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情報組織化研究グループ月例研究会報告(2019.11)

「図書館電子化と印刷会社:データベース実用化への潮流〜電子図書館への道〜産業用途展開へ」

山口和廣氏(元凸版印刷)


日時:
2019年11月23日(土)14:30〜17:00
会場:
京都大学附属図書館
発表者:
山口和廣氏(元凸版印刷)
テーマ:
「図書館電子化と印刷会社:データベース実用化への潮流〜電子図書館への道〜産業用途展開へ」
出席者:
荒木のりこ(国際日本文化研究センター)、今野創祐(京都大学)、川崎秀子(京都女子大学)、小西利枝、佐藤久美子(国立国会図書館)、中道弘和(堺市立図書館)、渡邊隆弘(帝塚山学院大学)、和中幹雄、他1名、山口<10名>

<概要>
 凸版印刷は「漢字情報処理システム」を日本で初めて開発し、コンピューターリテラシー黎明期にあたる1970年(昭和45年)に実務を開始した印刷会社として、図書館向けに「JAPAN MARC利用-目録作成システム」、「雑誌目録作成システム」、「論文目録作成システム」等を順次開発し、1981年(昭和56年)より実務処理を開始した。これらのシステムを大学図書館へ展開した事例を紹介する。
 更に、コンピューターのソフト・ハードバージョンアップと通信インフラに合わせた、PCやCD-ROM等による、図書館業務のコンピューター化での、その当時最先端のシステム開発事例の紹介を通して、その時代の図書館館員の図書館電子化への熱き思い・情熱・実現への困難を振り返り、ほぼ完成に近づくと思われる2020年に向けたNACSIS-CAT/ILLの軽量化・合理化への一つの指針を提示した。

1、はじめに

〇コンピューターリテラシー黎明期の背景
 1960年代は週刊・月刊誌の新規発行等で、書籍印刷の需要が激増して、印刷業界では人手不足が深刻になりつつあり、コンピューターでの対応を考え始めていた。
当時日本におけるコンピューターといえば「かな」、「カタカナ」での処理以外の概念は全くなく、印刷業界では漢字処理を模索していて、凸版印刷は富士通と共同で開発し、実用化にこぎつけて、業界に先駆けて1970年より運用を開始した。このシステムをCTS (Computerized Typesetting System:コンピューターによる組版システム)と命名した。但し開発当初より、概念として、漢字情報処理システムとして持っていて、単に組版代行の手段としてでなく、情報処理システムとして、開発・展開をしてきた。
その為、基本的には漢字は全て処理することを目指し、中国の康煕字典(訳47,000字)を根拠として、正字体として登録していて、同時に中国・簡体字、韓国・ハングル語やインド・梵字等も登録されていて、ちなみに、1988年時点では約55,000字、いわゆる世界の漢字圏は全て対応出来るシステムになっていた。

2、JAPAN MARC Hit処理〜大学MARC作成について

 近畿大学と共同開発(1981年〜1983年)
図:<JAPAN  MARC Hit処理〜大学MARC作成処理フロー>

2-1、JAPAN MARC Hit処理〜大学MARC作成による和書MARC作成実績

近畿大学、金城学院大学、立命館大学、龍谷大学、関西学院大学、花園大学、大阪産業大学、高野山大学、羽衣学園短期大学、夙川女子短期大学など。

2-2、TRC MARC Hit処理〜JAPAN MARC変換処理〜大学MARC作成による和書MARC作成実績

龍谷大学:長尾文庫目録→1986年4月から半年で作成。

3、学術雑誌総合目録(大学:東大文献センターMT処理)実績(1986年〜)

近畿大学、立命館大学、佛教大学、龍谷大学、関西学院大学、京都女子大学、私立短期大学図書館協議会近畿地区80校、大阪府公共図書館協会80館、国立民族学博物館、東海地区私立大学8校、外国雑誌センター館国立8大学:外国雑誌現行受け入れ目録など。

4、CD-ROM 制作について

4−1、佛教大学 印度学仏教関係論文目録 「BUDDAS」CD-ROM版 概要

項目 内容
掲載誌 図書館報「常照」:仏教関係論文目録(年2回発行)→1974年から掲載
高い挑戦 ・UNISIST(Universal Standard for Information of Science & Technology→「国際科学技術情報流通技術基準」仕様
・論文目録のCD-ROM化日本初
データ蓄積期間 1983年からCTSによる電子化:1983〜1989年+遡及分=1万件
CD-RO化提案 1983年から
開発期間 1987年CD-ROM化構想→1989年UNISIST仕様で制作要請→1990年完成
データ処理期間 1987〜1990年(キーワード処理苦戦)

 ※詳細については、松室隆宗、川崎秀子共著「仏教学関係論文目録のCD-ROM化」『情報技術と図書館―小田泰正先生追悼論文集』pp.261-284(1995年3月刊)に記載。

4−2、関西学院大学 開架室蔵書目録 検索システム

開発の目的 項目
大型コンピューター移行時のDB運営の低予算での経験 パソコン+CD-ROM(スタンドアロン→簡易管理)
利用者の多いい場所 開架室:利用者もOPAC経験が出来る(将来オンラインの補完としても視野)
DBが蓄積できる 新刊受け入れ(開架室蔵書数:7万冊→1枚のCD-ROM で収納可能)
開発期間 1990年5月から11月の7ヶ月

〇佛教大学「BUDDAS」、関西学院大学「開架室蔵書目録」CD-ROM見本
写真:〇佛教大学「BUDDAS」、関西学院大学「開架室蔵書目録」CD-ROM見本

〇佛教大学「BUDDAS」 フロント画面
写真:〇佛教大学「BUDDAS」 フロント画面

5、大学図書館で学んだこと

項目 内容 ソフト 大学
データベース JAPAN MARC、TRC MARC ディファクトスタンダード 近畿大学、龍谷大学、金城学院大学など
パソコン+CD-ROM 開架室蔵書目録 検索システム スタンドアロン運営 関西学院大学
国際基準 仏教学関係論文目録 CD-ROM版 ディファクトスタンダード 佛教大学

〇最大の学習
 特にJAPAN MARCを利用した各大学MARC作成システム開発には、共に勉強しながら開発に1年かかり、大学図書館のMARC作成には、発注者や業者という垣根を超え、両者一体となっての作業が必要不可欠なことを学び、貴重な体験をした、後の一般企業のシステム展開に大変に役立った。

6、電子図書館への道

 新世代通信網実験協議会「BBCC」:実験参加
BBCCとはBroadband-network Business chance Culture & Creationの略で、目前に迫るマルチメディア時代に向けて、B-ISDNのより実験的なアプリケーションを目指して、京阪奈関西文化学術研究都市の「けいはんなプラザラボ棟」11Fに国内初の機関として、1992年に設立された。共通アプリケーションと特定アプリケーションの実験が有り、凸版印刷へは、大学図書館での実績をもとに参加要請があり、特定アプリケーションでの実験に参加した。
(注)B-ISDN:Broadband-Integrated Services Digital Networkの略で、広帯域統合デジタル・通信サービス

6-1、特定アプリケーション参加一覧

項目 共同実験会社
1994〜1997 電子カタログを用いたマルチメディア通信販売 シャディ
1995〜1998 SHDモニター超高精細映像を用いたサテライト電子編集・印刷の研究 Lマガジン社、関西DTP協会
1996〜1997 電子図書館応用実験-カタログ図書(SGML) シャープ(電子部品データ)、富士通
1999〜2000 国立国会図書館と連携した電子図書館の実証実験 国立国会図書館

(注)
・SHDモニター:Super High Definitionの略で、Hi-Visionの4倍の解像度を持った超高精細モニター(2000×2000)
・SGML(Standard Generalized Markup Language):1986年ISO(ISO8879)が制定した文書記述のための国際汎用データベースフォーマットで、文書データの多目的利用と異機種コンピューター間の文書交換が可能となる文書の表現形式のことである。後にHTML→XML→XHTMLに展開し

6-2、国立国会図書館などとの電子図書館実証実験一覧

年/月 項目 技術・トピックス
1999 BBCC 国立国会図書館西館2002年開館に向けて:BBCC電子展示会プロジェクト
1999 国立国会図書館 国立国会図書館と連携した電子図書館システム実証実験
国立国会図書館テーマ;ジャニーズメモリー日本の記憶:日本の風景記憶;江戸・上方
書誌情報・画像の提示+新しい検索・情報提示の手法を開発→高い評価
「立体構造(baumkuchen)型データベース」検索;双方向・横断検索性という「電子展示」のメリットを最大限実現、又電子図書館の素材管理・運用の器としても利用
2000 日本の風景記憶:守貞漫稿;日本の風俗
知的好奇心を刺激し知識連鎖を可能にする「電子展示会」実験;新立体構造型データベース開発
2001 国際日本文化研究センター 「中国残存金剛仏の調査研究」→電脳金堂:中国金剛仏データベース;「VFZ(Vector Format Zooming→5〜1200%拡大縮小)画像フォーマット」「3DMall(360度回転)」によるダイナミックな画像表示などのソフトで制作・検証

7、産業用途への展開

 〇図書館の経験を生かしていよいよ産業用途へ

7-1、産業用途シフトの時代背景と要因

7-1-1、J-BISC (JAPAN MARC CD-ROM版)の実現で、どの図書館でもパソコンで自館MARC作成が可能になった。MARC代行作成の使命終了→IT業界の宿命
7-1-2、1981年からのIT産業の豊富な経験
7-1-3、IT 産業の3大要素の電子図書館での豊富な経験とノウハウ一覧
販売年 販売システム名 システム メディア 特徴
1995 GAMEDIOS 商品情報総合データベース インターネット 業界横断型ワンソースマルチメディアデータベースサーバー
1996 Media Press 商品情報印刷データベース CD-ROM 印刷アプリ、汎用ソフト(パワーポイントなど)へ連動
2002 Media Press Net 商品情報印刷データベース 上記のインターネット版 印刷アプリ、汎用ソフト(パワーポイントなど)へ連動

項目 開発業務 ソフト 大学・企業
データベース JAPAN MARC、TRC MARCを利用しての各大学図書館MARC作成 ディファクトスタンダード 近畿大学、龍谷大学など
パソコン業務で合理化 開架室蔵書目録業務:パソコン+CD-ROM運用システム開発 スタンドアロンワークフロー 関西学院大学
技術標準 仏教学関係論文目録(CD-ROM版検索目録):UNISIST仕様で開発 世界標準 佛教大学
オンデマンド BBCC :電子部品データベースのSGML化 インターネットによるプリントオンデマンド シャープ
マルチメディア 京都地区大学研究者データベースのSGML化(インターネット版、CD-ROM版、冊子体) ワンソースマルチメディア 大学コンソーシアム京都

これらの資料は、日本における漢字情報処理によるデータベースの先駆けであり、先人の情熱・苦労を忘れることなく、更に電子図書館の発展にいる。

(記録文責:山口和弘)