TOP > 月例研究会 > 2017 > / Last update: 2017.11.29
発表者は目録法の概念がよく分からず、したがって、これはcatalogingの訳とされることがあるが、このことの適否についても不明である。そこで、この発表では、目録法の概念と、これをcatalogingの訳語とすることの適否について、考察を加えることにした。
目録法の概念に関する説を調査するため、雑誌論文の類、情報組織化論(などと呼ばれる分野)や目録の教科書・概説書・専門書の類、ハンドブック・辞典の類を調査した。その結果、目録法の概念には、次の2説があることが分かった。
一つは、目録法を「目録作成の方法」とするものであり、これを目録作成法説と名づけた。もう一つは、目録法を「目録の作成にかかわる規則の総体」とするものであり、これを規則の総体説と名づけた。なお、両説とも、大前提的もしくは無前提的に記されており、どうしてこのように考えられうるのかについては、記されていない。
発表者は、目録作成法説には違和感がない。本来、目録作成規則とすべきものが目録規則とされるのと同様、本来、目録作成法とすべきものが目録法とされたと、解釈可能だからである。一方、規則の総体説には違和感がある。発表者には、どう考えれば、規則の総体に目録法という日本語を対応させることができるのか、不明である。
目録法を学問分野とするのであれば、目録法の法は、方法ではなく、方法論と考えるべきであろう。方法は英語でmethodであるが、方法論は英語でmethodologyである。語尾のologyは、語源的には論理(logic)などを意味する語尾である。したがって、方法が論理的に体系化されたものが方法論であり、これであれば、学問分野となりうる。なお、端的に述べれば、ologyは学問分野を形成する語尾の一つとされており、例えば、biologyは生物学、ethnologyは民族学である。
上記から分かるように、発表者は、目録作成法説に近い立場を取るものであるが、方法と方法論を区別し、目録法は目録作成の方法論であるべきと考えている。
catalogingは、動詞のcatalogにingを付加して動名詞にしたものである。動詞のcatalogは「目録を作成する」などの意味なので、目録の世界でしばしば使用される目録作成(や目録作業)という用語が、この語の訳語にふさわしい。
もちろん、目録作成と目録法が同義であれば、catalogingを目録法と訳してもよいのだが、目録法に関する既存の2説のどちらに立っても、両者は同義ではない。したがって、これを目録法と訳せない。
ただし、英語文献のcatalogingの概念規定に、これを目録法と訳せる余地があるかもしれないので、この点を確認するため、英語及び英語を翻訳した辞典・用語集の類、英語の情報組織化論(などと呼ばれる分野)や目録の教科書・概説書・専門書の類を調査した。その結果、catalogingを目録法と訳す余地はなく、これはやはり目録作成(や目録作業)などと訳されるべき用語であることが確認できた。
筆者は、目録法を目録作成の方法論と規定した。したがって、これの英語は、素直には、cataloging methodologyかmethodology of catalogingとなる。
興味深いことに、LISTA(Library, Information Science and Technology Abstracts)データベースのシソーラスで、cataloging methodologyが優先語として採用されている。そこで、これの概念を探るため、この優先語を用いてこのデータベースを検索した。その結果、19件の文献が検索されたが、これらの文献には、この語の概念の検討を主題とするものはなく、また、この語の概念に触れているものもなかった。念のために、英語及び英語を翻訳した辞典・用語集の類と英語の情報組織化論(などと呼ばれる分野)や目録の教科書・概説書・専門書の類を調査したが、この語を確認することができなかった。
これらのことは、cataloging methodologyはLISTAデータベースのシソーラスの優先語に採用されているものの、これは英語の情報組織化論(などと呼ばれる分野)や目録の用語・概念として確立されたものではないことを示している。
cataloging methodologyのほかにも、目録法と訳す候補となる語があるかもしれないが、英語を翻訳した『ALA図書館情報学辞典』には、目録法という項目はなく、このことから、英語には目録法の候補となる語はないことが察せられる。
ここでは、目録法は目録作成の方法論と解釈されるべきことを論じ、catalogingは目録法とは訳せないことを明らかにした。
また、目録法という概念に対応する英語の用語・概念がないことも浮かび上がってきた。したがって、研究の国際性という意味では、目録法という用語の使用を止めないと、日本の目録研究はガラパゴス化しかねないということになる。しかし、その一方で、日本生まれの目録法という用語・概念を育み、内容を充実させるという考えも成り立とう。その場合の目録法とは、繰り返しになるが、目録作成の方法論、すなわち、目録作成法を論理的に体系化していく学問分野であるべきと考えている。
(記録文責:田窪直規 近畿大学)