情報組織化研究グループ月例研究会報告(2019.7)
司書科目「情報資源組織論」「情報資源組織演習」をどう教えるか
岡田大輔氏(相愛大学)
- 日時:
- 2019年7月20日(土)14:30〜17:00
- 会場:
- 近畿大学
- 発表者:
- 岡田大輔氏(相愛大学)
- テーマ:
- 司書科目「情報資源組織論」「情報資源組織演習」をどう教えるか
- 出席者:
- 荒木のりこ(国際日本文化研究センター)、今野創祐(京都大学)、飯野勝則(佛教大学)、川崎秀子、田窪直規(近畿大学)、堀池博巳、柴田正美(三重大学名誉教授)、柳勝文(龍谷大学)、蟹瀬智弘(紀伊国屋書店)、長瀬広和、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中幹雄、松井純子(大阪芸術大学)、高畑悦子(佛教大学非常勤講師)、北川昌子(大阪城南女子短期大学)、杉本節子、中道弘和(堺市立図書館)、福永智子(椙山女学園大学)、石村早紀(樹村房)、徳原靖浩(東京大学U-PARL)、石橋進一、孫誌衒(大手前大学)、高木真美(釧路短期大学)、林口浩士(関西大倉学園)、塩見橘子(立命館大学)、松本直子(聖路加国際大学)、岡田<27名>
NCR2018年版(以下「新NCR」)が2018年12月に刊行された。新NCRをどのように教えるのかをはじめ、司書課程の情報資源組織論・演習の授業を検討する機会とした。教育研究グループに属する発表者から問題提起として授業実践の発表が行われ、その後情報組織化研究グループを含む参加者からの質問返答と参加者全体でのディスカッションを行った。
1.相愛大学の現状
司書課程の受講生は少なく、授業は5〜10名程度で行っている。人文学部の受講生が多いが、音楽学部や、保育士・小学校教諭・栄養士を目指す学部からの受講生も毎年1名程度いる。
2017年度以前の入学者には「情報資源組織論」「情報資源組織演習」をそれぞれ2つに分割し、各15回、2単位の科目を計4科目開講していた。それを、2018年度以降の入学者には、分割するのを止め、2科目(各15回、2単位)の開講とした。科目数を削減したのは、発表者が学校司書のモデルカリキュラムの持ちコマを捻出するためである。ただ、現在は移行中のため6科目とも開講し、発表者は2017年度以前入学者対象の演習以外の4科目を担当している。
2.どうやって興味を持たせるか
学生には自分で考えて自分の意見を言えるようになってほしいと思っている。そのために司書課程の授業では積極的に学生を当て意見を出させるとともに、最初は「この大学の大学図書館に自動貸出機は必要か」といった「はい」「いいえ」で答えられる質問から始めてきた。2回生になると、多くの学生はいろいろ自分の意見を言ってくれるようになってきた。
2.1 1授業1トピック
伝える知識を減らしてでも、学生が意見を持ちやすいトピックを1つ選び、教員が主導する形となるが学生と議論している。情報資源組織に関しては例えば以下がある。
●「NACSISI-CATの書誌を全く作成しない館があるが、このままでいいか」→ 罰金を取る、年間使用料という形にして作成館にはバックする、浄土真宗の本は龍谷・相愛などの浄土真宗の大学がやるなど、資料の内容ごとに担当する大学を決めことにしたら、などの意見。
●「OPACの検索結果のデフォルトは何順がいいか」→ 新着順、発行日順、貸出回数順が出た。"Amazonで売れている順"も技術的にはできると提示したが、授業に関わる資料は単位が取れるかどうかが大事なので(その大学での)「貸出回数順」がよい、世の中の人気は関係ない、との意見が出た。
ある程度は個人の意見が言えていると捉えている。
2.2 「試験問題例」としての復習
テストでは具体的な場面を設定して、自分ならどう対応するかといった問題を出している。第11回あたりから「こういう問題が出る」と授業内で扱って学生に考えを出させている。
●あなたは図書館で司書として働いています。「小説は全部913.6で探しにくいので、NDCはそのままにして"恋愛小説""推理小説""時代小説"…とシールを貼りましょう。私が少しずつやっていきますから」と図書館ボランティアの人が言っています。どう答えるか200字程度で書きなさい。(ある程度の正解はあるが、自分の考えも書く問題)←オランダの公共図書館では、日本の「かんこさんシール」のようなシールが小説に貼られていたことを紹介して議論した。
●あなたが司書として働く図書館が改装することになりました。「カード目録は、すべてパソコンで検索できるようになっているし、邪魔だからすべて廃棄処分しては」と後輩の司書が言っています。どう答えるか200字程度で書きなさい。(自分の考えを書く問題)(←私は遡及入力がすべて終わっていれば廃棄して良いとの考えで、研究例会当日の参加者も同じ意見で安心した。)
3.新NCRをどうやって教えるか
今年度は比較的時間の余裕がある旧科目で新しい内容を試し、新科目で実際に収まるかを試した。
3.1 著作の典拠コントロール
「著者名典拠」の最後で、「作品名でも固めたい」が始まりつつある、と説明をした。この内容は4年前から扱っている。
3.2 FRBRの4階層のモデル(1〜2回分)
実際のOPACの登録画面を見せ、"所蔵の登録は別画面になっている"と、階層の概念を視覚化した上で、4階層を簡単に説明し、"どこまでが別の著作で、どこからが表現形の違いか"について、「原作と映画化は別著作か表現形の違いか」をトピックとした。また、旧科目の受講生は音楽学部の学生2名だけだったため、もう授業1回分、クラシックをシンセサイザーにアレンジした曲などをとりあげ、あらためて90分かけて議論した。
3.3 関連指示子 (1回分)
新たに新NCRで定められた「著者」「作曲者」「演者」などの120の役割・「原作」「自由訳」「漫画化」などの270の関係などの関連指示子を示し、"リレーショナルデータベース"の構造となっていることを意識させた。実際のシステムを見せて説明ができないこともあり、「これは具体的にどうやって入力するんですか」の質問が出たが、具体的にイメージができている証拠だと捉えている。「各館に1人はこれができる司書がいるのか」「音大の学生はOPACにここまで求めていない」などの意見も出て、目録の将来像を考えられていると感じた。
4.発表者が思っていること
2018年の新科目、特に演習は時間が足らず、来年以降さらに工夫が必要だと考えている。
4.1 「演習」で新NCRを取り上げるには
著作・個人などのいろいろな実体(典拠)からリンクする形で書誌データを作る仕組みがわかる新NCR完全準拠のシステムが必要。「著作の属性を入力して"次へ"をクリックし、表現形の属性を入力して"次へ"をクリックして…」といった4階層が意識できるシステムがよいと考える。実装されていないと私の力では教えられない。ただし、「論」で新NCRのコンセプトを伝えることは意味があると考える。
4.2 授業の内容について
一般的な教科書の内容すべては教えられていない。例えば、ISBD区切り記号は覚えさせていない。今年の反省を踏まえ、さらに後2割ほどは内容を増やせると思うが、それ以上は難しい。
4.3 目録の面白さ・本質を伝える
おそらく伝えられていない。私のレベルを越えて、目録を面白いと思う学生を育てるには至っていないだろう。ただし、「BSHを作った人の顔を見てみたい」という感想は出たので、ある程度興味を持たせることはできたかと思っている。
質疑と意見交換
- (発表者)新NCRの著作と表現形の扱いについて。原作と映画化、原曲と編曲はどうなるのかは調べてもあいまいだった。教えてほしい。
- FRBR「3.2.1著作」で、「著作という観念が抽象的であるため、その実態の正確な境界線を定義することは困難」、ある著作を構成するのはどこかという境界線が分野、文化によって異なるとされている。著作か表現形かは、一体として考えないといけないから4階層になっているが実装では1つになる。
- 新NCRでは映画と原作は別の著作と考える。映画の創作者は誰かを考えた場合、通常は監督で、原作者を創作者とは考えないだろうから別ということ。その点で言えば編曲は微妙。音楽資料は館種によって、慣習に従えばよい。それぞれの分野の専門家が作成するのがよい。
- NCRでは現場で判断するようになっているところもある。RDAでもこの4階層はかっちりとは作られていない。NCRでもそのレベルは変わっていない。
- NCRの適用細則を館ごとに持ち、それで作成するのが原則だが、日本の公共図書館では歴史的に館ごとの細則を持っていないところが多い。NDLは2021年に適用細則を出すが、TRCを使うところも多い。
- 世界的なデータベース(DB)OCLC "Fiction Finder"などがある時代。個々の図書館で細則を固めることは考えず、世界中のDBと自分たちの蔵書をどうつないでいくか、と考えた方がよい。
目録の授業方法について
- 目録演習で使用されているEnjuはどのようなシステムか。
- (発表者)オープン・ソースのシステムで、ただNCR1987年版にも準拠していない。Excelや紙の様式に記入する授業もあると考えたが、コンピュータ目録の時代であるし、新NCR準拠システムがない以上、これがベストだと考えた。ただ、限られた件数の書誌を作成する授業となり、意味があるかどうかは私も迷っている。
- 新NCRで作られているデータがない状況では授業は仮想的におこなうしかない。最後はISBDの枠組みに落とし込んでいくしかない。
- 紙(様式)に手書きでもいいので、手を動かしてやってみることが大事。
- 資料から書誌を作成するというよりは、DBを検索して、同定識別の難しい事例をさせてはどうか。
- 今はカード目録を例に教えているが、すっぱりなくすという考え方もある。私たちは昔と比較して説明されると分かりやすいが、今の学生はカード目録を見たことがなく昔のことを知らない。新しい話だけ説明したほうが学生は分かりやすいこともある。
- 発表された授業内容では歴史について決定的に抜けている。カード目録や標目は歴史で扱うべきだ。記述目録法で3〜4時間。そして歴史と、実装のシステムをやる。実装システムにはそれぞれの良し悪しがある。NACSIS-CATだけではだめで、公共図書館のOPACと比較した方が伝わりやすい。NACSIS-CATでは雑誌は書誌単位で目録を取るが、公共のシステムでは物理単位で取る。
- この授業では基本概念が10個くらいある。用語解説が必要。目録記入と書誌レコードはどう違うのかなどを具体的に理解させる。
これから司書課程で学生に何を教えるべきか。
- RDF(Resource Description Framework)の考え方と、RDFとの関係で、文書のウェブに対してデータのウェブを教える必要があるのではないか。データを公開することで貢献し、データを取り込んで活用できるようになっていることを知ってほしい。
- 酒造り唄のデータベース構築を考える機会があり、主題にとって重要な要素を区分にするということで、どういう仕事の手順の時に唄うのか、言葉、曲想、場所、時代などを区分とした。分析合成型の考え方は正規の図書館員にならない学生に、これからの人生でなんらかの形で役に立つかもしれない。
- 演習1、2の授業を、情報資源組織論の本を読んで発表をする、という形で進めている。大学は専門学校ではない、業務は現場で学んだ方がよい。
- DBのダウンロード方法を教える。JLAの教科書では青空文庫からデータをダウンロードする方法を入れている。一度覚えたら役に立つ。
- NDC付与の演習。NDCが、なぜこのようなやり方をしているのかがわかってくる。
- 分類の演習問題は宿題で、授業で答え合わせ、NDCは授業期間中貸し出しをして持ち帰らせていた。理屈ではなく、身につくことが大事。3大ツールがネットで使える状況にある。工夫はできる。
目録の教え方について
- 公共図書館で、育成された学生を受け入れる立場。若い人に書誌の話をしても雲の上の話。実際はTRC MARCを落としている。書誌を作れるということが身をもってわかっていることは大事だ。RDFなどを例に、データの扱いの考え方を知っているのはよいこと。
- 郷土資料のデータは各館で作成しなければならない。書誌の作成の研修をする若手に何から教えたらいいか。
- 書誌作成は漫画やアニメなど、やさしいものから順々に、灰色文献や、版がはっきりしないようなものなど、一通りをやる。
- 教科書によっては、難しすぎると感じる問題しか載っていないものがある。限られた時間でやるのなら基本的な問題も載っていてほしい。
- カード目録の時代には参照はしても、著者名などの典拠を作っているところは国会図書館くらいだった。現在はweb authorities があり、それを駆使した方がよい。VIAF(バーチャル国際典拠ファイル)を知らせて、その使用方法も示したい。ディズニーで作品化された「美女と野獣」の原作名、件名では、地名の「竹島」や「ベネチア」の呼称もわかり役に立つ。
- NACSIS-CATのファイル構造、書誌レコードの持ち方とリンクの張り方は大事だ。ホームページを作るときリンクを張る。ファイル構造がわかっていないとできない。
- 機械可読、MARCの概念を整理して教えることが必要と考えている。
- 日本では民間MARCがいろいろあってややこしい。アメリカではMARC21で共通していて、OCLC、LC、出版社からもデータがくる。
- 共同分担目録について、Twitterのリツィートの話をすると学生は納得するようだ。
- 情報を組織化するとはどういうことかを学生に理解させたい。社会一般ではgoogle、電話帳、スーパーの商品陳列などがある、一方図書館では分類を用いており、NDCの補助表、地理(場所)、時代(時間)、言語などがある。
- 分類の場合には実際に資料を並べる。実際に本が並んでいるのを見ることが肝要。
(文責 高畑悦子)