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情報組織化研究グループ月例研究会報告(2017.1)

「ウェブスケールディスカバリーの運用とその展開可能性」

飯野勝則氏(佛教大学図書館)


日時:
2017年1月22日(日)14:30〜17:00
会場:
大阪市立生涯学習センター難波市民学習センター
発表者:
飯野勝則氏(佛教大学図書館)
テーマ:
ウェブスケールディスカバリーの運用とその展開可能性
出席者:
赤澤久弥(京都大学図書館)、荒木のりこ(大阪大学)、飯田寿美、井村香織、岡田大輔(安田女子大学)、川崎秀子(同志社女子大学)、川戸睦実、川畑卓也(奈良県立図書情報館)、木下みゆき(大阪大谷大学)、久保山健(大阪大学)、古賀崇(天理大学)、小山荘太郎(三重大学図書館)、佐藤毅彦(甲南女子大学)、島村聡明(京都府立図書館)、田窪直規(近畿大学)、竹村誠(帝塚山大学)、田村俊明(紀伊国屋書店)、藤間真(桃山学院大学)、西田紀子、堀池博巳、前川敦子(三重大学図書館)、松井純子(大阪芸術大学)、森原久美子(島根県立大学)、山本智司(奈良県立図書情報館)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中幹雄(大阪学院大学)、飯野<27名>

※本研究会は、日図研第326回研究例会との合同開催。


1.ウェブスケールディスカバリーが生まれるまで

 1990年代の後半になると,図書館では従来の図書や雑誌に加え,様々な電子媒体のコンテンツを扱うようになってきたことに伴い,以下のような課題に直面していた。一つはこれらをどのように管理・提供していくのがよいかという問題であり,もう一つはこれらのコンテンツをOPACでどのように表示させるのがよいかという問題である。前者を解決するためのアプローチとして,リンク集や横断検索機能などが生まれ,後者に関しては検索結果を様々なファセットを用いて絞り込むことができる機能をもつ,「ディスカバリーサービス」と称されるサービスが提供されるようになった。また,これらの複数の機能を組み合わせたサービスも登場し,課題はまだ残しつつも利用者からは一定の評価を得ることができた。

2.ウェブスケールディスカバリーとは何か

 ウェブスケールディスカバリーとは,図書館単体としてのコンテンツを対象としていた従来のディスカバリーサービス(インスティチューションスケール)をウェブスケールにまで拡大したものである。機能としては,図書館OPACなどの自前のコンテンツから商用のデータベースまでを統合的に検索し,視覚的に工夫されたユーザーインターフェース上で検索結果を統合的に表示することができ,以下のような特徴を持っている。

 ① クラウドサービスとして提供されている。

 ② 図書館や各種の商用データベース等から収集されたメタデータを統合した,ウェブスケールな検索用の「セントラルインデックス」を所有している。

 ③ 電子リソースに対し,定期的に自動でデータ更新(ハーベスト)を行うための仕組みを持ち,利用者に最新の検索データを提供することができる。

 ④ 単一の検索窓で検索を行うことができ,検索結果を「関連度」順に表示することができる。

 現在は3社から4種類のウェブスケールディスカバリーシステムが提供されており,佛教大学ではそのうちの一つである"Summon"というシステムを使用し,「お気軽検索」という愛称で提供している。佛教大学図書館の蔵書数は約100万冊であり,OPACのレコード件数が約100万件に留まるのに対し,お気軽検索では6億3600万件という膨大な数のレコードが学内向けに利用可能となっている。ただし,ウェブスケールディスカバリーとは最大で「ウェブスケール」に達する情報資源を利用者の求めるスケールで可変的に扱うことのできるサービス(スケーラビリティ)であるというものであり,常にウェブスケールを対象としているわけではない。一方でスケール概念の混在が,利用者に混乱や誤解をもたらす可能性もある(スケールの錯視)。

3.ウェブスケールディスカバリーの運用

 佛教大学では2011年4月にウェブスケールディスカバリーを導入し,2015年4月には画面デザインを一新した。利用状況の推移をみると,導入前に比べ導入後は紙媒体の雑誌レコードへのアクセスが大幅に増加した。また,2015年4月に画面デザインを一新した結果,図書館ウェブサイトのトップページへのアクセスや「お気軽検索」の利用が大幅に増加した。さらに,デザイン修正前の旧ポータルサイトの時代と修正後を比較すると,図書館ウェブサイトのトップページにアクセスした利用者がサイト内で遷移する割合が増加し,図書館ウェブサイト内の様々なコンテンツが有効利用されるようになってきたことが窺える。遷移先で多いのは新聞・ニュースや保健医療などのデータベースを一覧にして集約したページであるが,最近ではマイライブラリーへのアクセスも増加している。
 多くの利用者に利用されている「お気軽検索」であるが,利用の増加に伴い利用者の不満や誤解も増加している。それらを内容によりグルーピングすると,大きく以下の3種類に分けられる。

 ① 「スケールの錯視」による不満の連鎖

 ② 「利用者の思い込みやスキル」から生じる誤解

 ③ 「情報量や情報のデザイン」に起因する不満

 ①は,本来はデータベースベンダーに由来するようなリンク切れなどの問題を図書館の問題として利用者に捉えられてしまうものであり,図書館員にとってもデータベースベンダーに対してエラー修正要求を出してもなかなか対応してくれないという不満が生じることがある。②は,ウェブスケールディスカバリーを使えば何でも検索できるという誤解や,説明なしに誰でも簡単に使うことができるという思い込みが挙げられる。③は,検索結果が多すぎる,適切な順序で表示されないなどの不満である。これらの不満や誤解の解消に向けて様々な取り組みを行う必要があるが,重要なのは図書館員がウェブスケールディスカバリーの現状を正しく理解した上で,利用者に対してガイダンスなどの広報活動を行うことである。多くの不満や理解は利用者の理解によって解消される可能性が高い。そこで解消しきれない問題については,図書館員が介在し,ベンダーとの間で様々な手立てを講じ,根本的な解決へ導くことが重要である。また,図書館員の視点から現状を確認し,日々手を入れていくことが必要である。ウェブスケールディスカバリーのいいところは,表示をどうするかということは各大学にゆだねられている点であり,この部分は図書館員が一番やらなければならないことではないかと考える。

4.公共図書館への展開

 ウェブスケールディスカバリーは殆どが大学図書館を中心として普及してきたが,その先駆けであるAquaBrowser Libraryはもともとオランダの公共図書館で採用されたシステムであり,必ずしも公共図書館に使えないというわけではない。海外の公共図書館の利用例をみると,単館での利用例もあるが,コンソーシアムでの利用例も存在する。コンソーシアムでの利用は,コンソーシアムの参加館でただ一つの検索インターフェースを共有する方法(シングルインスタンス)と,コンソーシアムの参加館は一つの検索インターフェースを共有するほか各参加館に応じた検索インターフェースを有する方法(マルチインスタンス)に分けられる。このうちのマルチインスタンスでの利用の場合,図書館員が介在することによって画面構成や表示順の管理を行うことが可能であるというメリットが存在する。ただし,日本の公共図書館の現状としては,日本語の電子リソースがまだ少ないため,費用対効果の面からの検討が必要であると考える。

(文責:田村俊明 紀伊國屋書店)