情報組織化研究グループ月例研究会報告(2016.5)
「新しい日本目録規則(新NCR):背景・概要・進捗状況」
渡邊隆弘(帝塚山学院大学)
- 日時:
- 2016年5月28日(土)14:30〜17:00
- 会場:
- 大阪府立中央図書館 2階中会議室
- 発表者 :
- 渡邊隆弘 氏(帝塚山学院大学)
- テーマ :
- 新しい日本目録規則(新NCR):背景・概要・進捗状況
- 出席者:
- 石田康博(名古屋大学)、稲葉洋子(帝塚山大学)、蟹瀬智弘(IAAL)、川崎秀子、川瀬綾子、北克一(相愛大学)、故選義浩、佐藤久美子(国立国会図書館)、塩見橘子、杉本節子、竹村誠(帝塚山大学)、田村俊明(紀伊国屋書店)、冨田知恵子(東大阪市立花園図書館)、中井詠子、長瀬広和、日吉宏美(神戸大学附属図書館)、福永直子(神戸市立図書館)、堀池博巳、前川和子(元・大手前大学)、松井純子(大阪芸術大学)、松川隆弘(大阪商業大学)、宮田怜(京都大学)、森彩乃(名古屋大学)、森美由紀(梅花女子大学)、和田康宏(株式会社アイビネット)、和中幹雄(大阪学院大学)、渡邊<27名>
日本図書館協会(JLA)目録委員長を務める発表者から、国立国会図書館(NDL)収集書誌部との連携作業で進行中の新NCR策定について発表された。
1.新NCR策定の経緯と背景
- NCR「1987年版改訂3版」の刊行以降、JLA目録委員会では抜本改訂への準備を行っていたが、改訂の方針を公にしたのは2010年9月であった。
- 2010年の文書では、これからの目録は「資料のもつ潜在的利用可能性を最大限に顕在化する道具であるべき」とし、「ICP[国際目録原則]に準拠する。RDA については、長所を個別に検討して取り込む」と述べていた。
- 2013年になって、NDL収集書誌部からJLA目録委員会へ連携提案があり、同年9月に「基本方針」を共同公表して連携作業を開始した。この際、2017年度に新規則公開を目指すスケジュールも公表している。その後、毎年度2〜3月に開催されるNDL「書誌調整連絡会議」に合わせて順次条文案を公開している。
- 新NCRが求められる背景としては、対象資料の多様化や目録作成・提供環境の電子化・ネットワーク化に対応すべく国際的に進んでいる目録法変革の流れがある。一方、NCRの歴史の流れの中で考えると、「新版予備版」(1977)以降に導入された、国際的標準化から距離を置いた部分(非基本記入方式や書誌階層構造など)をどうしていくかが課題となる。
2.新NCRの基本方針と構成
- 新NCR策定の基本方針としては、(1)国際標準への準拠(FRBRを基盤とする規則)、(2)RDAへの対応、(3)日本の出版状況等への配慮、(4)NCR1987年版とそれに基づく目録慣行への留意、(5)論理的でわかりやすく、実務面で使いやすく、(6)ウェブ環境に適合した提供方法、が挙げられる。
- 新NCRは「総説」「属性」「関連」の3部構成で、属性の部はFRBRの実体別、関連の部は関連の種類別の章構成をとる。RDAと類似しているが、より厳密に実体別の章構成としたこと、属性の章とアクセス・ポイントの構築の章を分けたことなどの違いがある。
3.新NCRの特徴
- RDAと同様にFRBR等の概念モデルに密着した規則構造を取る。
- FRBRモデルに準拠して「著作」「個人」等を実体と位置付け諸属性を設定することにより、従来の規則と比較して典拠コントロールが明確に位置付けられる。
- 全著作の典拠コントロールを行う。著作の典拠形アクセス・ポイント(AAP)は優先タイトルと作成者のAAPとを結合した形をとる。NCR1987年版からの大きな転換となる。
- 資料の物理的側面と内容的側面を整理し、内容的側面(著作、表現形)をこれまでより重視する。また、資料種別を表現形レベルと体現形レベルの両系列に再編成する。
- FRBRモデルに沿って、実体の属性とは別立てで「関連」を重視する。RDAに対応して、「関連指示子」の設定を行う。
- 書誌階層構造の考え方は、維持する(関連の一種に相当する)。
- RDAと同様に、「注記」「その他の形態的細目」等を細分するなど、エレメントをより小さな単位で設定し、データ処理の利便性向上をはかる。
- RDAと同様に、転記によらない多くのエレメントに語彙リストを設定する。
- RDAと同様に、エンコーディングや記述文法は扱わず、メタデータの意味的側面に特化した規則とする。
- 以上の諸点は、それぞれの意義をもつとともに、機械可読性の向上に資するものである。
4.策定作業の実際と進捗状況
- 策定作業は、エレメント群ごとに順次行っている。具体的には、目録委員の分担作成と委員会討議による目録委員会原案をNDLに送付し、NDL内部の検討を経てNDL条文案が提示され、両者でさらに議論するという手順をとっている。その後条文案を一般公開しているが、この時点では両論併記や課題のコメントが付されている箇所もある。
- 2016年5月現在、条文案を公開しているのはアクセス・ポイントに関わる諸章と、体現形の主要な属性(従来の書誌記述の中心部分)である。その他の部分は、順次作業中である。
5.公開中の条文案から
公開中の条文案から、特徴的な点や課題の残る点を略述した。紙幅の都合で省略する。研究グループのウェブサイトに掲載の配布資料(PDF)を参照されたい。
6.今後の予定とその後の課題
- 2016年度内に新規則案(全体案)を公開して、関係機関との調整、検討集会の開催を行うことを予定している。その後、2017年度中の完成公表を目指す。
- その後の課題としては(私見)、規則への対応状況、構文的側面の動向、刊行後の維持体制が挙げられる。新NCRは従来の規則よりも自由度が高く、これまでの変わりないデータも許容されてしまうため、各機関での「対応」の内実が問われる。BIBFRAMEの動向など構文的側面の問題は、実運用に当然大きな意味を持つ。RDAは2010年の刊行後も毎年のように更新がなされており、新NCRにも息の長い維持体制が望まれる。
以上の発表を受けて、RDAとの対応、書誌階層構造の位置付け、刊行方式等について、質疑があった。
(記録文責:渡邊隆弘)
参考:JLA目録委員会「新しい『日本目録規則』(新NCR)の策定に関する情報」
http://www.jla.or.jp/mokuroku/
*当日の配布資料を研究グループのサイトに掲載しています。