5判へ変更し、NCR、BSHと判型を揃えるとともに、ページ数増を回避した。

4.9 その他

 視認性の向上を図った。

4.10 各類の改訂概要(略)

5.新訂10版に残された課題

5.1 NDC新訂10版の普及(2015年度事業計画)

 説明会の開催により新訂10版の普及に努める。
 全国図書館大会における分科会の開催を検討する。

5.2 新訂10版の手引きの出版(2015年度事業計画)

 新訂7版や新訂8版の「ガイドブック」(もり・きよし著)やDDCのマニュアルのように、実務担当者や学習者の手引きとなるガイドブックの刊行を検討する。

5.3 機械可読データファイル(NDC・MRDF10)

 これまでの機械可読データファイル(MRDF8とMRDF9)は、分類項目間の階層関係や参照関係、分類項目と索引語の関係など、データ相互を関係づけるための仕組みを備えていなかった。MRDF10では利用様態に合わせたデータ内容、構造の改善を目指し、LD(Linked Data)化も含めて検討を行う。

5.4 維持管理体制

 NDCの維持管理データベースの構築の必要性を指摘した。

5.5 委員会体制の検討

 新訂9版改訂の際に古川肇氏から提案された組織体制のあり方を参考に、各組織の連携と、開かれた維持管理体制の構築を目指すべきである。

6.日本十進分類法の可能性

6.1 これからの図書館分類法の役割

  1. オープンな主題組織化のツール
    分類表自体がWeb上にオープンなツールとして提供されることで様々に利用される可能性がある。
  2. シソーラス構築源
    主題検索の際、シソーラスのバックグラウンドで用語間の関係を定義したり、体系的表示に利用。
  3. ものを見る視座を提供(鳥瞰的・俯瞰的視野)
    ナレッジマップによる知識の視覚化
  4. 社会・経済・文化発展のための社会的共通資本

6.2 LD:Linked Data化

 LD化により、図書館が作成する書誌情報(メタデータ)も相互にリンクされ、利用されやすくなる。

6.3 日本十進分類法をLD化するために必要なこと

 国立国会図書館との共同研究として、MRDF8,MRDF9を用いてLinked Data化の可能性を検証する。Web環境下では論理構造の歪みや曖昧さの解消が必要なため、DDCのように「全面改訂」等の抜本的改訂も検討する必要が生じると思われる。

 質疑応答では、書誌分類と書架分類の解釈、学習用廉価版刊行の可能性、などについて発言があった。

(記録・文責:松井純子 大阪芸術大学)