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共催:記録管理学会
後援:日本アーカイブズ学会
協力:エル・ライブラリー(大阪産業労働資料館)
図書館の中の「文書資料」「冊子体以外の文字資料」の組織化(分類と目録)に対する図書館員の学びは十分ではなかったという問題意識が存在する。発表者が所属するエル・ライブラリーには通常の図書館が扱う資料のみならず博物館や文書館が扱う資料も多く所蔵されている。地域資料や貴重資料には多くの「アーカイブズ」が含まれる。エル・ライブラリーにおける試行錯誤を公開して多くの知見を得たいという思いがあった。「アーカイブズとは何か」という定義は論者によって異なるが、森本祥子は「組織または個人がその活動に伴って生み出す記録のうち、重要なものを将来のために保存する施設であり、同時に資料そのものも指す」と定義している。アーカイブズはフォンドからアイテムに至る、ツリー型の階層構造を形成する。アーカイブズ機関には、組織(機関)アーカイブズと収集型アーカイブズがあるがエル・ライブラリーは後者である。組織アーカイブズ、個人アーカイブズ両方がエル・ライブラリーには寄贈されているが最大量の個人アーカイブズが「中江文庫」である。中江文庫とは大阪総評議長などを歴任した中江平次郎の寄贈資料であり中江文庫から図書・雑誌を除いた文書類を中江資料と呼んでいる。中江資料の目録は初期(整理が進んだ1980年代)は手書きであり、目録規則も不明なものであった。その後、1990年頃に「桐」に書誌データを記入し、2000年から2008年にかけて富士通のILISにデータを搭載した。目録法の考え方の変遷は以下の通りである。まず2008年に図書管理ソフト「図書羅針盤」にデータをエクスポートしたが、その時の目録規則はNCR1987年版改訂3版に拠るものであった。しかし検索結果が見づらく、アーカイブズの資料構造がわからないという致命的欠点があった。その後、2018年にISAD(G)2ndによる資料の編成と記述を試みた。さらに2019年現在、AtoMでの記述を始めた。AtoMはAccess to Memoryの略で、国際文書館評議会(ICA)基準に基づいた完全にウェブベースのアーカイブ記述アプリケーションであり、無料で自由に使えるオープンソースソフトウェアである。
別の事例として、辻保治旧蔵近江絹糸労働組合関係資料を整理したケースを見る。辻は近江絹糸労働組合彦根支部で文化・教宣活動を指導した人物で、当資料は、組合などの組織アーカイブではなく、辻が自らの活動を通じて、作成・収集した個人アーカイブズである。遺族が1998年に資料を大阪社会運動協会(2008年にエル・ライブラリーを開設することになる法人)に寄贈した。
当初は、通常の図書目録のように最小単位である資料1点(アイテム)ごとの目録を作成・発表したものであるが、全体の構造を明示すること、資料群の特徴を目録記述によって的確に表現することをめざし、ISAD(G)に準拠した目録を作成することにトライした。
資料群のシリーズ立て(分類・編成)については、個人アーカイブズの場合、アーカイブズを作成した当人の役職・年代別に行うことが有効とされるが、当アーカイブズの場合は、辻がほとんど役職についていないこと、資料作成年が短い期間に限られること、作成者ごとにまとまった数の資料が存在することから、作成者を中心に行った。具体的には、会社、労働組合、サークル、寮自治会等15のシリーズに編成し、各シリーズの内部にサブシリーズを設けた。サブシリーズの内部には様々な内容が存在するが、実務上の労力も勘案し、編成及び目録記述については、サブシリーズまでとした。
エル・ライブラリーを含む在阪の3機関で、AtoMを利用した目録記述を試行中である。アイテム数が多い場合、どのようにして一覧性を確保するか、典拠をどのようにコントロールするか等が課題となっている。
「個人文庫」は図書、雑誌、視聴覚資料、文書資料、その他を含み、「アーカイブズ資料」という位置づけができる資料は実は少なく、ほとんどが図書コレクションである。アーカイブズは組織または個人の活動の記録であり原則として一点ものという定義を適用すれば、個人アーカイブズは典型的には以下の資料種別が考えられる。
さらに「個人がその活動の中で収集・作成した資料」と考えると、以下の分類もできる。
「個人の活動にともなって生成・収集されたもので、その個人の活動の記録や証拠となるもの」であれば、たとえばバッジ(記章)のコレクションもアーカイブズ資料として位置づけられるはずである。では個人が趣味で集めた切手はアーカイブズなのかコレクションなのか。要はコンテクストの違いと思われる
どのような文脈でその資料群を位置づけるのかは各館の方針に委ねられるだろう。今後の課題としては以下の点が挙げられる。従来の図書館目録では資料群の構造が可視化されない点がまず課題である。また、AtoMで記入している目録を、エル・ライブラリーの図書館システム「図書羅針盤」とどう統合するのか、という問題もある。最後に、デジタルコンテンツをどこまで公開できるかも検討課題である。
以上の発表を受けて、AtoMと他のシステムとの連携・統合の可能性について、物理資料は目録の対象となっているのかについて等の質疑があった。
(記録文責:今野創祐 京都大学)