昨年の全国図書館大会第17分科会「NDC10版から拡がる②:図書館分類の地平」での発表をベースに、「日本十進分類法新訂10版」(以下、NDC10)の改訂内容と今後の課題について、1)書誌分類法としての要件、2)分類作業しやすく利用者にもわかりやすい分類法、という2点を中心に述べた。
まえがきにあげた2点は、NDC10改訂方針の一部である。1)については書誌分類法の要件を、2)については理解しやすい分類法とはどのようなものかを、それぞれ明確にすべきである。
以下の3点が不可欠となる。
① 主題の正確な表現が可能
書誌分類とは主題の多面的な検索を可能にする手段であり、そのためには、単一主題であれ複合主題であれ、主題の正確な表現が可能でなければならない。しかし、細目表の展開が不十分だったり、複雑な主題を表現する手段を持たない場合もある。また、詳細な記号の付与を避けることも少なくない。
② 書誌分類のための分類規程が必要
従来の分類規程は書架分類のための指針であった。
③ 書誌分類のための使用法(マニュアル)が必要
従来は、独立したマニュアルがなかった。
① 主題の正確な表現は可能か?
単一主題では、補助表を使用することで一定程度は可能である。しかし、形式区分の二重使用を積極的には推奨せず、また言語共通区分と文学共通区分は言語の集合(諸語)には付加しないなど、主題表現に限界がある。さらに単一主題でも、適切な分類項目が用意されていなければ、詳細な主題表現は困難である(例:「法統計学」→ 321 ×321.9)。
しかしながら、複数主題・複合主題・混合主題のような複雑な主題の場合は、表中に項目があらかじめ用意されている主題以外は困難である。 例:「キリスト教とユダヤ教」→ 190.4(「-04」は他主題との関連を表す形式区分だがユダヤ教は表現できない)
② 書誌分類のための分類規程は?
NDC10では、分類規程のあり方を見直し、「著作の主題情報を分析的、合理的に明確にするための基準とみなす」とした。そして、主題が複数ある場合は、分類重出の検討や推奨を打ち出し、大きな転換と評価できる。
③ 書誌分類のための使用法(マニュアル)は?
NDC10では「使用法」の充実が図られた。②の分類規定も「使用法」に含まれているが、分類重出のルールをさらに検討する必要がある。やみくもに分類重出するのでなく、重出不要の場合もあることを明確にすべきである。
① 区分特性の明確化
「利用者」を「初学者」に置き換えてみると、初学者がNDCを理解しにくい理由の一つは、主題ごとに様々な区分特性が適用され、構造が異なるにもかかわらず、それが明示されていないことである。
NDC10では「各類概説」で主題ごとの構造や区分特性の適用順序を説明している。評価できる。
② 注記の見直しと統一
NDC10では限定注記、包含注記、排除注記、分散注記の区別が整理され、わかりやすくなった。だが、限定注記・包含注記と排除注記・分散注記を組み合わせて使用する(特に包含注記に排除注記や分散注記を組み合わせる)と、よりわかりやすくなる。
例:316.1(国家と個人)の注「*人権〈一般〉は、ここに収める」(下線筆者)→ 「人権〈一般〉でないもの」をどこに収めるのか。注がほしい。
③ 基本的用語の意味と使い方
NDC10の本表に頻繁に表れる「○○〈一般〉」はどのような意味か。どこにも説明がなく、初学者にわかりにくい語である。例:021.4(編集.編纂)の注に「編集実務〈一般〉」という語があるが、「編集実務〈一般〉」とは何か。「編集実務〈一般〉」でないものとは何か。個々の編集実務、それとも映像編集や音楽編集などの特定分野の編集のことか。
④ 相関索引の整備
NDC10の相関索引は、索引語が大幅に拡充され、語数が増加した。しかし、複合的な主題の検索に有効な索引語(例:「社会学」に対する「音楽社会学」「教育社会学」などの合成語)の採録が網羅的でない。例:「博物館」→「科学博物館」のみが「博物館」の下に集約され、「玩具博物館」「鉄道博物館」「民族学博物館」などは索引語自体がない。「植物園」「水族館」「動物園」「美術館」も集約されるべきだが、見当たらない。「文学館」は索引語自体がない。
⑤ 記号の合成に関するルールを明確に
形式区分の記号が時代区分として用いられる箇所では、形式区分の0を増やすという例外的用法がある。その一方、時代区分と形式区分を同時に用いる場合は0を増やさないという例外の例外もある(フランス革命事典→235.06033 ×235.060033)。この規定は初学者の混乱を招きやすい。
NDCは今後、資料全体の主題だけでなく、資料を構成する個々の主題についても、利用者と資料を結び付けることが望ましい。そのためには、書誌分類法の要件を備えるとともに、相関索引の整備・充実が不可欠である。新主題への対応(改訂の間隔を短くするなど)も必要であろう。
(記録文責:松井純子 大阪芸術大学)