TOP > 月例研究会 > 2019 > / Last update: 2021.2.10
<概要>
凸版印刷は「漢字情報処理システム」を日本で初めて開発し、コンピューターリテラシー黎明期にあたる1970年(昭和45年)に実務を開始した印刷会社として、図書館向けに「JAPAN MARC利用-目録作成システム」、「雑誌目録作成システム」、「論文目録作成システム」等を順次開発し、1981年(昭和56年)より実務処理を開始した。これらのシステムを大学図書館へ展開した事例を紹介する。
更に、コンピューターのソフト・ハードバージョンアップと通信インフラに合わせた、PCやCD-ROM等による、図書館業務のコンピューター化での、その当時最先端のシステム開発事例の紹介を通して、その時代の図書館館員の図書館電子化への熱き思い・情熱・実現への困難を振り返り、ほぼ完成に近づくと思われる2020年に向けたNACSIS-CAT/ILLの軽量化・合理化への一つの指針を提示した。
〇コンピューターリテラシー黎明期の背景
1960年代は週刊・月刊誌の新規発行等で、書籍印刷の需要が激増して、印刷業界では人手不足が深刻になりつつあり、コンピューターでの対応を考え始めていた。
当時日本におけるコンピューターといえば「かな」、「カタカナ」での処理以外の概念は全くなく、印刷業界では漢字処理を模索していて、凸版印刷は富士通と共同で開発し、実用化にこぎつけて、業界に先駆けて1970年より運用を開始した。このシステムをCTS (Computerized Typesetting System:コンピューターによる組版システム)と命名した。但し開発当初より、概念として、漢字情報処理システムとして持っていて、単に組版代行の手段としてでなく、情報処理システムとして、開発・展開をしてきた。
その為、基本的には漢字は全て処理することを目指し、中国の康煕字典(訳47,000字)を根拠として、正字体として登録していて、同時に中国・簡体字、韓国・ハングル語やインド・梵字等も登録されていて、ちなみに、1988年時点では約55,000字、いわゆる世界の漢字圏は全て対応出来るシステムになっていた。
近畿大学と共同開発(1981年〜1983年)
近畿大学、金城学院大学、立命館大学、龍谷大学、関西学院大学、花園大学、大阪産業大学、高野山大学、羽衣学園短期大学、夙川女子短期大学など。
龍谷大学:長尾文庫目録→1986年4月から半年で作成。
近畿大学、立命館大学、佛教大学、龍谷大学、関西学院大学、京都女子大学、私立短期大学図書館協議会近畿地区80校、大阪府公共図書館協会80館、国立民族学博物館、東海地区私立大学8校、外国雑誌センター館国立8大学:外国雑誌現行受け入れ目録など。
項目 | 内容 |
---|---|
掲載誌 | 図書館報「常照」:仏教関係論文目録(年2回発行)→1974年から掲載 |
高い挑戦 | ・UNISIST(Universal Standard for Information of Science & Technology→「国際科学技術情報流通技術基準」仕様 |
・論文目録のCD-ROM化日本初 | |
データ蓄積期間 | 1983年からCTSによる電子化:1983〜1989年+遡及分=1万件 |
CD-RO化提案 | 1983年から |
開発期間 | 1987年CD-ROM化構想→1989年UNISIST仕様で制作要請→1990年完成 |
データ処理期間 | 1987〜1990年(キーワード処理苦戦) |
※詳細については、松室隆宗、川崎秀子共著「仏教学関係論文目録のCD-ROM化」『情報技術と図書館―小田泰正先生追悼論文集』pp.261-284(1995年3月刊)に記載。
開発の目的 | 項目 |
---|---|
大型コンピューター移行時のDB運営の低予算での経験 | パソコン+CD-ROM(スタンドアロン→簡易管理) |
利用者の多いい場所 | 開架室:利用者もOPAC経験が出来る(将来オンラインの補完としても視野) |
DBが蓄積できる | 新刊受け入れ(開架室蔵書数:7万冊→1枚のCD-ROM で収納可能) |
開発期間 | 1990年5月から11月の7ヶ月 |
〇佛教大学「BUDDAS」、関西学院大学「開架室蔵書目録」CD-ROM見本
〇佛教大学「BUDDAS」 フロント画面
項目 | 内容 | ソフト | 大学 |
データベース | JAPAN MARC、TRC MARC | ディファクトスタンダード | 近畿大学、龍谷大学、金城学院大学など |
パソコン+CD-ROM | 開架室蔵書目録 検索システム | スタンドアロン運営 | 関西学院大学 |
国際基準 | 仏教学関係論文目録 CD-ROM版 | ディファクトスタンダード | 佛教大学 |
〇最大の学習
特にJAPAN MARCを利用した各大学MARC作成システム開発には、共に勉強しながら開発に1年かかり、大学図書館のMARC作成には、発注者や業者という垣根を超え、両者一体となっての作業が必要不可欠なことを学び、貴重な体験をした、後の一般企業のシステム展開に大変に役立った。
新世代通信網実験協議会「BBCC」:実験参加
BBCCとはBroadband-network Business chance Culture & Creationの略で、目前に迫るマルチメディア時代に向けて、B-ISDNのより実験的なアプリケーションを目指して、京阪奈関西文化学術研究都市の「けいはんなプラザラボ棟」11Fに国内初の機関として、1992年に設立された。共通アプリケーションと特定アプリケーションの実験が有り、凸版印刷へは、大学図書館での実績をもとに参加要請があり、特定アプリケーションでの実験に参加した。
(注)B-ISDN:Broadband-Integrated Services Digital Networkの略で、広帯域統合デジタル・通信サービス
年 | 項目 | 共同実験会社 |
1994〜1997 | 電子カタログを用いたマルチメディア通信販売 | シャディ |
1995〜1998 | SHDモニター超高精細映像を用いたサテライト電子編集・印刷の研究 | Lマガジン社、関西DTP協会 |
1996〜1997 | 電子図書館応用実験-カタログ図書(SGML) | シャープ(電子部品データ)、富士通 |
1999〜2000 | 国立国会図書館と連携した電子図書館の実証実験 | 国立国会図書館 |
(注)
・SHDモニター:Super High Definitionの略で、Hi-Visionの4倍の解像度を持った超高精細モニター(2000×2000)
・SGML(Standard Generalized Markup Language):1986年ISO(ISO8879)が制定した文書記述のための国際汎用データベースフォーマットで、文書データの多目的利用と異機種コンピューター間の文書交換が可能となる文書の表現形式のことである。後にHTML→XML→XHTMLに展開し
年/月 | 項目 | 技術・トピックス |
1999 | BBCC | 国立国会図書館西館2002年開館に向けて:BBCC電子展示会プロジェクト |
1999 | 国立国会図書館 | 国立国会図書館と連携した電子図書館システム実証実験 |
国立国会図書館テーマ;ジャニーズメモリー日本の記憶:日本の風景記憶;江戸・上方 | ||
書誌情報・画像の提示+新しい検索・情報提示の手法を開発→高い評価 | ||
「立体構造(baumkuchen)型データベース」検索;双方向・横断検索性という「電子展示」のメリットを最大限実現、又電子図書館の素材管理・運用の器としても利用 | ||
2000 | 日本の風景記憶:守貞漫稿;日本の風俗 | |
知的好奇心を刺激し知識連鎖を可能にする「電子展示会」実験;新立体構造型データベース開発 | ||
2001 | 国際日本文化研究センター | 「中国残存金剛仏の調査研究」→電脳金堂:中国金剛仏データベース;「VFZ(Vector Format Zooming→5〜1200%拡大縮小)画像フォーマット」「3DMall(360度回転)」によるダイナミックな画像表示などのソフトで制作・検証 |
〇図書館の経験を生かしていよいよ産業用途へ
販売年 | 販売システム名 | システム | メディア | 特徴 |
1995 | GAMEDIOS | 商品情報総合データベース | インターネット | 業界横断型ワンソースマルチメディアデータベースサーバー |
1996 | Media Press | 商品情報印刷データベース | CD-ROM | 印刷アプリ、汎用ソフト(パワーポイントなど)へ連動 |
2002 | Media Press Net | 商品情報印刷データベース | 上記のインターネット版 | 印刷アプリ、汎用ソフト(パワーポイントなど)へ連動 |
項目 | 開発業務 | ソフト | 大学・企業 |
データベース | JAPAN MARC、TRC MARCを利用しての各大学図書館MARC作成 | ディファクトスタンダード | 近畿大学、龍谷大学など |
パソコン業務で合理化 | 開架室蔵書目録業務:パソコン+CD-ROM運用システム開発 | スタンドアロンワークフロー | 関西学院大学 |
技術標準 | 仏教学関係論文目録(CD-ROM版検索目録):UNISIST仕様で開発 | 世界標準 | 佛教大学 |
オンデマンド | BBCC :電子部品データベースのSGML化 | インターネットによるプリントオンデマンド | シャープ |
マルチメディア | 京都地区大学研究者データベースのSGML化(インターネット版、CD-ROM版、冊子体) | ワンソースマルチメディア | 大学コンソーシアム京都 |
これらの資料は、日本における漢字情報処理によるデータベースの先駆けであり、先人の情熱・苦労を忘れることなく、更に電子図書館の発展にいる。
(記録文責:山口和弘)