TOP > 月例研究会 > 2019 > / Last update: 2019.7.24
国公私立大学図書館協力委員会と国立情報学研究所が共同で設置した「大学図書館と国立情報学研究所との連携・協力推進会議」は,2012年より,その傘下に「これからの学術情報システム構築検討委員会」(以下,これから委員会)を設置している。これから委員会は,2015年5月に「これからの学術情報システムの在り方について」との活動の方向性を示す文書を公開し,電子情報資源を扱うシステムの在り方を検討する「電子リソースデータ共有作業部会」(以下,共有作業部会)とNACSIS-CATの軽量化・合理化を検討する「NACSIS-CAT検討作業部会」(以下,NACSIS部会)を組織した。
今回の月例研究会においては,これまでの電子リソース部会の活動と,2019年2月にこれから委員会が新たに公開した「これからの学術情報システムの在り方について(2019)」(以下,在り方2019)を踏まえた,今後の展開の可能性について報告している。
共有作業部会において,その目的となっている電子リソースの「共有」には,2つの種類がある。ひとつが,各機関(各図書館)が他の機関に向けて,電子リソースの情報を発信し,共有するというものである。もう一方は,他の機関が発信する電子リソースの情報を取り込んで,各機関の利用者のために共有するというものである。
前者は,他機関の利用者やステークホルダーに対し,適切な形で自館由来の学術情報を提供することを目的とする共有であり,言わばNACSIS-CATなどの総合目録が従来担ってきた各機関の蔵書に対する共同管理を電子の世界で実現させるものであると考えられる。また,後者は機関内の利用者やステークホルダーを念頭に、適切な形で外部由来の学術情報を提供することを目的とする共有であり,いわば図書館が従来になってきたローカルの蔵書に対する行き届いた管理を電子の世界で実現させるものと考えて差し支えない。
共有作業部会においては,ERDB-JPという,日本国内を中心としたOAジャーナルのタイトルや公開範囲、URLなどを集約したデータベースを公開している。ERDB-JPは2019年6月4日現在で19,875タイトルを収録しており,日本を代表する「ナレッジベース」として機能している。
ERDB-JPで,このようなメタデータを集約することのメリットであるが,世界の主要なリンクリゾルバのベンダーとの間で,共有を行えるという点にある。すなわち,リンクリゾルバを介することで,OAジャーナルの一部として,機関リポジトリ上に公開されている論文や記事について,外部の抄録データベースやディスカバリーサービスからのアクセスルートを確保できるのである。これにより,国内外の学術機関における,日本の学術情報の発見可能性を高めることができる。これは機関リポジトリに全文データを登録し,IRDBに連携するだけでは得ることのできないメリットである。
ERDB-JPに登録されたメタデータは,CC0となっており,米国情報標準化機構NISOが定めるKBART(Knowledge Bases And Related Tools )フォーマットを日本語用に拡張した「KBART拡張方式」もしくは「KBART2拡張方式」で出力可能になっており,リンクリゾルバのベンダーに限らず,利用が可能である。なお日本国内における使用例としてはCiNii Booksにおいて,書誌からOAジャーナルへのリンクを構築する目的で利用されている。
図書館においては,ローカルの蔵書に関して,長年「行き届いた管理」を行ってきた実績があるが,電子リソースに関しては必ずしもそういった状況にはない。実際,国内の大学図書館においては,大学図書館コンソーシアム連合(JUSTICE)を通じて,設定されたライセンス条件下で,さまざまな電子リソースの利用が可能になっているが,その内容は単純なものでなく,資料の提供環境に適切に反映されているとは言い難い。このため共有作業部会では,このようなJUSTICE由来のライセンス条件を効率的に管理できるシステムについて検討を進めてきたが,その結果,図書館サービスプラットフォーム(LSP)と称されるシステムを用いることで,課題解決につなげることができるのではないかとの結論に至っている。
在り方2019の公表により,2018年度末をもって,共有作業部会とNACSIS部会は活動を終了した。その上で,在り方2019で示される「進むべき方向性」に鑑みて,再編と言う形で新たに設置された部会が,「システムモデル検討作業部会」と「システムワークフロー検討作業部会」である。
これらの部会の主要な目的は,NACSIS-CAT/ILLに加え,JUSTICEのライセンスデータを管理する「中央システム」と,各機関で運用する「ローカルシステム」について,2022年を目処に各機関が必要な機能を選択的に導入できる環境を実現することにある。言い換えれば,これらシステムに関する,共同調達・運用の枠組みを検討することである。前者においては,共同調達・運用のための持続可能なコミュニティの形成とコスト負担に関するモデルの作成を行う。また後者については,共同調達・運用のためのシステムワークフローの検証や,国内外への流通を念頭においた,電子リソースに関するメタデータの適切な設計等を担うこととなっている。
LSPは,クラウドベースで開発されたシステムであり,また世界各国で共同調達・運用が活発に行われている実績もあることから,共同調達・運用への適合可能性は高いと考えられる。システムとして,電子リソースのみならず,印刷体にも対応しているという点も,既存の図書館システム(ILS)を置き換える共同調達・運用のシステムとして期待できる点である。今後はLSPにおける電子リソースと印刷体の両者についてのワークフローについて,さまざまな規模の大学図書館での適合可能性を判断すべく,検証を進めていく必要があると考えている。
なお,発表後の質疑応答では,共同運用時のLSPについて,カスタマイズの可能性が低いことの是非や,中央システムとローカルシステム(既存のILS)との連携に,日本のベンダーの協力が欠かせないことなどについて,活発な意見交換が行われた。
(文責:飯野勝則 佛教大学図書館)
参考文献:
「これからの学術情報システムの在り方(2019)」
https://www.nii.ac.jp/content/korekara/archive/